2024年4月15日(月)は2ヶ月ぶりの年金支給日でした。
現役世代の方は知らない方も多いのですが、年金からは税金や社会保険料(介護保険料や健康保険料)が天引きされた上で振り込まれるので、実際の手取り額は一般的に少なくなります。
ここまでは知っているシニアでも、「給与から住民税が天引きされたのに、どうして年金からも住民税が天引きされるの?」と驚かれる方がいます。
今は働きながら給与を得つつ、年金も受給するというシニアはめずらしくありません。
この場合、年金からも給与からも「住民税」が天引きされる可能性があるのです。「これって二重課税では?」と思う方もいますが、これは正当な納税通知です。
本記事では、天引きのしくみについてくわしく見ていきましょう。
記事の後半では、他に年金天引きされるお金や現代シニアの年金受給額について詳しく見ていきたいと思います。
1. 年金からも給与からも「住民税」が天引きされるのはなぜ?
前年中の年金所得が一定額以上になった場合、住民税が課税されます。
年金受給者の場合、この住民税は基本的に年金から天引きされます。これを特別徴収といいます。
年金から特別徴収することは、地方税法第321条の7の2により定められているのです。
一方、給与所得に対して住民税が課税される方は、給与からの特別徴収が発生します。これは私たち現役世代も同様で、地方税法第321条の3第1項により定められています。
では、給与を得ながら年金の支給を受ける方はどうなるのでしょうか。その答えは、給与も年金も両方から天引きされるということになります。
留意点として、公的年金に係る住民税を給与からの特別徴収とすることはできません。その逆も同じくです。
2. 厚生年金と国民年金から天引きされる4つのお金とは
公的年金からは、住民税を含めて4つのお金が天引きされます。
そのため、「額面の金額」と「実際に受け取れる金額(手取り金額)」に違いが生じることを知っておきましょう。
年金から天引きされる税金・社会保険料は下記4つです。
2.1 所得税および復興特別所得税
年金所得が一定額以上になる場合、「所得税」および「復興特別所得税」が天引きされます。
所得税と復興特別所得税は、額面から社会保険料や各種控除額を差し引いた額に5.105%の税率をかけた額です。
ただし、障害年金や遺族年金を受給している場合は非課税となります。
2.2 個人住民税
前述のとおり、個人住民税が一定額以上になると年金から天引きされます。
個人住民税の場合は、65歳以上で公的年金の支給額が年間18万円以上の人を対象に天引きされます。
また、個人住民税も障害年金と遺族年金の場合は非課税となります。
2.3 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料
年間の年金支給額が18万円以上の人は、健康保険料も年金から天引きされます。
なお、65歳以上75歳未満の国民健康保険加入者は「国民健康保険料」が天引きされますが、75歳以上の人は「後期高齢者医療制度」という健康保険に切り替わって天引きされることになります。
基本的に後期高齢者医療制度は原則75歳以上の人が対象ですが、重度障害等かつ65歳以上75歳未満の人も任意で加入できます。
2.4 介護保険料
介護保険料は40歳から64歳までは健康保険料に含まれて支払っていますが、65歳以降からは単独で支払うことになります。
年金の支給額が18万円以上の人は、年金から天引きとなるので留意しましょう。介護保険料は一生涯支払いがあるため、介護認定されていても支払い義務があります。
税金や保険料が天引きされるには一定の要件があるため、全員が天引きになるわけではありません。また、固定資産税や自動車税などは年金天引きの対象外となります。
なお、年金受給が開始されている場合は、「年金振込通知書」で実際に受け取れる金額が確認できるため、確認しておきましょう。
では、天引き前の額面でみると、公的年金(厚生年金・国民年金)の受給額はいくらくらいになるのでしょうか。次章からは年金のしくみや受給額について深堀りしていきます。
3. 公的年金「厚生年金と国民年金」のしくみをわかりやすく解説
まずは公的年金である「厚生年金」と「国民年金」の違いやしくみについておさらいしておきましょう。
日本の公的年金は「厚生年金と国民年金」の2種類が存在し、これらは2階建て構造になっているのが特徴です。
