なんと「がんの予防効果」まで…じつは「日本酒」が秘めている「3つの健康増進効果」

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食の多様化、欧米化に連動するかのように、この50年で日本人の食生活は大きく変化しました。それに伴い、アルコール飲料の消費量は減少し、中でも日本酒は顕著です。1973年のピーク時には176万kLあった課税移出数量が2013年には58 万kLと約3分の1にまで減少しています。
しかし、クールジャパン推進策の一環として日本酒や焼酎などの日本産のお酒を海外に売り込もうという施策も相まって日本酒の輸出量は堅調な伸びを示しています。また、「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた「食」に関する「習わし」としての「和食:日本人の伝統的な食文化」が2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にも和食が注目されるなか、今後日本酒は世界に注目されるお酒になっていくと思われます。
*本記事は、和田美代子(著)、高橋俊成(監修)『日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです

日本酒の発がん予防効果

お酒好きの人は肝硬変や肝がんになりやすい、とよくいわれます。しかし、もともと日本の肝硬変死亡率は世界のうちでも低いほうです。欧米では肝硬変の原因の80%がアルコールとされていますが、日本でのおもな原因はC型肝炎ウイルスで、アルコールに起因するのは10%程度にすぎません。

1966~1982年の16年にわたり、当時の国立がんセンター研究所が行った追跡調査(全国6府県24保健所管内の40歳以上の健康者約26万5000人を対象)では、適量のお酒を飲む人のがん死亡率が低下することが明らかになっています。

それによれば、毎日喫煙、飲酒、肉類を摂り、しかも毎日緑黄色野菜を摂らない群が、各種がんの最高リスクを示しています。ところが、このうちお酒の量が比較的多い40~54歳に限ってみると、飲まない人に比べて肺がん、肝がん、胃がん、大腸がんの死亡リスクはむしろ低いことがわかったのです(ただし喉頭がんと食道がんは飲酒者で高い)。

また文部科学省特定領域研究「発がん要因の評価に関する研究」でも同様の結果を見いだしています。約12万6000人(40~79歳)を10年間(1992~2002年)追跡調査したところ、追跡開始後5年目までの成績は、飲酒者の全がん、肝臓がん・肝内胆管がん、胃がん、肺がんの各死亡率が非飲酒者や禁酒者より明らかに低く、7年目でも同様な傾向が示されました。

こうした疫学的研究の成果に照らして、滝澤教授らは、日本酒のがん抑制効果を確かめる実験を試みました。その結果、日本酒に多く含まれる微量物質が、ヒトのがん細胞の増殖を抑制することがわかったのです。

実験ではまず秋田県の日本酒100mLを2・5mLに減圧濃縮した試料をつくり、これを5段階の濃度に調製しました。そして、これらの試料を膀胱がん、前立腺がん、子官がんの各細胞を加えて24時間培養し、がん細胞の変化を観察しました。その結果は、64倍に薄めた試料ではがん細胞を90%以上、128倍希釈した試料では50%萎縮あるいは死滅(壊死)させました。その効果は日本酒試料の濃度に比例しています。

またウイスキーとブランデーでも同様の実験が行われていますが、同じようながん増殖抑制効果は認められていません。

善玉コレステロールを増やす

動脈硬化が進行すると、血管に血のかたまりができて、虚血性心疾患などさまざまな症状があらわれます。この動脈硬化は血液中の脂肪の一種であるコレステロール値が多くなることによって促進されます。コレステロールには善玉(HDLコレステロール)と悪玉(LDLコレステロール)があることは認識されていますが、バランスが崩れて悪玉が増えると動脈硬化が起こりやすくなります。日本酒は善玉コレステロールを増やすことが明らかになっています。

また、血液を固まりにくくする働きを持つウロキナーゼを増やし、逆に固まりやすくするトロボキサンチンA2という物質を減らす効果が認められています。

ストレス解消作用

私たちの体はストレスが加わると、交感神経の末端から分泌されるノルアドレナリンというホルモンの作用や膵臓の自律神経の緊張によって血管が収縮し、血液循環が妨げられてしまいます。しかし、日本酒に限ったことではありませんが、くつろいで適量のお酒を楽しめば、血液循環が促されます。アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドは二日酔いの原因ですが、血管を拡張させ、血流を促すプラス作用があることが近年確認されました。

あらゆる病気は、血液の流れがスムーズにいかないことが発端とさえいわれています。肩凝りなど筋肉の凝りは血液循環が滞って疲労物質がたまっているサインです。女性に多い冷え症は、末梢血管まで血液が行き渡らずに起こります。日本酒は、凝りや冷え性の原因となる血管収縮を阻止する作用に優れています。

またお腹の最深部にある膵臓は自律神経に敏感な臓器で、精神状態がいいときのほうが十二指腸に送り出す膵液(食べものを消化する酵素)は流れやすくなります。この流れを制御しているのが膵液や胆汁の出口にあたるODDI(オッディ)という筋肉です。弊害が起きると、この括約筋が収縮してしまうのですが、日本酒にはODDIを弛緩させる働きもあります。ですから、酒類の中でも日本酒は、より自律神経の安定につながるのです。

酔えばいいというのではなく、肩の凝らない相手と料理をおいしくいただきながら、ゆったり日本酒を味わっているうちに、ストレスがスーッと消えていた。一日の仕事を終え、くつろぎながら味わう晩酌のひとときもそうでしょうが、こうした実感には、科学的裏づけもあるわけです。

さらに連載記事<「日本酒」はやっぱり凄かった…! 世界でもその技が「抜きんでている」といえる「納得のワケ」>では、日本酒造りにおける高度な技術について解説します。

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