血液検査「phi」が保険適用に PSA検査ではがんの有無や悪性度の高低が判定しづらい場合の追加措置

2022.4/19 06:30

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俳優・西郷輝彦俳優・西郷輝彦

今年2月、前立腺がんの闘病中だった歌手・俳優の西郷輝彦さんが、75歳で亡くなった。前立腺がんは、国内罹患率で第1位と推計され、患者数は増加傾向にあるが、その検査法や治療法は日々、躍進している。前立腺がんなどの治療に詳しい東京慈恵会医科大学の専門医から5回にわたって最新の医療事情を聞く。

がんの中でも患者数の多い前立腺がんだが、国内死因は第6位。全ての前立腺がんの悪性度が高いわけではない。悪性度が低ければ、定期的な検査を行いながら経過をみていく監視療法で済む場合もある。

一方、悪性度の高い前立腺がんは、手術や放射線治療などを積極的に行い、転移・再発を防がなければならない。

「腫瘍マーカーのPSA検査(別項参照)の基準値を超えたからといって、全てに生検(精密検査)をする必要性はありません。無駄な生検を減らし、いかに悪性度の高いがんを検出するかが重要です。これまでのランダムに行う生検検査では、必ずしも精度が高いとはいえません。昨年来、精度の高い検査法が保険適用になってきています」

こう説明するのは、東京慈恵会医科大学泌尿器科の佐々木裕講師。前立腺がんの診断・治療を数多く行っている。

PSA検査は、検診や人間ドックでも行われる血液検査だ。基準値を超えてがんの疑いがあるときには、超音波やMRI(核磁気共鳴画像)の画像診断が行われる。だが、この段階では良性か悪性かまではわからない。針を刺してがん細胞を採取する生検で、がんの確定診断が行われる。

昨年11月、PSA検査に追加の血液検査として、「プロステートヘルスインデックス(phi)」が保険適用になった。PSA検査では判定が難しい場合に追加検査することで、がんの有無や悪性度の高低が推測しやすくなっている。

加えて、生検の方法も、専用の医療機器を用いた「MRI撮影及び超音波検査融合画像による前立腺生検」(フュージョン標的生検)が、今年4月に保険適用になった。

これまでも、一般的に生検は超音波下、前立腺内部の決まった部位に針を刺す検査が行われている。今回のフュージョン標的生検は、MRI画像に異常があれば、超音波画像上に反映させて、そこに針を刺すことでより正確に診断ができる。

「日本では、フュージョン標的生検を2016年から先進医療として行ってきました。これまでのランダムな生検と比べ、より多く悪性度の高いがんを見つけ出すことができます。質の高い医療の実現には、これらの新しい検査法による、より正確な治療前診断が役に立つと思っています」

あすは、再発局所がんも応用できるロボット支援下手術について紹介する。 (取材・安達純子)

■PSA検査とは 前立腺特異抗原検査。PSAは前立腺が分泌するタンパク質のこと。がんなどで前立腺に炎症が生じると血液中にPSAが流れ出すため、血液検査で調べる腫瘍マーカーとして活用されている。基準値は、年齢によって異なり、50~60歳は3ng/ml以下、65~69歳は3.5ng/ml以下、70歳以上は4ng/ml以下。前立腺肥大症といった良性の病気でもPSA値は上がるため、見極めるには、さらに検査が必要。

■佐々木裕(ささき・ひろし) 東京慈恵会医科大学泌尿器科講師。1999年東京慈恵会医科大学卒。カナダのトロント大学留学などを経て2017年より現職。泌尿器悪性腫瘍、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術、メンズヘルス、前立腺がん放射線治療を得意としている。

東京慈恵会医科大学泌尿器科の佐々木裕講師東京慈恵会医科大学泌尿器科の佐々木裕講師

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