「未練はない」味を守って36年…夫婦で営むラーメン店 最後の日 鹿児島・姶良市

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鹿児島県姶良市で長年地元の人に愛されたラーメン店が5月、惜しまれながらも閉店しました。夫婦が36年間守り続けた味、店がのれんを下ろすまでを追いました。
姶良市東餅田にある「味の憲ちゃん」。カウンター4席、座敷8席の小さなラーメン店です。
厨房に立つのは、店主の木ノ下信英さん(71)と妻の民子さん(70)です。
息の合った2人が次々と注文をさばく。36年間続いてきた光景です。
ただ、いつもと違うのは閉店を惜しむ客たちの姿でした。
来店客
「小学校の頃から通っているので(閉店は)残念な気がします」
「さびしいです。最後に食べておこうかと思って」
「今までおいしいラーメンを作ってくれてありがとうという感謝の言葉だけ」
豚骨と鶏がらのあっさりスープに中太の麺。初めて食べた人にも懐かしいと言わせた「憲ちゃん」のラーメン。実は、そのルーツは種子島にありました。
種子島、西之表市にあるラーメン店の跡地。ここが元祖「味の憲ちゃん」です。1960年に木ノ下さんの両親が開いた種子島初のラーメン店でした。
木ノ下信英さん
「行列ができて、デートは憲ちゃんラーメンにしようか、というぐらいだったらしいというのは聞いたことがある」
種子島で修業を終えた2人は1987年、妻・民子さんの出身地、姶良市に念願の店を開きました。
木ノ下信英さん
「半年間は鳴かず飛ばずで、売り上げが1日1杯という時もありました」
開店当初は苦労もあったそうですが、地元の人や種子島の出身者などにも支えられ、経営は安定してきました。
お店の車庫に止まる出前用のバイク。民子さんはある変わった場所にもたびたび出前をしていたそうです。
妻・民子さん
「どこどこの田んぼにいるから何時ごろ持ってきてね。あんたがラーメンを持ってきたときに休憩するからと言われた。その後、そこに丼を取りに行った」
控えめな商いを心がけてのれんを守ってきた夫婦は、数年前から自分たちの「定年」を決めていました。
木ノ下信英さん
「あなたが70歳の誕生日の時に店を閉めるから気張るが(がんばろう)と言って」
妻・民子さん
「客に『自分で決めて閉められるからあなたは幸せだよと』言われました。閉めたくないのに閉めないといけない人もいるし」
閉店の日、多くの客が店の前に並んでいました。常連客たちは親しんだ味を記憶しようと、最後の一杯を無心になって食べていました。
この日を特別な思いで迎えた人が種子島にもいます。
木ノ下さんの兄、憲一郎さん(73)、店名「憲ちゃん」のその人です。
弟とは別の場所で、両親の味を守り続けています。
信英さんの兄・木ノ下憲一郎さん
「(弟には)長いことご苦労様と言いたい」
多くの人に惜しまれたラーメンの味。店を後にするお客さんは、木ノ下さん夫婦にねぎらいと感謝の言葉をかけます。
来店客
「元気でいてくださいよ」
「お疲れ様でした」
「最後に食べられてよかったです」
木ノ下信英さん「長い間ありがとうございました」
妻・民子さん「最後までありがとうございます」
信英さんと民子さんは深々と頭を下げ、最後の客を見送りました。
妻・民子さん
「とにかく終わってほっとしました。最後までできて」
木ノ下信英さん「気持ちの良い汗をかきました。未練も何もないです。親父もこんな気持ちだったのかな」
地元で愛され36年。もう二度と掲げることのないのれんを静かに納めた2人の表情は、充実感と満足感にあふれていました。

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