最初は回ってなかった! 「回転式そうめん流し器」発祥の地を訪ねて 仕掛け人は町助役、ヒントは中華料理にあった

涼しげに流れるそうめんを味わう家族連れ=指宿市営「唐船峡そうめん流し」

 涼しげに流れるそうめんを味わう家族連れ=指宿市営「唐船峡そうめん流し」

〈関連〉唐船峡そうめん流しは開業当初、竹どいを利用していた(指宿市提供)

 〈関連〉唐船峡そうめん流しは開業当初、竹どいを利用していた(指宿市提供)

 ドーナツの形をした水槽の中をそうめんがぐるぐる回る。箸ですくい、めんつゆにつけて、つるつるっ。
 6月中旬、鹿児島県指宿市の唐船峡。地下水の湧くひんやりした渓谷は、そうめん流しを楽しむ人でにぎわう。家族4人で訪れた地元の原幸一さん(45)は「子どもが喜ぶので毎年来る。わが家の恒例行事」と笑顔を見せた。
 鹿児島でそうめん流しといえば、丸テーブルを囲み中央の流し器で回して食べる。涼を売りにする行楽地の多くに設備があり、ドライブがてら食べに行くのが夏の風物詩だ。発祥がここ唐船峡。市営を含め3カ所の飲食施設が軒を並べる。
 そうめんを回すのに電気は使わない。水槽内にノズルが4カ所あり、そこから反時計回りに水が勢いよく出る仕組みになっている。
 流し器の誕生は約60年前にさかのぼる。開聞町(現指宿市)が九州最大の湖・池田湖を源にする京田湧水を生かした地域おこし策として施設を開業した。当初は、竹どいで上から流す一般的なスタイルだった。
 ただ、すぐに課題が浮上した。市営「唐船峡そうめん流し」の原村誠係長(48)によると、竹にカビが生える上、そうめんを流す役は食べられないという点だ。
 開業の仕掛け人で、町助役だった故井上廣則さんが職員らと改善策を思案。中華料理の丸テーブルと、たらいに入れた洗濯物を手で回すとできる水流のイメージから「回転式」のアイデアが生まれた。
 相談を受けたのが鹿児島市のプラスチック製品加工「鶴丸機工商会」だ。
 発想はユニークながらも難題続きだった。水流が強くなりすぎると、水とそうめんがあふれる。そうめんの玉がそのまま流れれば箸ですくいにくい-。
 久保健市社長(68)の先代で、父の兀(たかし)さん(故人)が改良を重ねた試作品は約20台に上ったという。ノズルから噴き出す水を水槽の壁に当てて流れを複雑にすることで、ようやく製品化にこぎ着けた。
 1970(昭和45)年には「回転式そうめん流し器」が意匠登録された。指宿への新婚旅行ブームも追い風になり、「唐船峡」は県外にも知られるようになっていく。
 今や年間約20万人、夏場の多い日は3000人超が訪れる人気スポットだ。市営施設の入り口では「唐船峡の恩人」井上さんの銅像が見守っている。
◇めんつゆも大人気、年間170万本出荷
 「唐船峡」でもう一つの人気が、めんつゆだ。市営そうめん流しに隣接する唐船峡食品が製造。年間約170万本を出荷する。鹿児島産かつお節を使い風味豊かな仕上がり。500ミリリットル302円、1リットル518円。同社=0993(32)5240。

鹿児島県内外で人気の「唐船峡めんつゆ」

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