「台湾も沖縄も軍事的なコマ・・・」米中対立の最前線、二つの島から見た“台湾有事”【報道特集】

「台湾も沖縄も軍事的なコマ・・・」米中対立の最前線、二つの島から見た“台湾有事”【報道特集】|TBS NEWS DIG

米中対立のなか、注目されているのが沖縄の南西諸島にある巨大空港です。一方、台湾の最前線、金門島では守備部隊の実弾演習を取材。かつての要塞の島は中国との関係をどう捉えているのでしょうか。

最前線 要塞化する南西諸島

宮古海峡上空で、中国の艦船を「目標」と呼び追跡するP3C対潜哨戒機。

巡田忠彦記者
「沖縄本島まで約280㎞ある宮古島。その宮古海峡を抜けて、中国の艦隊は太平洋に出ていきます」

アフターコロナで観光客が戻り平和的な顔を見せているが、安全保障関係者の間では、南西諸島が台湾有事の最前線と位置づけられている。

中国の防衛ライン・第1列島線と重なる南西諸島に、日本政府は“反撃能力”と称して次々にミサイルを配備している。

元統合幕僚長 河野克俊 海将
「第1列島線が世界のフロントライン(最前線)になった」

宮古島全体を見下ろす高台にある航空自衛隊のレーダーサイト。台湾さらに中国大陸の一部まで監視する。2023年4月、偵察のためにここを飛び立ったヘリがわずか10分後に消息を絶った。約1か月後に引き上げられたヘリには南西諸島の防衛を担う部隊の師団長らが搭乗していた。

奇しくも中国の艦隊が付近で活動していた為に、攻撃されたのではないかと根拠のない憶測を呼んだ。それほど東シナ海の緊張が高まっているのだ。

“有事”で注目される巨大空港

離島には不釣り合いな巨大な空港が存在する。長さ3000m、面積は那覇空港の1.3倍。“下地島空港”だ。

航空自衛隊の最南端基地、那覇空港から中国が領有権を主張する尖閣諸島まで約420㎞。戦闘機で30分を要する。下地島空港なら約半分以下の190㎞だ。

台湾有事が取り沙汰される中、この空港が俄然注目されている。パイロット出身の永岩俊道元空将は下地島空港が最重要拠点だと指摘する。

元航空支援集団司令官 永岩俊道 空将
「(台湾有事に下地島空港は)極めて重要。南西諸島にたくさん空港があるが、戦闘機等が運用できるのは極めて限られている。(戦闘機を運用できる)300mの滑走路は下地島だけだ。これは必要不可欠の空港だと思っていました」

しかし“緊急発進”が必要な時でも下地島空港は使えない。実はある文書が“軍事的な使用”を阻んできた。当時の琉球政府が日本政府と交わした、いわゆる『屋良覚書』の中に『民間航空機以外には使用させない』と明記されているのだ。

2015年には宮古島と空港を結ぶ伊良部大橋が完成、現在は民間機が発着し観光客が押し寄せている。しかし、台湾有事が浮上する中で屋良覚書の存在は薄くなりつつある。

奥平一夫元県議は台湾危機に乗じた“屋良覚書”の形骸化に危機感を募らせる。

元沖縄県議会議員 奥平一夫氏
「有事という“煽り言葉”で住民を惑わせるなと思う。有事になると米軍機や自衛隊機も飛んでくる。住民の中からも反対だと言えない、そんな場合じゃないだろうという(雰囲気になる)」

自衛隊誘致を進めてきた自民党の市議会議員は…

宮古市議会 粟国恒広議員
「今の国際情勢を見ると(屋良覚書は)考え直す時期に来ている。3000m級の滑走路は島の財産ですから」

政府が台湾有事を念頭に防衛力強化を進める一方で、宮古島市への移住者は確実に増加している。

奈良県から移住
「移住してきた。奈良県から」
関東から移住
「自然豊かできれいな所だなと思って」

市民にも危機感は殆ど感じられない。

ーー台湾有事というのは聞いたことありますか?

