「超音波内視鏡」ですい臓がんを早期発見、適切な治療に繋ぐ

すい臓がんの早期発見は難しいとされてきた

すい臓がんの早期発見は難しいとされてきた

 すい臓がんは発見の時点で、手術可能なものは約20%、再発も多い。そこで早期発見のために超音波内視鏡が導入されている。内視鏡の先端に超音波機器が装着されており、胃の粘膜越しにすい臓を検査できる。糖尿病やすい臓にのう胞がある、家族に患者がいるなど、すい臓がん発症のリスクが高い人を積極的に検査し、ステージ0での発見を目指している。

 男女合わせた、がんの臓器別死亡数によると、すい臓がんは4位で、5年生存率も約10%と予後が悪い。年齢を重ねるにつれ、すい臓がん発症が増えるため、今後はさらに患者が増加するのでは、と予測されている。

 すい臓がんは、すい臓の中を通る膵管上皮細胞に、がんが発生し、膵管を破ってすい臓の内部に浸潤して増殖する。かなり大きくなるまで自覚症状がほとんどなく、発見されたときには進行しており、手術不可の症例も少なくない。

 昭和大学江東豊洲病院消化器センターの牛尾純医師の話。

「健診で腹部超音波検査を行ないますが、その検査ではすい臓の一部しか診られません。また血液検査による腫瘍マーカーや尿検査なども精度が高いとはいえず、すい臓がん診断の決定打とはなりえません。そのため近年では、すい臓がんの早期発見を目的とした超音波内視鏡が導入され、効果を発揮しています。これは胃カメラより若干太い内視鏡の先端に超音波検査機器が付いていて、胃カメラの要領で胃の内部に挿入させ、胃の隣にあるすい臓を粘膜越しに検査するものです。外来で実施でき、膵管で発生したステージ0のがんも発見できます」

 この検査は、すい臓がんの発症リスクが高い人が受けることで、より早期発見治療に繋がる。例えば家族にすい臓がん患者がいる、糖尿病治療中に急に悪化したケースなどは発症リスクが高いとされる。他に、すい臓にのう胞があると指摘された場合も、まずは検査し、その後の経過観察が重要だという。

すい臓がん早期診断プロジェクト『尾道方式』

すい臓がん早期診断プロジェクト『尾道方式』

 このたび、こうしたリスクの高い人を抽出して検査に結び付ける、すい臓がん早期診断プロジェクト『尾道方式』が構築された。これは地元医師会と地域の基幹病院であるJA尾道総合病院、そして、行政が連携して行なっている。

「尾道方式はJA尾道総合病院の花田敬士先生が中心となり立ち上げました。具体的に説明すると、地域の開業医は危険因子が2つ以上ある患者にスクリーニング超音波検査を実施します。これで膵管拡張やすい臓のう胞が発見されたら、患者をJA尾道総合病院に紹介し、超音波内視鏡や腹部CTなどで診断、必要な場合は治療を開始します。この仕組みが奏功し、尾道市ではすい臓がんの5年生存率が全国平均の2倍以上、約20%に達しました。その結果を受けて尾道方式を導入する自治体が徐々に増えています」(牛尾医師)

 すい臓がんは自覚症状がないまま進行することが多い。なによりステージ0であれば、手術での治療が可能だ。発症リスクが高い人は一度、専門医で超音波内視鏡検査を受けてみてはいかがだろう。

取材・構成/岩城レイ子 イラスト/いかわ やすとし

※週刊ポスト2022年5月27日号

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