「日本の焼酎」じつは「血栓を溶かす」凄い効果があった…!

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魅惑の酒、焼酎の七不思議に迫る。
身近な存在ながら、じつは非常に特殊な蒸留酒、焼酎。どんな原料でも焼酎にできて、蒸留酒なのに新酒でも旨く、健康にも良い。蒸留すればただの「湯気の集まり」のはずなのに、さまざまな個性的な風味も持っている。
歴史的・文化的背景、酒造りの技、酵母・麹の働き、「風味」の決め手、健康への寄与、飲みかたで変わるおいしさ――今や世界から注目を集め、国酒にも認定された焼酎には、清酒を造れなかった九州地方の人々が生み出した知恵と技が詰まっている。
知るほどに驚く、焼酎の世界へご招待します。
*本記事は、鮫島 吉廣,高峯 和則『焼酎の科学』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

焼酎は血栓を溶かす?

焼酎を飲んでも、翌日に酔いが残りにくいと感じている人は多いのではないでしょうか。これは、焼酎が蒸留酒で不揮発性の成分を含まないこと、アセトアルデヒドの消失速度が速いこと、低濃度で飲まれること、料理との相性が良いことなどいろいろ考えられます。今のところはっきりした理由はわかっていないので今後の課題ですが、研究によって明らかになってきたことも多いので、ご紹介していきましょう。

国際酒税紛争が勃発した当初、日本の焼酎は壊滅的打撃を受けることが予想されていました。このころに神風のように登場し、危機的状況を打破するのに貢献したのが、当時宮崎医科大学須見洋行先生らによる“焼酎は血栓を溶かす”という研究データでした。

これは、被験者62人に同じアルコール量(純アルコール換算30~60㎖)の焼酎、日本酒、ワイン、ビール及びウイスキーを飲んでもらい、1時間後の血液中の血栓溶解酵素活性を測定した研究です。

飲酒によって血栓溶解酵素活性が高まり、とりわけ本格焼酎でその効果が抜きんでて高いことが示されました。適量の本格焼酎を飲むことは血栓症予防効果があったのです。この研究は倉敷芸術科学大学に移られた須見先生により精力的に研究がすすめられ、後述するように、現在、効果を示す焼酎中の成分特定にまで進展しています。特筆すべきは、焼酎が血栓の形成は抑制せず、できた血栓を溶解する点です。

血栓溶解効果を示す成分

エタノールそのものに血栓形成の抑制効果があることは知られており、そのメカニズムとして、血小板機能の抑制、血液凝固因子の低下およびプラスミノーゲン(血栓などを溶かす酵素)活性化因子(PA)の上昇が報告されています。しかしながら、先に紹介した須見先生らの研究では、エタノール量を統一して実験していたにもかかわらず、ビールやワインでは血栓溶解効果が低かったことから、エタノール以外の成分の寄与が示唆されました。

そこで、焼酎に含まれる12種の香気成分に着目し、PAの一種であるt‒PA産生や血小板凝集にどのような影響を与えるのかを調べたところ、イソアミルアルコール、β‒フェネチルアルコール、n‒ブチルアルコール、酢酸イソアミル、アセトアルデヒド、カプロン酸エチルなどで強い凝集阻害が示され、とりわけバラの香り成分でもある酢酸β‒フェネチルが、強力な血小板凝集抑制能を示すことを明らかにしています。

しかしながら、これらの成分は焼酎に限ったものではなく、清酒などにも含まれています。よって焼酎の血栓溶解作用は、単一成分のみの効果ではなく、さまざまな成分が複合的に寄与した結果である可能性があります。今後、これらの香気成分濃度の高い焼酎が開発されれば、焼酎の香りを嗅ぐだけで健康に良い効果が得られるかもしれません。

さらに連載記事<日本の「焼酎」、じつは「謎だらけの酒」だった…「衝撃的すぎる7つの不思議」>では、焼酎の7つの不思議について解説します。

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