宮古島市民
「ないです。(話題にも)ならない」
「友達の間でも、職場でも(話題にならない)。実際に戦争が起こるという危機感はない」

しかし、既に“台湾有事”が大きく影を落としている場所がある。“鰹御殿”と呼ばれる住宅が並ぶ佐良浜漁港。沖縄県の8割の鰹が水揚げされてきた。しかし現在、中国が領有権を主張する尖閣諸島周辺での漁は中止している。

佐良浜漁協 漢那一浩 前組合長
「いつかウクライナとロシアみたいに、中国が強く出れば何か起こりかねないという思いはある」

6月、東シナ海に初めて現れた中国の最新鋭情報収集機が台湾周辺を飛行した。日米仏3か国合同演習を偵察したものとみられる。

一方、鹿児島県の鹿屋基地ではアメリカ軍の無人偵察機が運用を開始した。偵察範囲は2000㎞、台湾がすっぽり入る。アメリカと中国の対立は日本を巻き込み、既に熾烈な神経戦を展開しているのだ。

極秘文書示す“有事”の沖縄

そのアメリカは台湾有事の際、最前線と想定される沖縄をどう見ているのか。それが読み取れる資料がある。

1958年に始まった第二次台湾海峡危機。台湾、金門島に激しい砲撃を繰り返す中国に対し、アメリカは沖縄からの核攻撃を検討していた。

当時の極秘文書が公開されている。元国防総省の職員がリークしたもので、米軍制服組トップの発言が残っていた。

「台湾と沖縄が核の報復に巻き込まれることは間違いない。しかし、その結果は受け入れなければならない」

基地問題に詳しい、沖縄国際大学の野添准教授は、こう憤る。

沖縄国際大学法学部 野添文彬 准教授
「非常に冷徹な発言だと思いました。結局、台湾も沖縄もアメリカからすると軍事的なコマなんだなと思わされます」

2023年1月に公開された、アメリカのシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)による
“台湾有事”のシミュレーションでも大前提として、作戦には「日本の基地が使用できなければならない」とあり、アメリカ軍と自衛隊の被害が想定されている。

▼シミュレーションでの被害想定(最大)
米軍 航空機:484機 艦船:17隻
自衛隊 航空機:161機 艦船:26隻

沖縄国際大学法学部 野添文彬 准教授
「最大の問題は、沖縄に住んでいる人々、民間人の被害や犠牲について、何らの考慮もされていないこと。中国からミサイルが沖縄などに何千発と発射されて攻撃されることは、受け入れなければならないと、(1958年の時と)同じように考えていると思います」

一方、台湾の最前線では…

台湾の最前線 金門島の現状

要塞の島「金門島」。台湾本島から200㎞離れているのに対し、対岸の中国・福建省アモイ市からは近いところで2㎞ほどしかない。島を守る部隊の演習の取材が許された。外国メディアに公開されるのは異例のことだ。

演習は沖合の島に敵が上陸したとの想定で行われた。

日下部正樹記者
「相当距離はありますが、爆風を感じました」

金門島の面積は、周辺の島々を含めても小豆島ほど。かつて、この小さな島に10万とも言われる台湾軍の兵士が駐留していた。

守備部隊兵士
「金門島は前線なので戦地の緊迫感があります」
「もし戦争となれば必ず最前線にたちます」

現在、島の兵員数は最大時の30分の1にも満たない。要塞の島に何があったのか。

日下部記者
「金門島の海岸には敵の上陸を防ぐための杭が打たれています。海の向こう、5㎞ほど先には中国・福建省アモイ市の高層ビル群を望むことができます」

以前、海岸線には地雷が敷設され、海には近づけなかった。今は観光用に旧式戦車が並べられている。長い間、金門島は有事の際、中国の最初の標的になると見られてきた。

1958年8月、人民解放軍は島に向け一斉に砲撃を開始する。第二次台湾海峡危機だ。40日あまりで47万発の砲弾が撃ち込まれた。その後、散発的になるが、砲撃は1979年まで続いた。

砲撃に備え、島には迷路のように地下通路や防空壕が掘られた。

日下部記者
「地元の人々も軍と一緒に掘った地下通路。政府機関や軍事施設に地下を通じて行けるように掘られたそうです」

ただ島民は黙って砲撃に耐えていた訳ではない。大量に打ち込まれた砲弾に目を付けた。砲弾は包丁に姿を変えた。材質が適していたのだ。いつしか「金門包丁」として島の名物となり、世界中から注文があるという。材料不足の心配は全くない。

ーーひとつの砲弾からどのくらい出来る?

