隆起サンゴの島【沖永良部島】まるで地下帝国の宮殿のような美しきリアル・ダンジョンとは?

2022.3.26沖永良部島(鹿児島県)

東シナ海に突き出した落差51メートルの断崖、田皆岬。時折、海ガメが顔を出すことも。(C)おきのえらぶ島観光協会

 鹿児島市から南へ約552キロメートル、奄美諸島の南西部に位置する沖永良部島。周囲約55.8キロメートルの隆起サンゴの島です。

 沖永良部島は、実は、大学の探検部や洞窟好きの羨望の地。歩いている地面の下に大鍾乳洞群が迷路のように走っています。その数200とも、300とも言われ、東洋一の鍾乳洞の昇竜洞も、この島に!

沖永良部島の地下にはこんな鍾乳洞群が隠れています。

 沖永良部島は、琉球石灰岩と基盤岩(硬い堆積岩のチャート)のいわば二層構造。琉球石灰岩は雨をザルのように通過させても、基盤岩は水を通さず、溜まってしまう。それが高地から海へと流れていく“地下河川”となり、水の浸食作用で流れやすい形に洞窟ができた、というわけ。

「沖永良部島ケイビング協会」の大當健一郎さんがコース取りの説明。

 これまでメキシコのグランセノーテやフィリピンのプエルトプリンセサ、南大東島の星野洞など、意外と鍾乳洞は見てきていたので、最初は正直、観光気分というか、あまり期待はしていませんでした。

 それが、洞窟から出てきた後は、もう「感動!」を連呼。冒険野郎たちを夢中にさせるだけあります。圧倒的な非日常です!

 ガイドしてくれたのは「沖永良部島ケイビング協会」の大當健一郎(だいとうけんいちろう)さん。約10.5キロの大山水鏡洞の一部、初心者でも入れる「リムストーンケイブ」に連れていっていただきました。

じゃぶじゃぶ川を渡って、腹ばいに進んで。鍾乳洞を体感

 今回のコースは約1キロ、所要時間約2時間。ジャングルのケイブ入口からエントリーします。リアル・ダンジョンの始まりです。

防水のつなぎの下にはウエットスーツ。全部レンタルOK。さぁ、地下の洞窟へ!

 透明度の高い地下河川へじゃぶじゃぶと侵入。鍾乳石のはじまりの細い「ストロー」、ストローが肥大した「つらら石」、つらら石から落ちた雫が堆積して立ち上がった「石筍(せきじゅん)」、上のつらら石と下の石筍がつながった「石柱」など、まずは鍾乳石の種類をレクチャー。40センチほどの石筍を調査したところ、4000年モノ! 頭や足で壊さないよう、細心の注意が必要です。

天井から無数のつらら石が。地球の造形美に圧倒されます。

 岩壁にキラキラと光る鉱物のようなものも見えます。これは、菌だそう。洞窟内は光が遮断されているので、植物は生えず、ここに暮らせる生物も限られた種のみ。そのひとつ、ドウクツエビを発見。

色素のないドウクツエビ。目は見えず、触覚で感知しながら生きているそう。

 大當さんが「ヘッドライトを消してみましょう」。その言葉に従うと、自分の手の平さえ見えない、真の闇。自分が目を開いているのか、閉じているのかも、わからないほど!

 かなり進んだ洞窟の奥に、土器が残されていました。徳之島のカムィヤキとグスク土器で、11~14世紀に持ち込まれたものだそう。当時、もちろん懐中電灯はなく、松明をたよりにここまで来て、万一、火が消えたら……そんなこと、考えただけで発狂しそうです。

鍾乳洞を分け入ったり、くぐりぬけたり。観光地の鍾乳洞ではこんな体験したことなかったです!

 溜り水に落ちる水滴で少しずつ大きくなるケイブパール、形がきれいに残ったキクメイシ(サンゴ)の化石など、陸では見られないお宝が地中に隠されていたとは。

 そして唐突に冒険がやってきました。

 カラダの幅ギリギリのフローストーン(水の流れで形成された岩)を腹ばいで抜けて、滑り落ちるように水の中へポチャン! フローストーンを滑るなんて、これまでの鍾乳洞では体験したことがありません。

光を当てる角度を変えると、逆さ鍾乳洞に見えたり、洞窟内はライティングで表情を変えます。

 そしてハイライトのリムストーンケイブに到着すると、「ちょっと待っていてくださいね」と大當さん。しばらくして「はい、どうぞ!」の声に振り向くと、この世のものとは思えない光景が。世界遺産の中国の黄龍のような、棚田が続いています。ところどころでライトアップされ、まるで地下帝国の宮殿のよう!

このリムストーンケイブを貸し切りに。どの時代のどこにいるのか、わからなくなる体験です。

 しかも、コロナ対策のため、1回のツアーでは1組のみ。1名から催行なので、この絶景を独占できるという贅沢さ!

約2時間の冒険の後、洞窟の出口の光がなつかしいこと!

これが、上級者向けの銀水洞。距離も長く、スキルも必要なため、2回以上のケイビング体験が求められます。行ってみたーい!(C)沖永良部島ケイビング協会

沖永良部島に伝わる建築様式と郷土料理を楽しむ

shimayado當の客間。庭に面した縁側部分は増築したもの。窓の上は明かり取りは、家を締め切る台風時でも室内を明るくする工夫。

 リムストーンケイブを案内してくれた大當さんは、生まれは沖永良部島でも、育ちは東京。40歳を機に島へ戻り、築約70年の古民家を1年半かけて改装し、「shimayado當(アタリ)」を2012年に開業しました。

レコードプレーヤーが置いてある書斎。

 一目で気に入ったという床の間や欄間の造作はそのままに、少しずつ手を入れて、全面改装。“とうぐら”(台所)と“ういや”(客室)が離れた造りや、台風時でも明かり取りした窓の上の欄間など、沖永良部島に伝わる建築様式は先人たちの知恵から生まれたもの。

 どっしりとしたソファやペンダントライトがどこか懐かしく、床の間に飾られた画家・田中一村のリトグラフ(一村の移住60周年を記念したもの)が亜熱帯の香りを伝えます。そして亜熱帯の植物でまとめられた庭は、まるでルソーの絵画のよう。

山から運んだという植物に彩られた古民家。

 食事は沖縄や奄美諸島の郷土料理。今では入手しづらいタイモを使った“ドゥルワカシ”なども食卓に並びます。

 こちらのお宿、1日1組限定。沖永良部島ならではのステイが楽しめそうです。

shimayado當の庭にて。ドラマティックなケイビングガイドを行う大當さん。

沖永良部島

●アクセス 各都市から那覇空港へ。那覇から空路約1時間。または鹿児島空港からは1日3便あり、所要時間1時間10分
●おすすめステイ先 shimayado當
https://shimayado-atari.com/

【取材協力】

沖永良部島ケイビング協会
https://okierabucave.com/
おきのえらぶ島観光協会
http://www.okinoerabujima.info/

古関千恵子 (こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること1/4世紀あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

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