与論で働きませんか 組合設立 正職員で働き手確保へ

野崎健太2022年4月8日 9時30分

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宿泊客のチェックアウト後、部屋の片付けをする田畑樹一さん(左)=2022年3月21日、鹿児島県与論町茶花、KKB鹿児島放送撮影

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  •  南の島で豊かな自然や落ち着いた暮らしを楽しみながら働いてみませんか――。人手不足に悩む鹿児島県与論町の事業者らが、島外からの移住者の確保に乗り出した。その仕掛けとは?(野崎健太)

     与論町役場で3月20日、町内の小売業や宿泊業、サトウキビ農家など七つの事業者が「ヨロンまちづくり協同組合」の創立総会を開いた。過疎地の事業者が組合を設立し、人材派遣業を営むことができる国の制度を活用したものだ。

     設立発起人代表の志摩晴文さん(66)は15年ほど前に西之表市から移住し、町内でスーパー2店舗を経営している。移住した当初は1人の求人に5~6人の応募があったが、近年は一人も応募がないことも。「すぐにでも5~6人は欲しい」とこぼす。

     町の人口は約5千人。ピーク時の1950年代から3分の2以下に減った。高齢化率も県平均を上回る36・4%と、働き手の確保が課題だ。

     人手不足に悩むのは小売業だけではない。組合員の事業者の一人、田畑樹一さん(40)は、新型コロナの影響で家業の建設業やリゾート婚向けの貸衣装業が低迷。「密」にならないコテージ型の宿泊施設を昨年オープンさせ、4棟を家族で切り盛りしている。

     観光シーズンの春から夏にかけて室内の清掃などに人手が欠かせないが、冬場には持て余してしまう。働き手が見つかったとしても、正社員として雇うのには二の足を踏む。

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     島の基幹産業の一つ、サトウキビ栽培も冬場から春先にかけての収穫期に、多くの働き手を必要とする。

     こうした島の事業者たちが立ち上げた協同組合は島外から移住者を募り、組合の正職員として雇用。人手が必要な職場に、必要な期間だけ派遣する。職員は、観光シーズンは宿泊施設、農繁期は農家、というふうに派遣先を渡り歩く。

     地方に移住するうえで、まず必要なのは仕事だが、見知らぬ土地で安定した職を得たり起業したりするのは簡単ではない。組合の職員は無期雇用で、年間を通して何らかの仕事が確保できる。移住のハードルを下げ、UターンやIターンを促す仕組みだ。

     創立総会で組合の代表理事に選ばれたのは、老人保健施設を運営する医療法人理事の川畑力さん(42)。「海がきれいで、人も温かい。そんな島の生活に魅力を感じる都会の若者は少なくないはず」と期待を込める。

     組合は7月ごろから求人を始め、初年度は5人の採用を計画している。

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     与論町の事業者らが活用したのは、2020年度に始まった国の特定地域づくり事業協同組合の制度だ。総務省によると1日時点で全国の46組合が道府県から事業認定されている。認定を受けると、職員の人件費の半額を国と市町村が助成する。地方への移住を促し、人口減少に少しでも歯止めをかける狙いがある。

     鹿児島県内では沖永良部島の知名町と和泊町で昨秋から、えらぶ島づくり事業協同組合が人材派遣を始めた。派遣先は宿泊業や農業、医療機関など。初年度は8人の求人に、約80人の応募があった。

    栃木県出身の女性(22)は海のそばでの暮らしにあこがれて移住した。昨秋から今年3月までは花農家で働き、4月からは宿泊施設で飲食スタッフや観光ガイドを務める。将来は何らかの資格をとり、場所を選ばない生活をするのが夢だといい、「語学や接客のスキルを身につけるのに役立つ」と期待している。

     組合の金城真幸事務局長(53)は「いろんな仕事を経験して地域を知り、人脈を広げられるのが魅力」と語る。本格的な移住に向けた「チャレンジ期間」としても活用できる。

     組合設立の助言などをしている鹿児島県中小企業団体中央会によると、県内では離島以外の自治体を含む4~5カ所で組合設立の動きがある。担当する柳元藤樹さん(39)は「事業者には人手不足の解消、移住者には仕事の確保、行政には人口減少対策。三方よし、の仕組みで活性化を後押ししたい」と話している。

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