鹿児島芋焼酎の新たな可能性。模索する若き蔵人たちの情熱に触れる旅。前編[World SAKE KAGOSHIMA/鹿児島県]

PICK UP鹿児島

SHARE THIS ARTICLE

鹿児島本格焼酎を巡る旅

World SAKE KAGOSHIMA/Journey1

日本酒蔵での修業で得た麹の知見。蔵に眠る種麹菌が焼酎造りを変える。

東京都内で活躍する料理人が、世界各地の酒と食に精通する美食家・本田直之氏と、日本有数のワインテイスターである大越基裕氏のアテンドで鹿児島の焼酎蔵を巡る2日間。その焼酎旅に参加したメンバーも、やはりすごい顔ぶれでした。目黒『鳥しき』の池川義輝氏、麻布十番『十番右京』の岡田右京氏、渋谷『酒井商会』の酒井英彰氏の3名という、いずれも東京を代表する名店の店主たちです。
この旅で最初に訪れた霧島市『中村酒造場』の新銘柄「Amazing」は、実は酒井氏がすでに『酒井商会』にボトルを置いている銘柄でした。ハロウィンスイート(オレンジ芋)という品種のさつま芋を使用し、グレープフルーツやライムのようなフルーティーな香りと、紅茶のアロマが重なった、繊細かつ華やかさが特徴の焼酎です。「飲み口がやわらかくて、かつ芋の香りと柑橘の香りが調和して清涼感があります。僕はこの味が大好き」と、酒井氏はこの焼酎が好きな理由を語ります。
では、その秘密はどこにあるのか。酒井氏が絶賛する「やわらかさ」を演出している要因のひとつに、1888年の創業時から使用している麹室に生息する「室付き麹」の存在があります。
六代目の中村慎弥氏は、東京農業大学醸造科学科で酒造りの科学的な側面を学んだ後、山形の日本酒蔵に弟子入り。2012年に蔵に戻り、2017年から杜氏(製造責任者)となり家業を継いだ際、「焼酎造りに、日本酒造りから学んだ麹造りの知恵を取り入れたら、蔵の新たな代表作を造れるはず」と志します。
そこで、多くの酒蔵が専門業者から種麹を入手しているところ、中村氏は蔵で一から種麹を育てるための研究を始めます。その矢先、『中村酒造場』の蔵にはすでに生の種麹菌が生息していることを発見、微生物を育て、発酵を経て、焼酎を造り上げることに成功しました。焼酎造りにおいて、芋の扱いにはどの蔵も力を入れていますが、芋と同じように麹にこだわる人はまだ少ない。
「麹をもっと重視することで焼酎の味わいがまろやかになるという“気付き”と、実は酒蔵に種麹菌が住んでいたという僕自身の“驚き・発見”にちなみ、『Amazing』と名付けました。飲んだ方がワクワクするような酒質を目指します」と、中村氏。
焼鳥職人の池川氏も「とてもなめらかで、口のなかで余韻が続くので、焼鳥の脂をきってくれる力もありそう」と、焼き鳥とのマリアージュに期待します。

