「日本酒」はやっぱり凄かった…! 世界でもその技が「抜きんでている」といえる「納得のワケ」

image

食の多様化、欧米化に連動するかのように、この50年で日本人の食生活は大きく変化しました。それに伴い、アルコール飲料の消費量は減少し、中でも日本酒は顕著です。1973年のピーク時には176万kLあった課税移出数量が2013年には58 万kLと約3分の1にまで減少しています。
しかし、クールジャパン推進策の一環として日本酒や焼酎などの日本産のお酒を海外に売り込もうという施策も相まって日本酒の輸出量は堅調な伸びを示しています。また、「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」としての「和食:日本人の伝統的な食文化」が2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にも和食が注目されるなか、今後日本酒は世界に注目されるお酒になっていくと思われます。
*本記事は、和田美代子(著)、高橋俊成(監修)『日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

高度な技術を要する日本酒の醸造法

世界中の醸造酒の中でも、日本酒ほど技が抜きん出ているお酒はないといいます。同じ醸造酒のワインやビールと、醸造の基本を比べてみましょう(図1)。

ワインの原料のブドウにはもともと糖分が含まれています。そこでブドウを搾ってジュースにすれば、やがて自然にアルコール発酵を始めます。

一方、ビールの原料の大麦には、デンプンはありますが、糖分が含まれていません。ただし不活性の糖化酵素(アミラーゼ)が多量に含まれていて、発芽するとその酵素が活性化してデンプンが糖化され、麦芽糖ができます。そこでまず大麦を発芽させてデンプンを糖化し、その液にホップと水などを加えた麦汁をつくり、これに酵母を入れてアルコール発酵させます。したがって糖化させるタンクと、麦汁を発酵させるタンクの2つが必要になります。

これに対して日本酒は、原料の米には、大麦と同じくデンプンはありますが糖分が含まれていないので、やはりまず原料を糖化させなければなりません。しかし大麦のように原料自身が持つ酵素を用いるのではなく、麴菌を増殖させ、その酵素によってデンプンを糖化させます。これに酵母を加えてアルコール発酵させます。

ビールでは糖化と発酵が順番にそれぞれ別のタンクで行われますが、日本酒の場合は一つのタンクの中で糖化と発酵が同時に進む点が、大きく異なり、並行複発酵と呼ばれる醸造技術です。

「どんなに醸造技術が発達しても、並行複発酵の原理は変わらないでしょう」(公益財団法人日本醸造協会会長・石川雄章氏)。

PHOTO by iStock

清酒・焼酎・泡盛

考えてみると不思議なことなのですが、日本のお酒の品質に関しては、ほかの食品類のように農林水産省や厚生労働省ではなく、国税庁が定める酒税法が包括的な法律になっています。いまも昔もお酒は税収源として見なされているため、清酒の種類は酒税法で分類されているのです(酒税法では日本酒という表記はなく、「清酒」で統一されています)。

「清酒の製法品質表示基準」(図2)として、それぞれに造り方や原料がきちんと定められ、普通酒のほかに、製造方法の違いによる特定名称を表示する場合の基準が告示されています(吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒、特別純米酒、本醸造酒、特別本醸造酒といった8種類のタイプがある特定名称酒と普通酒については第5章でふれます)。

「清酒」の定義は次の通りです。

(1)米、米麴、水を原料として発酵させて、漉したもので、アルコール分が
22度未満のもの。ちなみに国税庁では「漉す」とは液状部分と粕部分とに分離するすべての行為としています。つまり、漉す方法は問わないことになっています。布袋を使おうが、ザルを使おうが、漉せればよいのです。近年では、遠心分離機で高速回転させることによって液状部分と粕部分とに分離させている蔵元もあります。

(2)米、米麴、水及び清酒粕その他政令で定める物品を原料として発酵させて、濾したもの。ただし、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(麴米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。

(3)清酒に清酒粕を加えて漉したもの。

できあがった品質が悪いときに正常な酒粕を添加し、酒粕に含まれる酵母によって低温で再発酵を行うことにより、酒質の矯正ができることが知られています。

焼酎は原料を発酵させてできたアルコール含有物(醸造酒)を蒸留して造るお酒で、酒税法では、甲類と乙類に分類されます。甲類は連続式蒸留機を用いて製造され、そのまま飲まれたり、酎ハイや梅酒などに使われます。乙類は単式蒸留機によって製造され、米、麦、甘藷などの本格焼酎と泡盛などがあります。

なお、黒麴菌で造った米麴のみを用いて仕込み、単式蒸留機で蒸留したものが泡盛になります。

長い時間をかけて熟成を行う泡盛古酒(クース)は甘くて芳醇な香りとまろやかな味わいが特徴で珍重されています。

さらに連載記事<日本酒に「正宗」とつく名前が多いワケ、知っていますか?>では、日本酒についてより詳しく解説します。

コメント