自衛隊の元陸将は、鹿児島が「対中国で最も注目されている」と言う 奄美、馬毛島、鹿屋…最前線化は進むが、国民保護計画は途上

奄美の部隊を訪問後、12式地対艦誘導弾(左)などを背景に会見で握手を交わす陸自と米太平洋陸軍のトップ=2022年9月8日、奄美市名瀬

 奄美の部隊を訪問後、12式地対艦誘導弾(左)などを背景に会見で握手を交わす陸自と米太平洋陸軍のトップ=2022年9月8日、奄美市名瀬

陸上自衛隊の瀬戸内分屯地に配備されている12式地対艦誘導弾=2022年8月31日、奄美市名瀬

 陸上自衛隊の瀬戸内分屯地に配備されている12式地対艦誘導弾=2022年8月31日、奄美市名瀬

 政府は昨年12月、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を安保関連3文書に明記した。戦後政策の大転換は、海洋進出を強める中国を念頭に南西諸島の防衛力強化が主眼となっている。
 反撃能力を担う「12式地対艦誘導弾」の能力向上・地上発射型は2025年度の開発完了を目指すとした。現行の12式は陸上自衛隊瀬戸内分屯地(瀬戸内町)にあり、引き続き配備が有力視されている。奄美駐屯地(奄美市)に置かれる中距離地対空誘導弾の改良も明記した。
 南西防衛の下地を築き、国家安全保障局顧問を務めた元陸将の番匠幸一郎さん=鹿児島市出身=は3文書改定を「抑止力を高める」と評価した上で、「離島だけでなく、本土を含めた総合的な強化が重要」と指摘する。
 反撃能力は日本単独では持てず、日米の連携に加えて情報、監視、偵察能力の強化が欠かせない。弾薬庫も全く足りていないとみる。「鹿児島で対中国の新たな動きが続いている。世界で最も注目されているエリアだ」と話す。
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 4年前、奄美に陸自施設が開設し、鹿児島は陸海空の強力な部隊がそろう全国有数の拠点となった。中国などの通信を解析する情報本部の通称「象のオリ」(喜界島)、ミサイル防衛の要の空自レーダー(下甑島)もある。
 鹿屋には米軍無人機部隊が一時展開中。工事が進む西之表市馬毛島の自衛隊基地は、米軍空母艦載機の訓練地として米空母の運用を支える。
 最前線化は攻撃リスクと表裏一体だが、住民避難など国民保護計画は全くの途上だ。県は内閣府とともに、屋久島の住民避難を通じ課題を洗い出しているものの、想定は「屋久島1島だけ」の避難にとどまる。
 取り沙汰される台湾有事では台湾、沖縄、奄美の避難者も鹿児島県本土へ向かう見通しだが、受け入れとセットの計画は手付かずのままとなっている。
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 有事の際は、原発やネットワークなどへのサイバー攻撃や情報戦を交えた「ハイブリッド戦」が想定される。ただ、軍事的装備に比べ、暮らしに近いリスクの議論は遅れている。
 琉球大の山本章子准教授(国際政治史)は安保3文書改定について「全面戦争的な話が先行する一方、民間の被害は無視。課題を詰めていくと、部隊が国民を守れないことは明らかだ」と指摘。反撃能力も「日米とも国民に戦う意思はなく、世論の支えのない抑止は極めてもろい。現実的な足元のリスクから議論を積み上げないと、安全保障は成り立たない」と強調する。
 戦後初めて他国への「矛」を持とうとする日本。一翼を担う鹿児島にその覚悟はあるか。国主導で変わりゆく奄美の島々は問いかけている。

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