「火山は生きている実感のシンボル」火山とともに生きる生活とは?口永良部島の4つの秘湯と島の自然

口永良部島は島が黙っていないというか、どこか生命力を感じる島でした。これは、今も煙を吐き出す新岳。口永良部島は島が黙っていないというか、どこか生命力を感じる島でした。これは、今も煙を吐き出す新岳。

 ヤシ並木の背後に、暗灰色の噴煙が空を埋めるようにもうもうと立ち上る爆発的噴火をテレビ画面で見た時、衝撃とともに口永良部島の名前をはじめて知りました。

 それは2015年5月のこと、全国ではじめての噴火警戒レベル5(避難)が口永良部島に発令された日です。

 口永良部島は正直、遠いです。

屋久島からさらにフェリーを乗り継ぎ、口永良部島へ。屋久島からさらにフェリーを乗り継ぎ、口永良部島へ。

 まずは、そもそも遠い屋久島へ渡り、さらに屋久島の宮之浦港から1日1便のフェリーで約1時間40分。移動中、船内アナウンスで、もしもの噴火時についての案内が流れた時、はじめて口永良部島を訪れるわたしは少しぴりっと緊張しました。

およそ50万年の間に幾度もの噴火を繰り返し、形成された口永良部島。およそ50万年の間に幾度もの噴火を繰り返し、形成された口永良部島。

 屋久島の北西約12キロに浮かぶ口永良部島。大小2つの島が合体したような形で、周囲約50キロ。東京都の葛飾区ほどの面積の島に約100人が暮らしています。

 たどりついた口永良部島は、大きいほうの島の中央にある新岳からちょろちょろっと煙が立ち上っていました。生きている火山島です。今も活動中のため、新岳の山頂付近の立ち入り禁止と半径2キロ圏内にある道路の通行が禁止されています。

 島には4つの集落からなる2つの地区があります。本村、前田、田代の3つの集落が本村地区、そして車で約40分離れた湯向(ゆむぎ)が湯向地区。

火山が島にもたらした恩恵とは

本村にはよろず屋さん的商店が1軒。飲み物の販売機は港の待合所前に1カ所あるのみ。本村にはよろず屋さん的商店が1軒。飲み物の販売機は港の待合所前に1カ所あるのみ。

 中心となるのは、2つの島が合体した地峡部の南に位置する本村。ここに屋久島からのフェリーが発着する港や、1軒のみの商店や酒店、郵便局や小中学校もあります。

 島のガイドを行う「えらぶ年寄り組」に、島内を案内してもらいました。

 最初に向かったのは標高291メートルの番屋ヶ峰。この高台からは緑豊かな島と沖に浮かぶ三島の島々が望めます。

かつてのNTTの施設を避難所に。かつてのNTTの施設を避難所に。

 そしてこの番屋ヶ峰には島民が1週間、避難できるだけの食料などを備蓄した避難所があります。

 続いて、2015年の噴火の際に火砕流が押し寄せ、海岸まで達した向江浜へ。

火砕流の跡。8年を経ても、荒れた状態。火砕流の跡。8年を経ても、荒れた状態。

 その噴火時、噴煙は上空9,000メートルまで達し、巨大な噴石も飛散。それでも噴火から約5時間半後には屋久島への全島民の避難が完了、負傷者も出なかったそうです。

土石に埋まった向江浜の民家。島民は全員無事だったそう。土石に埋まった向江浜の民家。島民は全員無事だったそう。

 向江浜にはごろごろとした岩の原に骨のように白くなった立ち木が数本、屋根まで土石に埋まった民家も。生命の気配が感じられない溶岩台地に、小川のせせらぎだけが妙に鮮やかに耳に届きます。

 しかし、火山が招くのは災害ばかりではありません。火山がこの島にもたらした恩恵の最たるものが、温泉でしょう。島内には4つの温泉があり、それぞれ泉質や効能、雰囲気が異なります。島内の秘湯めぐりに出かけてみました。

秘湯中の秘湯が島内に4つも!

