モーツァルトを聴いて美味しくなる鰹節と樽熟成した芋焼酎

九州の南端である鹿児島・枕崎で出会った美味。本格芋焼酎をベースにしたリキュールと、モーツァルトを聴いて育つ鰹節には、ともに炎と時間を味方に美味しくなるという共通点がありました。

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文/秋山 都 写真/菅野祐二

LEON.JP食いしん坊担当の秋山都です。
先日、取材に出かけた鹿児島県枕崎市でこれはすごい! と思う美味に出会ったのでそのお話をば。枕崎といえば薩摩半島の南端であり、JRの日本最南端駅があることでも知られています。遠いのですが、ここにスゴいものがありました。

◆ 薩摩酒造(鹿児島県・枕崎市)

▲ 薩摩酒造の「花渡川蒸溜所 明治蔵」。

数々のTVコマーシャルでも知られている有名蔵元である「薩摩酒造」。代表銘柄である芋焼酎「さつま白波」が有名ですが、ワンランク上の本格麦焼酎「神の河(かんのこ)」を昭和63年にリリース以来、樽で貯蔵する本格焼酎づくりにこだわっています。

▲ これはムラサキイモを使用しているため、あざやかな紫色の芋焼酎の2次もろみ。

まずは焼酎の基本的な造り方をご説明しておきましょう。麹、水と酵母で仕込んだ1次もろみに、芋や麦などの穀物を加え、さらに発酵させ、2次もろみ(写真上)を造ります。これを蒸溜器で蒸留すれば焼酎の原酒が出来上がります。

▲ タンクのなかで熟成を待つ焼酎。イモの甘やかな香りが漂います。

蒸留されたばかりの原酒はまだ荒々しいので、これをタンクや甕でしばらく寝かせたら、私たちのよく知る焼酎の出来上がり……なんですが、「薩摩酒造」のすごさはここから。

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出来上がった焼酎を自社工房、専任樽職人がメンテナンスしたホワイトオーク樽で熟成させています。国内の焼酎蔵元で、自社の樽工房・樽貯蔵場をもち、樽職人がいるのは「薩摩酒造」のみ。本気具合が伝わります。

▲ 「薩摩酒造」樽職人(クーパー)の祝迫智洋さん。月に30~40個の樽を修理・修繕することで、樽の寿命を50~70年以上に延ばすことができるのだそう。

樽職人である祝迫さんの樽メンテナンスの様子を見せてもらいました。

▲ 樽の内側を焼く「チャーリング」。すごい迫力! 樽工房のある薩摩酒造「火の神蒸溜所」にて。

「薩摩酒造」で使用しているのはアメリカンホワイトオーク樽が中心。この内部をチャーする(焼いて焦がす)ことで、熟成させるお酒に香りや深み、そして美しい琥珀色を与えることができるのです。

▲ 薩摩酒造の取締役、本坊直也さん。よかにせ(薩摩の言葉でイケメン)たい。

2020年には麦焼酎を12年樽熟成させた「SLEEPY OWL」、21年には芋焼酎を22年(!)樽熟成させた「SLEEPY BEAR」、ほかに「神の河(かんのこ)」など、樽で熟成させた焼酎をたくさんテイスティングさせていただき、焼酎の新たな魅力と可能性について改めて考えさせられたひと時……なんて言うと、ちとエラそうですが、シンプルに美味しかった。焼酎、すごいな。

◆ 薩摩酒造 花渡川蒸溜所 明治蔵

住所/鹿児島県枕崎市立神本町26
電話/0120-467-355
営業時間/9:00~16:00(入館無料)
定休/年末年始

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◆ 金七商店

さて、せっかく枕崎まで出かけたのですもの、どこかほかにも美味しいモノないですか? と前出のよかにせ(イケメン)本坊さんにおたずねしたところ、「すごい鰹節があるんですよ」と。枕崎といえば、鰹節の一大産地ですもんね。行きます、食べます、鰹節。

▲ 水揚げした鰹を下処理し、沸騰しない程度の温度でゆでます。

本坊さんのご紹介により生産現場を見せてくれたのは「金七商店」の瀨﨑祐介さん。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演していましたね。わ~、すごい人に会ってしまった。

▲ ゆでた鰹の骨を丁寧に手で抜き、薪をくべた煙でいぶします。これを「焙乾」というのだそう。

瀨﨑さんが妥協を許さず、すべて手仕事で仕上げる鰹節はミシュランの星付き名店などに送られていきます。その美味しさはぜひご自分の舌で確かめていただきたいのですが、その味わいの秘密と言われているのがこちら。

▲ 鰹節たちが聴いている今月のセットリスト。

▲ 「クラシック節」を熱く語る瀨﨑祐介さん。

瀨﨑さんの鰹節たちはみな、カビ付けの際にモーツァルトを聴きながら静かに眠っているのです。酒造りの際に音楽をかけるのは聞いたことがありますが、鰹節とは……。実際、どんな効果があるのでしょう?

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▲ 本枯節はカビ付けと天日干しを繰り返して完成する。

「クラシック(モーツアルト)を聴かせるとカビの密度が高くなり、より美味しくなる……と思うんです(笑)。まあ実証できているわけではないんですが、美しい音楽が流れる工場で鰹節と向き合うと、やさしく、リラックスして鰹節を扱う事ができます。それだけでも少しは意味があるかな」と瀨﨑さん。

▲ 透明感のある飴色に熟成しているさん瀨﨑の「クラシック節」。

実際にモーツァルトを聴いて育った「クラシック節」を私も購入し、家でおかかごはんにして食べたのですが、これが本当にほかの鰹節とは一目瞭然、いえ一舌瞭然に違うものでした。嘘だぁって? これがホントなんです、ぜひお試しあれ!

◆ 金七商店

住所/鹿児島県枕崎市桜木町382
オンラインショップ

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