人ごとではない集落の孤立…鹿児島にも多い半島先端の集落 能登半島地震の被害から学ぶこと

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能登半島地震では主要な道路が寸断されて多くの集落が孤立し、外部からの支援物資や人員輸送にも時間がかかり、復旧の足かせとなっている。同様に鹿児島県内にも孤立のリスクがある地域が点在している。

能登半島地震で3345人が孤立

2024年元日に発生した能登半島地震。石川県では最大震度7を観測し、住宅の倒壊や津波などで3月1日時点で241人が死亡。7人の安否がわかっていない。

石川県で災害危機管理アドバイザーを務める、神戸大学の室崎益輝名誉教授は、能登半島地震の特徴を「能登半島というのは、以前から幹線道路が1本しか通っていない。小さな道路はあるが、非常に細いし、物を大量に運べない。まさに半島部が持っている宿命的な1番の弱点がそこ。結果として、多くの集落が孤立するということを教えてくれた」と分析する。

今回の地震では、珠洲市や輪島市など被害の大きかった地域につながる道路がことごとく寸断され、周囲を海と山に囲まれた地域では、最大24の集落で3345人が孤立した。

鹿児島県に孤立のリスク 過去にも…

実は、鹿児島県でも半島の孤立リスクが存在する。

2012年に発生した土砂崩れ
2012年に発生した土砂崩れ

18世帯25人が暮らす、大隅半島・肝付町南方の東部に位置する津代集落。集落に向かう主要な道路は、海沿いの町道のみ。
実はこの集落、2012年に梅雨末期の大雨で土砂崩れが発生し町道が寸断、集落の住民は公民館で避難生活を余儀なくされた。

この集落に40年以上暮らす春田静夫さんは「ボーンと(音が)した。ヘリコプターが落ちたような感じ。びっくりして(外に)出たら家がなかった。船から(物資を)運んでもらって、公民館で(食事をとった)」と当時を振り返る。

2024年2月、鹿児島県本土で半島の先端地域にある南さつま市・錦江町・南大隅町、そして津代集落のある肝付町は、それぞれの自治体のトップなどが集まり、インフラ対策に関する勉強会を開催した。
能登半島地震と同等以上の災害が発生した場合の被害想定が示され、肝付町では津代集落を含む16の集落で約450人が孤立すると予想された。

孤立の可能性がある集落 対策は?

大きな災害で鹿児島県内でも起こりうる集落の孤立。取材班は薩摩半島の先端にある南さつま市笠沙町の片浦集落を訪れた。

急な斜面に家々が立ち並ぶこの集落も、地域につながる主要な道路は国道226号のみ。災害により孤立するリスクを抱える集落だが、消防団員は、なり手不足で集落にいない。

そんな中、公民館長を務める橋口一郎さんは、自主防災組織の取り組みに力を入れていると話す。

片浦公民館・橋口一郎館長:
災害があった時に、自力で避難できない人が結構いる。集落をブロックで分けていて、ブロックごとに避難誘導員を置いて、各家を回って避難を促す。避難先を全部書きとどめて、どこの誰がどこにいるかを公民館で把握している

災害に備え、集落では工夫をこらしているものの、能登半島地震の被災地を見て、橋口さんはあることを心配するようになった。

片浦公民館・橋口一郎館長:
(Q:公民館で何か備蓄はあるか?)いや、それは今のところない。往来ができない、その中で生活していかないといけないとなったら大変

道路の寸断は、集落の孤立と同時に水や食料などの輸送も困難にする。
実際、能登半島地震では被災地に物資が届くまでに4日かかったケースもあった。

南さつま市に保管されている災害用の備蓄品
南さつま市に保管されている災害用の備蓄品

現在、災害用の備蓄品を市役所の本庁や支所で保管している南さつま市。
地震を受けて、2024年度予算案に追加物資の購入費も計上したが、保管のあり方の見直しも迫られている。

南さつま市・本坊輝雄市長:
市役所の本庁や支所中心で備蓄をする考え方が今まであったが、分散化を考えないといけない。いつ何時、どういうことがあるかわからない。スピード感、緊張感を持って取り組まないといけない

災害時の県外派遣 課題の指摘も

鹿児島県内の民間4事業者で組織する「鹿児島民間救急サービス協会」の浜田靖代表は、1月22日から5日間、金沢市を拠点に、特に被害の大きかった珠洲市、輪島市をはじめ、石川県内各地から搬送された患者の転院や、2次避難所などへの転送に従事した。1本しかない道を4~5時間かけて走ったこともあり、鹿児島で同様の災害が起きた時のことが頭をよぎったという。

東日本大震災や熊本地震の被災地にも派遣された浜田さんは、今回の経験もふまえ「(県外で)最も苦労するのは道が分からないこと。鹿児島で何かあれば近隣の県から応援をもらうことも想定される。日頃から合同で訓練することも必要では」と指摘した。

甚大な被害を出した能登半島地震の発生から2カ月。
神戸大学の室崎益輝名誉教授は、防災意識が高い石川でさえ、想定を超えた地震に機能停止を迫られた実情を「能登半島は共同体。コミュニティーもしっかりしていたし、石川県全体でも、自主防災組織の活動率・組織率は全国で4位か5位。例えば地区防災計画を作る取り組みをしているという意味では、僕は積極的に行われていたと思う。にも関わらず、全く機能していない」と語る。

道路の寸断により、集落の孤立や支援物資の輸送が当初の課題だった能登半島地震は発生から2カ月たち、今、ボランティアの不足に頭を抱えている。

復旧にはほど遠い石川の被災地の課題を、いかに「わがこと」としてとらえていくのか。
わたしたちも突然やってくる災害に備え、足元を見つめ直す必要がありそうだ。

神戸大学・室崎益輝名誉教授
神戸大学・室崎益輝名誉教授

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ

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