若き蔵人が守り抜く伝統と歴史。鹿児島の大地が生んだ麗しき芋焼酎。後編[World SAKE KAGOSHIMA/鹿児島県]

2021.11.17

World SAKE KAGOSHIMA/Journey2

PICK UP鹿児島

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いちき串木野市・白石酒造にて。

鹿児島本格焼酎を巡る旅

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鹿児島の自然をそのままボトルに詰める。自らさつま芋栽培をてがける杜氏。

「鹿児島の蔵人が焼酎にこめる熱い思いに直にふれてほしい」
十数年に渡り世界を旅しながら各地の食や酒に精通してきた美食家・本田直之氏のそんな願いから始まった、酒蔵巡り。目黒『鳥しき』の池川義輝氏、麻布十番『十番右京』の岡田右京氏、渋谷『酒井商会』の3名とともに、5軒の焼酎蔵を訪ねました。
「いま、鹿児島の若手蒸溜家たちは、なんとかして焼酎業界を盛り上げようと並々ならぬ努力を積んでいます。その表現方法のひとつとして、思いを味わいに変える技術を磨いている。事前に東京でテイスティングした際にも、一口飲んだだけで、酒蔵の熱量が伝わってくるんです。というのも、香りが華やかで洗練されているほど、酒蔵の努力が結実しているということだから。今回の蔵元巡りでは、その中でも特に個性の強かった5軒をピックアップしています」とは、今回の参加者の一人であり、ワインテイスターの大越基裕氏。
作り出す味わいや香りの表現方法は酒蔵によってさまざまです。小規模だからこそ実現できる手作業にこだわる造り手、大規模な敷地と工場を持つ強みをいかす蔵元。実際に訪問してみることで、そうした個性が見えてきます。
いちき串木野市の『白石酒造』の五代目当主の白石貴史氏は、10年ほど前から地域の休耕畑を借りて、自社で無農薬のさつま芋栽培に取り組み始めました。除草剤も肥料も使わない理由は、そうすることで畑の土や芋が野生化し、自分の力で生きようとするようになるから。すると、虫に食われにくい強い芋が育つのです。
「焼酎は、さつま芋や水、大地が融合したお酒。発酵具合も含めて、自然の産物としてできあがる飲み物なので、自分はなるべく手を加えずに、自然のままの味をとどけたい」と、白石氏。
ただし、白石氏の手法では、畑を休ませながら芋を栽培する必要があるため、生産量がごくわずかになってしまいます。農薬や堆肥などを使った、一般的な芋農家のつくり方に比べ、同じ面積の畑でとれる芋の量は半分ぐらいといわれています。採算が悪くてもこの方法にこだわるのは「自分のやり方で栽培したさつま芋のほうが果物のように甘くて味わいも豊かで、他の芋より圧倒的に美味しかったんです」という至極シンプルな理由。それゆえ、できあがる芋焼酎は心地よい芋の香りと風味があって、余韻も長く残るのは当然でしょう。小さな蔵だからこそ貫ける職人の手仕事。白石氏は、愚直なまでにそれを追求しています。
こうして完成した『白石酒造』の代表銘柄「天狗櫻」は果物感を感じる独特の風味があり、総甕壺仕込みによる丸みもあるのが特徴。「沁み渡るようなやわらかい飲み口ですね」と大越氏も、しみじみと味わっていました。

杜氏の白石氏が開墾した畑で、自然栽培したさつま芋。その芋で造る焼酎は甘く、香りも豊か。

杜氏の白石氏が開墾した畑で、自然栽培したさつま芋。その芋で造る焼酎は甘く、香りも豊か。

テイスティングする池川氏。「無農薬、無肥料で栽培した芋で造る焼酎はテクスチャーがやわらかく、しみ入りますね」。

テイスティングする池川氏。「無農薬、無肥料で栽培した芋で造る焼酎はテクスチャーがやわらかく、しみ入りますね」。

白石酒造の代表銘柄「天狗櫻」をモチーフにした外装。

白石酒造の代表銘柄「天狗櫻」をモチーフにした外装。

鹿児島本格焼酎を巡る旅

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大規模な酒蔵の強みを生かし、鹿児島焼酎ファンの裾野を広げる。

一方、日置市の『小正醸造』は年間の焼酎の生産量約2万石を誇る大手酒蔵。100名以上の従業員とともに、全国大手スーパーに流通する焼酎を大量生産するかたわらで、限定生産のこだわりの焼酎まで幅広く造っています。仕込みの時期には1日に30〜50トンもの大量の芋を選別しますが、地域社会とのつながりを大切にしているのも『小正醸造』のこだわり。工場内のホワイトボードには、常に、その日に扱っている芋の生産者の顔写真と名前が掲示されているのです。
「大規模な酒蔵ならではの生産力をいかして、全国に本格焼酎を流通させ鹿児島焼酎の飲み手の裾野を広げている一方で、ハンドメイドの心意気も持ち合わせたマルチプレーヤー」と評価するのは、岡田氏。限定生産の「蔵の師魂 The Green」は、ワイン酵母「ソーヴィニヨン・ブラン」から採取された酵母を使用して発酵、蒸溜した焼酎で、爽やかな香りと、まろやかなコクが特徴です。
「テクスチャーがまろっとしていてふくよかで、コクがある。メロンのような甘さ、程よい酸味のある味わいで、白ワインを感じるような香味もすばらしいですね」と岡田氏は続けます。
さらに『小正醸造』では、地域の小中一貫校・日吉学園と手を組んで「My焼酎づくり」と称したプロジェクトも実施しています。これは、中学3年生の生徒が卒業記念に、自分たちで育てた芋を使い、焼酎を造り、ラベル・化粧箱もすべて手造りし、20歳になる日まで熟成させる、という内容。開始からすでに15年ほど続いているプロジェクトなのだそう。
「鹿児島には数多の焼酎があれども、やっぱり、自分が住んでいる地域の味を大事にしたい、という思いが強い。“おらが村の焼酎”という言葉は、その象徴。鹿児島の焼酎、と一緒くたにしてしまうのではなく、日置市には日置市の味がある、と地域の子ども達に認識してもらえる機会にしています」と、社長の小正倫久氏は話します。