公的年金「厚生年金と国民年金」の仕組み
国民年金は1階部分にあたるもので、日本に住む20〜60歳未満の人が原則加入対象となります。
保険料は一律で、40年間納めれば国民年金(老齢基礎年金)を満額受給できます。
厚生年金は2階部分にあたるもので、主に会社員や公務員が加入対象となります。
厚生年金の場合は、現役時代の報酬に応じて保険料が変わります。年収や加入期間によって、老後に受け取れる厚生年金の金額が決まるのが特徴です。
4. 「厚生年金」の月額平均を一覧表でチェック
ここからは、厚生労働省年金局の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の実際の受給額を見ていきます。
※厚生年金の金額には、国民年金部分も含まれています。
4.1 厚生年金の平均受給月額
- 〈全体〉平均年金月額:14万3973円
- 〈男性〉平均年金月額:16万3875円
- 〈女性〉平均年金月額:10万4878円
※国民年金部分を含む
4.2 厚生年金月額階級別の老齢年金受給者数
【厚生年金】月額階級別の老齢年金受給権者数
出所:厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 1万円未満:6万1358人
- 1万円以上~2万円未満:1万5728人
- 2万円以上~3万円未満:5万4921人
- 3万円以上~4万円未満:9万5172人
- 4万円以上~5万円未満:10万2402人
- 5万円以上~6万円未満:15万2773人
- 6万円以上~7万円未満:41万1749人
- 7万円以上~8万円未満:68万7473人
- 8万円以上~9万円未満:92万8511人
- 9万円以上~10万円未満:112万3972人
- 10万円以上~11万円未満:112万7493人
- 11万円以上~12万円未満:103万4254人
- 12万円以上~13万円未満:94万5662人
- 13万円以上~14万円未満:92万5503人
- 14万円以上~15万円未満:95万3156人
- 15万円以上~16万円未満:99万4044人
- 16万円以上~17万円未満:104万730人
- 17万円以上~18万円未満:105万8410人
- 18万円以上~19万円未満:101万554人
- 19万円以上~20万円未満:90万9998人
- 20万円以上~21万円未満:75万9086人
- 21万円以上~22万円未満:56万9206人
- 22万円以上~23万円未満:38万3582人
- 23万円以上~24万円未満:25万3529人
- 24万円以上~25万円未満:16万6281人
- 25万円以上~26万円未満:10万2291人
- 26万円以上~27万円未満:5万9766人
- 27万円以上~28万円未満:3万3463人
- 28万円以上~29万円未満:1万5793人
- 29万円以上~30万円未満:7351人
- 30万円以上~:1万2490人
厚生年金は、前述のとおり収入や加入期間で決まるため、個人差が大きいのが特徴です。
働き方の違いから、個人差や男女差が大きいことがわかります。
続いて、国民年金の月額一覧をチェックしていきましょう。
5. 「国民年金」の月額平均を一覧表でチェック
同じく厚生労働省年金局の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、次は国民年金の平均受給額を確認します。
5.1 国民年金の平均月額
- 〈全体〉平均年金月額:5万6316円
- 〈男性〉平均年金月額:5万8798円
- 〈女性〉平均年金月額:5万4426円
5.2 国民年金月額階級別の老齢年金受給者数
【国民年金】月額階級別の老齢年金受給権者数
出所:厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 1万円未満:6万5660人
- 1万円以上~2万円未満:27万4330人
- 2万円以上~3万円未満:88万1065人
- 3万円以上~4万円未満:266万1520人
- 4万円以上~5万円未満:465万5774人
- 5万円以上~6万円未満:824万6178人
- 6万円以上~7万円未満:1484万7491人
- 7万円以上~:178万3609人
ボリュームゾーンを見ると、「6万円以上~7万円未満」の受給者が最も多いことが分かります。
