「一生に一度は行きたい島」の「何度でも訪れたい場所」レポ! 縄文杉に行かない「屋久島」の絶景『もののけ姫』ゆかり「白谷雲水峡」の「幻想的すぎる」原生林の世界

 1993年、白神山地とともに日本で初めて世界遺産に登録された屋久島。2022年に阪急交通社が実施した「一生に一度は行きたい離島」ランキングでは、堂々の1位に輝くほど憧れをもつ人が絶えない島である。

 屋久島といえば「縄文杉」。日本一とされるその圧倒的な大きさと、7200年もの年月、生命を紡いできた神秘性で多くの観光客を魅了する。ただ、いかんせんそのルートは過酷である。縄文杉はほぼ人の手が入っていない深い森の奥にある。全長22km、高低差700mの険しい道であり、まだ暗いうちから出発し、往復10〜11時間ひたすら歩く。


まだ日が昇る前の5時台からライトをつけながら歩きはじめた(撮影:佐野葉月)


雨が降り注ぐ中、5時間ほど歩いたその先に霧がかった縄文杉が見られた(撮影:佐野葉月)

 険しい道の先にたどり着いた縄文杉。はるか昔、紀元前から力強く生きてきたその姿は言葉では言い尽くせない生命のパワーが感じられた。

 ただ、普段ジムやランニングなどで体を動かしている筆者であったが、この縄文杉トレッキングはガイドのペースについていくだけで必死だった。道中に有名スポットで写真を撮影することは多少あるものの、日帰りで往復するにはかなりのペースが求められるため、あまりゆとりはなかった。


屋久杉の切り株「ウィルソン株」は、中から覗くとハートの形に見える(撮影:佐野葉月)

 そこで、一般的な観光日数が2泊3日といわれる屋久島をもう少しゆったりと楽しみたい人や、体力に自信がない人、またファミリー連れには、おすすめしたい他の選択肢がある。それが、「白谷雲水峡」である。縄文杉はゴール時の達成感が大きいが、白谷雲水峡は歩く過程そのものを楽しめ、より強く印象に残った。

 この記事では、筆者にとって「何度でも訪れたくなる場所」となった白谷雲水峡の魅力を伝えながら、屋久島に来たのであれば、ぜひ足を運ぶべき3つの理由を紹介したい。

■白谷雲水峡とは

 白谷雲水峡は、面積約424haにわたって広がる自然休養林である。日本に存在する1600種類の苔のうち、なんと約600種類もの苔が生息するといわれ、美しい緑と水の世界を手軽に堪能できる。コースは3つあり、全長最大8km、高低差最大400m。高低差があり危険な箇所もいくつかあるので、トレッキングシューズでの散策をおすすめする。

 また、白谷雲水峡は林野庁の「水源の森百選」にも選出されており、トレッキング中にはあちこちで美しい水場が見られる。豊かな森の土壌という天然のフィルターを通した水は、有機物をほぼ含まない硬度10mg/Lの超軟水。筆者も飲んだが、驚くほどまろやかでほのかに甘みを感じるほど美味しかった。そのため、ペットボトルの水を何本も持ち歩く必要はない。


随所で見られる美しい渓流に心身ともに癒やされる(撮影:佐野葉月)

■白谷雲水峡を訪れるべき3つの理由

●1. 中心部からバスで25分

 島は交通が不便なので、アクセスのしやすさは重要である。縄文杉に行くには、早朝5時頃にバスに乗るため、まだ真っ暗な4時頃から動き出さなければならなかった。また、前日からバスチケットを購入したり、お弁当の予約をしたりと念入りな準備が必要である。一般車両の制限をしているため、レンタカーで行くこともできない。

 一方、白谷雲水峡は比較的アクセスし易い場所だといえる。観光の中心である宮之浦エリアからバスが出ており、本数は少ないが朝の8時台から15時台まである。宮之浦エリアには宿泊施設も多くあるため、バス停まで徒歩で行きやすい。バスに乗ると25~30分程度で白谷雲水峡の入り口に到着でき、手軽に登山へ出かけられるのが魅力である。また、無料の駐車場もあるのでレンタカーを利用することもできる。ただ、ハイシーズンには早い時間に満車になるので、できるだけ早朝に行くことをおすすめする。