広大な敷地を誇る『小正醸造』の日置蒸溜蔵。

広大な敷地を誇る『小正醸造』の日置蒸溜蔵。

蒸溜後の原酒を熟成させる貯蔵タンク。この工程を経て、焼酎の味わいがよりまろやかになる。

蒸溜後の原酒を熟成させる貯蔵タンク。この工程を経て、焼酎の味わいがよりまろやかになる。

大規模な酒蔵の強みを生かした、豊富なラインナップ。中央の緑のラベルが「蔵の師魂 The Green」。

大規模な酒蔵の強みを生かした、豊富なラインナップ。中央の緑のラベルが「蔵の師魂 The Green」。

鹿児島本格焼酎を巡る旅

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鹿児島の若手蔵人の情熱に触れた2日間。

5蔵を巡ってみて見えてきたのは、江戸時代中期から続く芋焼酎の伝統と歴史を自分なりに解釈し、それぞれの「最高の焼酎」を表現しながら、若手蔵人たちが切磋琢磨しているということ。
日本酒造りの経験を活かし、その麹造りのノウハウを焼酎に持ち込んだり、焼酎業界のタブーに切り込みシェリー樽で熟成した焼酎を造ったり、ジン造りなども積極的に行い、香りに焦点をあて焼酎を造るなど、革新的な焼酎造りに挑む蔵がある一方で、さつま芋栽培から手掛けるテロワールを感じる焼酎造り、地元とのつながりを大切にしたプロジェクトを続ける、地域・風土を感じさせる焼酎造りを行う蔵もある。それぞれが違うベクトルを示しつつも、根底にあるのは美味しい焼酎を造ることであり、素晴らしき鹿児島の焼酎文化をより多くの人に知ってもらうこと。
こうした強い情熱を持つ5蔵を実際に訪問してみて、目黒『鳥しき』の池川氏は「5蔵の焼酎のいずれかをお店に入れさせてもらいながら、焼鳥と焼酎のより具体的なペアリングを提案していきたい」と言います。たとえば、フルーティーな香りがウリの焼酎には、焼鳥のなかでも特に脂の少ない部位と合わせてみるなど、焼酎のフレーバーが豊富で、酒蔵の個性も豊かになっているぶんだけ、ペアリングの楽しみ方も奥深くなっていくはず、と感じたそう。また、渋谷『酒井商会』の酒井氏も「お店では常時20種類ほど焼酎を揃えているので、5蔵のお酒のどれかを加えたいです」と、鹿児島焼酎の魅力を堪能した様子。麻布十番『十番右京』の岡田氏の「ソーダ割の爽やかさや、飲みやすさを、普段焼酎を飲まない人にも伝えていけるメニューを展開していきたいです!」と、感想を述べています。
世界中を旅してきた本田氏は、最後にこの言葉で今回の旅を締めくくりました。
「鹿児島はとにかく土地のパワーが強い。この地で育った人が、この土地で育った芋で焼酎を造るわけだから、できあがった焼酎もパワフルで奥行きの深いものになる。一口飲めば、味からその情熱が伝わってきます。これだけ鹿児島焼酎が盛り上がっているんだ、ということを、全国のみなさんにも飲んでいただき、ぜひ感じてみてほしいですね」

焼酎をソーダで割る飲み方も一般的になってきた。炭酸とともに弾ける焼酎の香りが鼻孔をかすめ、爽やかに飲める。

焼酎をソーダで割る飲み方も一般的になってきた。炭酸とともに弾ける焼酎の香りが鼻孔をかすめ、爽やかに飲める。

Data

白石酒造

住所:鹿児島県いちき串木野市湊町1丁目342 MAP
電話:0996-36-2058
https://www.honkakushochu.or.jp/kuramoto/741/

小正醸造

住所:鹿児島県日置市日吉町日置3309 MAP
電話:099-292-3535
http://www.komasa.co.jp/

鳥しき

住所:東京都品川区上大崎2-14-12 MAP
電話:03-3440-7656

十番右京

住所:東京都港区麻布十番2-8-8 ミレニアムタワー B1F MAP
電話:03-6804-6646
https://jubanukyo.localinfo.jp/

創和堂

住所:東京都渋谷区広尾1-12–15 リバーサイドビル 1F MAP
電話:080-8040-4822
https://sakai-shokai.jp/

鹿児島県酒造組合

住所:鹿児島県鹿児島市錦江町8−15
電話:099-222-2678
https://honkakushochu-soda.jp/
Photograph:YOHEI MURAKAMI(Digital Homeless)
Text:AYANO YOSHIDA

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