自営業者や専業主婦などは、国民年金のみを受給することになりますが、老後の生活費としては心もとない金額といえるでしょう。
国民年金基金や付加保険料で公的年金を増やす方も多いです。また、繰下げ受給を行なうことで受給額を増額することもできます。
他にも、個人年金保険やiDeCoなどを使い、独自の年金を作る方もいますね。
6. まとめにかえて
今回は厚生年金と国民年金の受給額や天引きされるお金について見てきました。
今は働きながら年金を受給するシニアも増えています。それぞれの支給額が一定額を上回る場合、どちらからも住民税が徴収されるため、「二重課税では?」と驚く方もいます。
年金からも天引きされるお金があることを知ることで、ねんきん定期便などに記載された金額を鵜呑みにするのではなく、収入目安額を適切に把握することができるでしょう。
少子高齢化が加速する日本では、現役世代だけではなく高齢者世代にも社会保険料の負担が増加しています。
今後も社会保険料などの負担が増えれば、年金の手取り額がさらに減少する可能性もあるでしょう。
年金以外に頼れる老後資金を準備しておくことが大切です。まずは、自分に合った老後資金の備えについて情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和6年度の年金額改定についてお知らせします ~年金額は前年度から2.7%の引上げです~ 」
- 日本年金機構「Q.年金から所得税および復興特別所得税が源泉徴収される対象となる人は、どのような人でしょうか。」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 宮崎県都城市「給与と年金、両方から特別徴収されるのはなぜですか?」
執筆者
株式会社ナビゲータープラットフォーム メディア編集本部
LIMO編集部記者/編集者/元公務員
京都教育大学卒業。くらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」のLIMO編集部で、厚生労働省管轄の公的年金制度や貯蓄、社会保障、退職金など、金融の情報を中心に執筆中。大学卒業後は教育関連企業での営業職を経て、2010年に地方自治体の公務員として入職。「国民健康保険」「後期高齢者医療制度」「福祉医療」等の業務に従事した。主に国民健康保険料の賦課、保険料徴収、高額療養費制度などの給付、国民年金や国民健康保険への資格切り替え、補助金申請等の業務を担う。特に退職に伴う年金や保険の切り替えでは、手続きがもれることで不利益を被ることがないよう丁寧な窓口対応を心がけた。その後、保険代理店にてマーケティング業務に従事。保険料比較サイトの立ち上げに参加した。乗合保険会社の商品ページだけでなく、保険の知識を普及するためのページ作成にも参加。小学校教諭一種免許、幼稚園教諭一種免許、特別支援学校一種免許取得。
はたらく世代のお金の診断・相談サービスを行うマネイロでは、「【計算例付】厚生年金保険料はどのように決まる?ケース別算出方法や受給額を解説」など、お金や年金制度にまつわる記事を発信中。京都府出身。(2024年3月18日更新)
監修者
株式会社ナビゲータープラットフォーム メディア編集本部
LIMO編集部記者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)/元銀行員
1992年生まれ。兵庫県出身。武庫川女子大学文学部卒業後、2015年に株式会社三菱UFJ銀行に入社。国内外株式の仲介、国内外の債券、投資信託、生命保険、住宅ローンなどの販売を通じ、主に個人顧客向けに資産運用提案業務に従事した。特に投資信託、保険商品の提案を得意とし、豊富な金融知識を活かした丁寧でわかりやすい提案が強み。表彰歴多数。2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)保有。
現在は株式会社ナビゲータープラットフォームのメディア編集本部・LIMO編集部に所属。「くらしとお金の経済メディア~LIMO(リーモ)~」では厚生労働省管轄の公的年金(厚生年金保険と国民年金)、年金制度の仕組み、退職金、資産運用や貯蓄、NISA、iDeCoなどをテーマに企画・編集・執筆を行う。(2024年2月27日更新)。
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