時代に即した柔軟な対応と行動が鍵になる。鹿児島本格焼酎を牽引する大海酒造河野社長が考える焼酎業界の未来とは

2022.3.22

AMP編集部

「全てのお客様にいつまでも愛され続けること」を常に心掛けている大海酒造の河野社長。

コロナ過で飲食店が多く営業自粛の影響を続ける現在、焼酎業界への影響も少なくはないだろう。そのような状況でも、伝統を大切にしながら幅広い年代に愛されること、常に時代に合わせた新たな取り組みを意識して邁進し続ける河野氏に、焼酎業界に未来ついて聞いた。

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大海酒造

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河野社長

ー大海酒造ならではの事業への取り組み方はどういった点でしょうか?

河野:青年会議所に所属していた頃に築いたネットワークやノウハウをベースに、オリジナル性を出すために酒造メンバーの意見を最大限取り入れ、「大海酒造らしい」と言ってもらえるような商品の企画開発、販路拡大を意識して取り組んでいる柔軟性です。

例えば芋農家さんとは、意見の言いやすい関係が出来ているため、農家さんからは「新しい品種でやってみたい」、弊社からは「この品種の芋でつくったらどんな味になるのか」などの意見交換や新たな提案をしながら商品を開発しています。

その他に地元の漁協とコラボして特産品の「かんぱちに合う焼酎」を開発したり、アフリカの現地の方の味覚に合わせたオリジナル焼酎を展開、イギリスやフランスに販路を拡大したりと、多方面の分野の方と一緒に取り組みを行っています。

こういった色々な方と繋がることで、まだ世に出ていない新たなアイディアも生まれやすくなります。

自分としては仕事の為に、という意識は無く、ただ人と話すのが楽しい、という感覚なのですが、それがひいてはビジネスに繋がっているので、ありがたいことだと思っています。

弊社では年に3-4種類の新商品を出しています。ジャンルは様々ですが、完全無農薬でオーガニックを意識した商品や、飲み口が日本酒のようにやわらかい口当たりのものなど、今年中の商品化を考えています。

生産農家さんと茶畑での集合写真

ー鹿児島県の事業やSNSにも精力的に取り組まれていますね。

河野:はい。新たなお客様の声を聞くことが一番の目的なのですが、自分たちの取り組みだけでは手の届かないことも多いため、県のサポートもでき、尚且つ新規のお客様との接点を持てる、という観点からも事業に参加することによるメリットは大きいです。

先日クラウドファンディングに鹿児島県の提案で参画しましたが、こういった「興味はあっても機会のなかった」企画にも接点が持てています。

私たちメーカー側からの発信だけだと、どうしても受け取る側のターゲットは限られてしまいますが、新たな取り組みに参加すればその分、新たなお客様にリーチすることができるようになり、これまで聞くことのできなかった新たな意見やリアクションがもらえて、今後の商品開発へ非常に参考になります。

また最近では、SNSやYouTube動画の発信も精力的に行っています。今はコロナ禍でなかなか出来なくなりましたが、従来行っていたリアルでの「焼酎を囲む会」をインスタライブやYouTubeを活用して発信しています。リアルで実施することで接点を持つことはもちろん重要ですが、これからの時代、オンラインも活用したハイブリッド方式での情報発信も行うことで、新たな接点の拡大に寄与していきたいと考えています。

ー今後焼酎業界をどうしていきたいと考えていますか?

河野:「待ちの姿勢」を脱却し、自ら動くメーカーになる必要があると思っています。

これまで鹿児島県の焼酎メーカーは「待ちの姿勢」になっているところが多いように感じていました。県や組合等から話を持ちかけられれば賛同するのですが、日々の業務に追われてか、なかなか自ら動くことができていなかったのが現状でしょう。

時代は変わりつつあり、情報は身近にたくさん転がっています。その中から、自分に必要なものを、自分で動いて獲得しに行く、そして自社の取り組みに活かしていく。そういった姿勢がこれからの時代に必要なことだと思っています。

また、鹿児島県内には、大小の規模合わせて112の蔵があります。それら全てをひとまとめにし、魅力を発信するのは難しいことですが、それぞれの規模でないとできないこと、持ち味など、千差万別ある各々の個性を十分に発揮し、魅力を発信していく下地をつくって、鹿児島県の焼酎をもっと多くの方に広めることも大事なことですね。

ー経営者として心がけていることはありますか?

河野:杜氏や若手の意見を最大限尊重するようにしています。私が社長としてできることは社員がきもちよく働いてもらうことです。当然、経営に携わる者として市場の動向を見て売れ筋などを考えたりはしていますが、最終的には作り手である杜氏の表現したいことを尊重し、彼らの想いや、やりたいことが形になるように努めています。製造に関して私は素人同然ですから、当社にいる優秀な杜氏、プロである彼らを信頼しているからできることでしょうね。

芋の洗浄の様子

また弊社には若い社員も多いのですが、「これはだめ」を極力言わないようにしています。

焼酎業界の課題である、20-30代の若い世代をファンにしていくためには彼らの意見は欠かせないものですからね。もちろん失敗することもありますが、若手一人一人がしっかり考える土壌ができているということが経営者として嬉しく感じます。クラウドファンディングへの参画やSNS発信なども、彼らの意見を尊重して実施しているものの一例なんですよ。

芋の選別の様子

ー今後の焼酎業界の未来や展望をどう考えますか?

河野:店頭文化と時代に合わせた文化の融和を模索する必要があるでしょう。現在アルコールを取り巻く環境は非常に厳しいものです。そんな中でも大事にしたいのは「新たなお客様をどうやってつかまえるか」ということ。

今では多くの方に受け入れられている「ソーダ割」ですが、最初は邪道だと批判する声も多かったものです。ところがいまでは若い人だけでなく、いろんな年代の方に愛される飲み方になりました。

また、これはジャストアイディアですが、「脱アルコール」商品の開発なども、一つの手段かもしれませんね。

伝統文化に裏打ちされた造りの技術を重んじることも確かに重要ですが、時代に合わせた、皆に受け入れられる要素を取り入れた商品づくりも同じくらい大事なことだと思います。

焼酎マーケット自体の高齢化が進んでいますが、世間の皆さんがどんな楽しみ方をしているかをもっと注視し、今後の商品開発に活かしたいですね。

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