『中村酒造場』の創業当時から使い続けている麹室にはオリジナルの種麹菌が生息していた。

『中村酒造場』の創業当時から使い続けている麹室にはオリジナルの種麹菌が生息していた。

渋谷『酒井商会』の料理人、酒井氏は、もともと「Amazing」の大ファン。

渋谷『酒井商会』の料理人、酒井氏は、もともと「Amazing」の大ファン。

鹿児島本格焼酎を巡る旅

World SAKE KAGOSHIMA/Journey1

もっと自由な芋焼酎造りを追求した“ユートビア”。

中村氏が麹を通じて焼酎作りに新たな風を送り込んでいるように、若手蔵人たちは芋焼酎の魅力を引き出しつつ、進化させる方法を模索しています。次に訪ねた『小牧醸造』の専務・小牧伊勢吉氏は、今秋、「あえて焼酎造りのタブーに踏み込んだ」という新作を発表しました。その名も「ユートピア」。『小牧醸造』の代表銘柄「一尚シルバー」をバーボン樽で 熟成させたあと、さらにシェリー樽で熟成させた原酒 を加えた芋焼酎です。原酒が持つスモーキーさと樽の 香りが相まってドライな風味を生み出し、かつ、甘味 とフルーティーさがやわらかく調和した力作だそう。
「焼酎造りにおいて、液体に色を帯びさせるのはご法度とされてきました。焼酎は透明でなければならない。でも、『ユートピア』は洋酒の木樽で熟成させて、ほんのりとした黄金色に仕上げているんです」
すると芋の香りがさらにまろやかになり、香りも豊かになるのだという。
「もっと自由に、もっと楽しみながら、もっと美味しい芋焼酎を造りたい。その理想郷としてこの焼酎がある」と、ネーミングに込めた思いを語ってくれます。
ただ、画期的な取り組みを行いながらも、芋焼酎の歴史とアイデンティティへの敬意も失っていません。『小牧醸造』では、通常の何倍もの時間と労力をかけて、芋の選定と水洗いを行っています。芋を水洗いし、人間が目視で芋の選定作業を行うのは、ほかの多くの蔵元に共通する工程ですが、『小牧醸造』では、さらに芋を3種類の機械に通して洗浄。そのうえでたわしを用いて人の手で細かな溝に入った泥を丁寧に落としていき、痛んでいる部分を取り除いていきます。
その徹底した仕事に対して、「ここまで手をかけることにより、雑味のない、クリアで洗練された味わいの焼酎に仕上がっていますね。ソーダ割にしたら、普段強いお酒を飲まない人にも好まれそう」と、岡田さんは話します。

