焼酎のお湯割りで器へ先に入れるのは焼酎か、それともお湯か? より美味しく、楽しく飲める知識も得られる焼酎好き必読の書

更新日:2022/1/31

焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技 (ブルーバックス)
著:

鮫島吉廣, 髙峯和則

出版社:

講談社

発売日:

2022/01/20

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焼酎の科学

『焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』(鮫島吉廣、高峯和則/講談社)

 焼酎はウィスキーやブランデーなどと同じ「蒸留酒」だ。蒸留酒とは読んで字のごとく、アルコール発酵させたモロミと呼ばれる液体を下から熱を加えて温め、湯気として立ち上った成分を集めて造られる酒である。

 このやり方で造られた酒は煮詰めているため、必然的にアルコール度数が高くなり、さらに好ましくないニオイまで抽出してしまうため、そのままでは美味しくない。なので樽などに詰め、長期熟成する必要があるのだが、焼酎は長期熟成の必要がなく、出来たての新酒から美味しく飲めるという特徴がある。もちろん焼酎は蒸留酒なので樽などに詰めて長期熟成しても美味しい酒になるし、焼酎の一種である沖縄の酒「泡盛」には甕に入れて長期熟成した古酒(くーす)がある。

 またアルコール度数が高い蒸留酒は食後に飲まれることが多いのに、焼酎はアルコール度数が低く、さらにそれを湯や水で割って飲み、ワインやビール、日本酒といった醸造酒のように食事と一緒に飲まれる場合が多い。つまり酒をよく知っている方ほど、頭に「?」が湧いてくる不思議な酒なのだ。

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 そんな不思議な酒・焼酎の謎を科学の視点から解き明かしてくれるのが、『焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』(鮫島吉廣、高峯和則/講談社)だ。著者の鮫島吉廣さんは「さつま白波」で知られる薩摩酒造で長年研究を続け、研究所長などを歴任、現在は鹿児島大学で客員教授を務め、焼酎の製造方法はもちろんのこと、文化や歴史などにも精通し、40年以上研究を続けている方だ。また共著者の高峯和則さんも同じく鹿児島大学の農学部附属焼酎・発酵学教育研究センターで教授を務められている。お2人とも焼酎に関してのスペシャリストなのだ。

 本書ではまず焼酎の「七不思議」をプロローグとして、芋、米、黒糖、泡盛などの焼酎が造られるようになった歴史や酒造りについて詳しく解説されていく。ちなみに本書で取り上げられるのは「本格焼酎」だ。本書によると「焼酎乙類(単式蒸留焼酎)のうち、麹を用い、単式蒸留機で蒸留し、添加物が一切ない焼酎」で「使用原料も定められて」いるものと定義されているという。焼酎のラベルにもきちんと書かれている(画像参照)ので、買う際に瓶の裏を気にしてみてほしい。

焼酎の科学

 そして酒飲みとして特に気になるのは、第4章「最大の謎『風味』の科学――何が焼酎の味を左右するのか?」から先のパートだ。各焼酎独特の個性を決めるのは酒全体の中のたった0.2%の香り成分であることや、芋の種類、使う部位(真ん中と皮の近くなど)、栽培期間でも味が変わってしまうといった、思わず「へ~!」と声が出る驚きの秘密が詰まっており、酒選びがさらに楽しくなること請け合いだ。さらには酒飲みとして嬉しいのが第5章「健康を考えるなら焼酎――のんべえに優しい魅惑の酒」。酒飲みが「焼酎は健康的なんだよ!」と力説する場面に遭遇した方もいらっしゃると思うが、その秘密もしっかりと開陳されている。そして第6章「読むほどに旨くなる飲み手の流儀――おいしさを科学する」は、焼酎のお湯割りで器へ先に入れるのは焼酎か、それともお湯かを科学的に分析するなど、焼酎をより美味しく、楽しく飲める知識も得られる、焼酎好き必読のパートだ。どちらが先か……は、ぜひ本書で!

 かように『焼酎の科学』は、焼酎好きな飲兵衛必携の1冊である。しかし酒と上手く、長く、楽しく付き合うためには、長っ尻と飲みすぎ、そして二日酔いにはくれぐれも注意されたし!

文=成田全(ナリタタモツ)

(※)高峯和則さんの「高」は「はしごだか」が正式表記です

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