帰りのバス停留所前の看板(撮影:佐野葉月)

●2. 体力や時間に応じて3つのコースから選べる

 縄文杉は全長22km、往復10〜11時間の長い山行となり、そのコースは1本のみ。最初のトロッコ道が終わると、あとは険しい山の中に入っていくので、体力に自信がない人には辛く感じるかもしれない。

 一方、白谷雲水峡は時間や体力に応じて3つのコースから選ぶことができる。 所要時間1〜2時間の「弥生杉コース」、約3時間の「奉公杉コース」、4〜5時間の「太鼓岩往復コース」の3つである。

出典:「白谷雲水峡案内図」(九州森林管理局Webサイト)

【URL】https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kokumin_mori/katuyo/reku/rekumori/pdf/yakushima_shiratani.pdf

 筆者は太鼓岩往復コースを歩いたが、終盤300mは急な登り坂に苦労するものの、それ以外はアップダウンも少なめなので、歩きやすかった。


ゴールの太鼓岩から見える景色は霧がかってしまったが、大満足のトレッキングだった(撮影:佐野葉月)

 また、散策中には「くぐり杉」や「女神杉」など形が珍しい杉や、樹齢3000年と言われる「七本杉」など古木もたくさん見られ、飽きることなく楽しめる。時間・体力・精神共にゆとりがあるので、ゆっくりと写真を撮りながら自分のペースで歩くことができるのも魅力である。


形がめずらしい「くぐり杉」。くぐり抜けると幻想的な「もののけ姫」の森まであと少し(撮影:佐野葉月)


写真に収まりきらない「女神杉」。しなやかなラインが女体をイメージさせる(撮影:佐野葉月)

●3. 神秘的な苔の世界! 雨の日でも堪能できる

 筆者が白谷雲水峡をおすすめする最大の理由はこれだ。目に映る緑の苔の世界がとにかく神秘的できれいだ。ゴールは太鼓岩だが、そこに至るまでの道もずっと楽しい散策となる。


まるでおとぎ話に出てくるかのような幻想的な景色が続く(撮影:佐野葉月)

 とくに、入り口から1時間半〜2時間ほどで現れる「苔むす森」は、息を呑むほど美しい。映画「もののけ姫」のモデルとなった場所だといわれており、宮崎駿監督も何度も訪れたそうだ。ゆっくり歩いていると、森の精霊「こだま」がひょっこり顔を出しそうな幻想的な場所である。


「苔むす森」に入ると、岩も木の幹も枝も美しい緑で覆われる(撮影:佐野葉月)

 また、屋久島は日本一雨が多い地域なので、トレッキングにも雨はつきものだ。筆者が滞在した4日間も、うち3日はしとしとと雨が降っていた。トレッキングに雨なんて、とがっかりする人もいるだろうが、白谷雲水峡は雨の日こそ、その魅力が増すといわれている。岩も木の幹も枝も覆う緑の苔の上には、雨の雫が輝き、青みがいっそう深くなる。また、茂った木々が雨よけになってくれ、傘をささなくてもそれほど気にならない。ただ、雨天時は沢が増水しているので歩く際は十分注意したい。

 そして、雨上がりの景色はとくに絶景だ。ぜひその目で美しさを思い切り堪能してほしい。


生命の神秘を感じる森(撮影:佐野葉月)

 筆者が白谷雲水峡を訪れた最初の印象は、「日本にこんなところがあったのか」、同じ日本だと思えないような、どこまでも広がる神秘的な水と緑の世界。一度訪れたらまた必ず行きたくなる、といわれる不思議な生命の神秘を感じるもののけの森。心身ともに癒やされる森にぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

白谷雲水峡
・住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦

【ホームページ】http://y-rekumori.com/shiratani_text/

※この記事の情報は2023年7月現在のものです。内容が変更される場合もありますので、最新の情報はリンク先のHPでご確認ください。

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