包丁屋 呉増棟さん(65)
「だいたい60丁くらい」

呉さんが生後7か月の時、最初の砲撃があった。それが20才まで続いた。音を聞いただけで着弾地点がわかったという。

呉増棟さん
「砲弾を利用した包丁は平和の象徴です。中国との戦争が2度と起きないよう願っています」

東西冷戦の終結が島のあり方を大きく変えた。2001年1月、半世紀にわたり途絶えていた対岸・福建省との往来も解禁された。軍に依存していた島の経済は、中国依存に大きく舵を切ったのだ。

島の人々の中国に対する意識は台湾本島とは明らかに違う。そもそも金門島は台湾ではない。行政上の地名は「福建省金門県」。台湾に逃げのびた中華民国がわずかに維持している福建省の島なのだ。

金門島選出 陳玉珍 立法委員
「私たちは福建省の金門人です。台湾の金門人だとは思っていません」

金門島選出の立法委員、陳玉珍さん。彼女の言う福建省とはあくまで中華民国の福建省だ。こうした金門島の複雑で微妙な立場を彼女はこうたとえた。

金門島選出 陳玉珍 立法委員
「ウクライナでいうと、金門島はよくクリミア半島にたとえられます。国防部の研究機関によれば戦争が起きた場合、金門島は自力で戦わなくてならない。台湾本島からの支援は困難だからと」

「有事の際は見捨てられるのではないか。だから中国とはうまくやりたい。」島の人たちの本音だ。

金門島で政権与党の民進党は全く人気がない。島民からすると民進党は台湾本島しか見ていないように写る。こんな事もあった。

かつて街の中心部には中国からの観光客を歓迎するため、中国と台湾=中華民国の旗が掲げられていた。今、その旗はない。

屋台店主
「旗を出さないよう言われたんだ。(誰に?)蔡英文政権だよ」

コロナで中国観光客が途絶え、商売あがったりだという。

屋台店主
「彼らは沢山ものを買ってくれるからね」

中国との関係はどうあるべきなのか。

金門島選出 陳玉珍 立法委員
「交流を増やすことです。金門島は戦争を体験したので、もうたくさん。平和に敗者はいない。戦争に勝者はいないのです」

金門島を守っていた数多くの軍事施設は今、重要な観光資源となっている。かつて対岸の中国向け政治宣伝用に使われた巨大なスピーカーからは「アジアの歌姫」テレサ・テンさんの中国向けメッセージと歌が繰り返し流される。

テレサ・テン
「親愛なる大陸同胞の皆さま。こんにちは。私はテレサテンです」
「大陸にいる同胞の皆さんにも私と同じような民主と自由を堪能して欲しい」

いま対岸に声は届かない。あくまで観光客向けだ。こんな場所も人気スポットになっていた。

日下部記者
「獅山砲陣地です。観光客向けのパフォーマンスとして模擬の砲弾があります」

パフォーマンスに使われる榴弾砲は1958年、アメリカ統治下にあった沖縄から運ばれてきた実物だ。兵士姿の女性たちは地元政府の観光局に雇われている。コロナ前は大砲の標的だった中国から来た観光客で賑わっていたという。

ーーもし中国と戦うことになったら?
「出来ません。私たち主婦に出番なんかありません。仕事でやってるんです」

大砲の音がすると観客から歓声があがった。しかし、実際の軍事演習に比べ、それは緊張感とはかけ離れた軽い響きだった。

“台湾有事”どう捉える?

国防安全研究院。赤煉瓦造りの建物は植民地時代、日本軍の司令部だった。国防部傘下の研究機関で軍事や政治、様々な側面から中国を研究している。陸軍出身の沈明室所長が取材に応じた。

国防安全研究員 沈明室所長
「台湾侵攻は様々なシナリオが考えられます。ひとつめは海上封鎖です。斬首作戦もシナリオのひとつでしょう。ミサイルを使って台湾の指導者や軍の重要施設を狙い撃ちします」

海上封鎖、ミサイル攻撃。台湾本島上陸に備えたあらゆる軍事行動を。中国は既に演習済みだという。

ーー今、習近平に「NO」といえる人物がいません。
国防安全研究員 沈明室所長
「台湾に対する(習近平の)企てや政策は思いのままです。政治局常務委員も中央軍事委員会も彼の意思に従うでしょう」

2024年1月13日、台湾では4年に一度の総統選挙が行われる。選挙結果は中国の行動に影響するのだろうか。

国防安全研究員 沈明室所長
「台湾が過激な政策をとらない限り、中国に戦争をはじめる口実を与えることはないでしょう。急いで武力統一するとは思いません。準備は整っていないし、国内問題がまだあるからです」

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