蒸したばかりのオレンジ芋。フルーティな香りが特徴。

蒸したばかりのオレンジ芋。フルーティな香りが特徴。

本田氏と大越氏を含めて、3人の料理人が木樽を熟成させる蔵の前でテイスティング。

本田氏と大越氏を含めて、3人の料理人が木樽を熟成させる蔵の前でテイスティング。

右から3番目が「ユートピア」。アルコール度数が40度を超える銘柄は、透明のボトルを使用。

右から3番目が「ユートピア」。アルコール度数が40度を超える銘柄は、透明のボトルを使用。

image

焼酎を熟成させる甕。地中に埋まっているスタイルが特徴だ。

鹿児島本格焼酎を巡る旅

World SAKE KAGOSHIMA/Journey1

華やかな香りの焼酎を、シュワっとソーダ割で楽しむ。

ところで、お湯割にして飲むイメージが強い芋焼酎ですが、鹿児島焼酎の若手蔵人たちが最近お勧めしているのは、シュワシュワっとした爽快感や開放感が魅力のソーダ割。香り高い焼酎が増え、炭酸と相性の良さをウリにする銘柄も数多く誕生しています。そんな傾向に対してソムリエの大越基裕氏はこう語ります。
「なんといっても、焼酎はフレーバーを楽しむ飲み物。蒸溜させて造るので味わいやボディがすっきりと仕上がり、ほぼ無味に近くなる分、フレーバーの個性が際立ってきます。そのうえで、最近は各酒蔵が、いわゆる“芋臭さ”を取り除き、芋がもつフルーティーな香りやあまやかさを引き立てる造り方を極めてきています。銘柄の数だけフレーバーの選択肢が増えているといっても過言ではなく、自分のお気に入りのフレーバーの焼酎を見つける愉しさも生まれてきているのです」
焼酎は「香りを楽しむ飲み物」だと、もっと多くの人に知ってほしい。そんな思いから、指宿市『大山甚七商店』の専務・大山陽平氏は大胆なチャレンジを続けています。2021年に「お酒に振りかける香水」としてビターズ「PUSH BITTERS」を製造開始。さらに、今年夏には新ハイブリッド蒸溜機を導入。明治8年の創業以来培ってきた焼酎の蒸溜のノウハウを生かして、同じ蒸溜酒であるクラフトジン造りにも力をいれています。また、東京都内でシナモンやコーラの実を使ってクラフトコーラ造りをしている伊良コーラとコラボレーション。クラフトコーラのスパイスの風味と芋のフルーティーな香りを見事に融合させた「伊良コーラ酎」を販売しました。
「遊び心を盛り込んだ存在感のある焼酎で、まずは若い飲み手に親しみをもってもらう。それを入り口に、伝統的な芋焼酎の世界に興味を持っていただけたら」と話すのは、陽平氏の父であり、代表取締役社長の修一氏。
「当蒸溜所の理念は温故知新。スピリッツ・リキュールの製造といった新しい分野を開拓しながらも、先代から受け継いだ本格焼酎の秘伝の製法や味わいも守り抜いています」とその思いを語ります。
代表銘柄のひとつ「甚七」は、黄金千貫という品種のさつま芋を原料とし、黒麹で醸した銘柄。仕込み水は蔵のある宮ヶ浜から湧き出るミネラル豊富な地下天然水を使用し、初代から受け継いだ甕壺で仕込み、常圧蒸溜で蒸溜という伝統的製法で造っています。
「原酒をタンクで長期間貯蔵熟成することで、焼き芋のような香ばしさが引き出されている。また、黒麹特有のきめの細かい旨みがありながら、すっきりとキレの良い焼酎ですね」と酒井氏はコメントします。
修一氏は、若手たちの挑戦をあたたかく見守っています。
「20代、30代の造り手を中心に『焼酎業界をもっと盛り上げるぞ』という意気込みを感じています。私は63歳で、自分の近い世代の感覚としては、伝統的なお湯割の文化をもっと広めたいという思いもあります」
それと同時に、ソーダ割で飲んだり、フルーティな香りを強調したりといった、若い造り手たちの新しい感覚にも共感。
「焼酎の世界って、割と新しいものに対して柔軟なんです。酒税法の範囲内で遊ぶ分にはいいでしょ、って(笑)。作り手が楽しみながら生産した焼酎を、県外の人にも面白がりながら飲んでもらえるとを期待しています」

長期貯蔵所「甚七伝承蔵」。甕熟成、ステンレスタンク熟成、樽熟成を行う。

長期貯蔵所「甚七伝承蔵」。甕熟成、ステンレスタンク熟成、樽熟成を行う。

醸造所の脇にある事務所の一画にはバーカウンターが備えられ、テイスティングを行うことができる。

醸造所の脇にある事務所の一画にはバーカウンターが備えられ、テイスティングを行うことができる。

今年夏に導入した新ハイブリッド蒸溜機。中央には香りのもととなるボタニカル専用のバスケットを内蔵。

今年夏に導入した新ハイブリッド蒸溜機。中央には香りのもととなるボタニカル専用のバスケットを内蔵。

Data

中村酒造場

住所:鹿児島県霧島市国分湊915 MAP
電話:0995-45-0214
http://nakamurashuzoujo.com/

小牧醸造

住所:鹿児島県薩摩郡さつま町時吉12番地 MAP
電話:0996-53-0001
https://komakijozo.co.jp/

大山甚七商店

住所:鹿児島県指宿市西方4657 MAP
電話:0993-25-2410
http://www.jin7.co.jp/

鳥しき

住所:東京都品川区上大崎2-14-12 MAP
電話:03-3440-7656

十番右京

住所:東京都港区麻布十番2-8-8 ミレニアムタワー B1F MAP
電話:03-6804-6646
https://jubanukyo.localinfo.jp/

創和堂

住所:東京都渋谷区広尾1-12–15 リバーサイドビル 1F MAP
電話:080-8040-4822
https://sakai-shokai.jp/
Photograph:YOHEI MURAKAMI(Digital Homeless)
Text:AYANO YOSHIDA

コメント

タイトルとURLをコピーしました