いちばん施設が整っている本村温泉。管理人さんも常駐。いちばん施設が整っている本村温泉。管理人さんも常駐。

 いちばん行きやすいのは、本村集落にある本村温泉。2008年に完成した温泉施設で、更衣室や洗い場なども整っています。鉄分を多く含む褐色のお湯で、単純温泉。地元の人も訪れます。

 本村集落と反対側の北に位置するのが、西之湯温泉。漁師小屋のような掘っ立て小屋に、男性優先の露天と女性優先の小屋掛けの2つの湯船があります(男女の区別はないもよう)。

海を望む西之浜温泉の露天風呂。海を望む西之浜温泉の露天風呂。

 ナトリウム-塩化物温泉で、満潮ごろになると、底から透明のお湯が沸き、やがて茶褐色になるのだとか。露天風呂では夕暮れ時は海を望み、夜には満天の星が広がります。

 秘湯中の秘湯が、北海岸にある寝待温泉。半壊したような廃墟に1つの湯船なので、更衣室の入り口にカギをかけて入ります。

名勝「立神」がそびえる風光明媚な寝待温泉。名勝「立神」がそびえる風光明媚な寝待温泉。

 お湯に浸かると、乳白色のお湯の底にごつごつとした硫黄の塊が。湯船の壁面にも白い硫黄がたっぷりと。

入るのに、少し勇気を要した寝待温泉。湯船は1つのみ。入るのに、少し勇気を要した寝待温泉。湯船は1つのみ。

 泉質は酸性・含硫黄・ナトリウム・塩化物温泉(硫化水素型)。と、書いても何がどう効くのか正直よくわからないのですが、とにかく湯上がり後に明らかに違いがわかった温泉ははじめて。肩こりがラクになりました!

寝待温泉の前の海でイルカの群れが。寝待温泉の前の海でイルカの群れが。

 今は土砂崩れによって荒廃が進んでいますが、10年前は湯治客も多く、民宿も賑わっていたとか。寝待温泉の前には島の景勝地の「立神」の岩塊がそびえ、海底温泉もあります。

 アクセスのハードルが高いのは、島の東部の湯向温泉。本村から片道車で約40分かかり、公共交通機関はありません。

 青みをおびた乳白色のお湯に湯の花が舞う、含硫黄・ナトリウム・塩化物温泉(硫化水素型)です。

3月の頃の湯向温泉。新しい施設、どんなでしょう?3月の頃の湯向温泉。新しい施設、どんなでしょう?

 湯殿は男女別に分かれており、更衣室もあります。湯向に1泊して、夕に、朝にと温泉三昧を楽しみました。

 ちなみに、訪れた春先は温泉施設を建設中でした。今頃はぴかぴかの温泉施設がオープンしているはず。

 4つの温泉のうち、本村温泉は入湯料350円。西之湯温泉と寝待温泉は200円、湯向温泉は100円を設置された箱におさめます。

 活火山の存在を感じる口永良部島。火山の島に暮らすとはどういうことなのでしょう。本村区長の貴船 森(きぶね もり)さんに聞きました。

「自然に寄り添って生かしてもらっている」

――火山とともに暮らすとは?

「この島では、自分がこうしたい、ああしたいということがすべて叶う都市部のような物質的な生活はできません。自然が中心で、自分たちが寄り添って生かしてもらっている。山が噴火するのは、その一部。台風もそうです。自然の猛威を肌で感じると、生きている実感がもてますよね。だから大きな噴火はこわいけれど、火山は生きている実感のシンボルなのです」

本村から望む、向江浜。火砕流が海まで達した様子が想像できます。本村から望む、向江浜。火砕流が海まで達した様子が想像できます。

――火山がもたらす影響とは?

「まず、温泉。そして火山が作り出す景観。溶岩台地の岩肌や、照葉樹林のスダジイの森など、それは美しい世界です。

島の周回道路から少し入っただけで、この森。島の周回道路から少し入っただけで、この森。ナンゴクウラシマソウ。見たこともない植物も。島には国の天然記念物、エラブオオコウモリも生息しています。ナンゴクウラシマソウ。見たこともない植物も。島には国の天然記念物、エラブオオコウモリも生息しています。

 島では7月になると、エラブツツジが一斉に開花し、山がピンク色に染まります。火砕流で焼かれた部分も30年程度で再生します。それを繰り返しているのです。一度焼けた土地も自分が死ぬ頃にまたツツジが満開になって、一面ピンクになるんじゃないか、と楽しみにしています」

本村区長の貴船 森さん。噴火のたびに“一人ではない、島のみんなが一緒の家族”と意識するそう。本村区長の貴船 森さん。噴火のたびに“一人ではない、島のみんなが一緒の家族”と意識するそう。

 ピンク色の山を見に、いつかの7月、口永良部島を訪れてみたくなりました。

口永良部島

●アクセス 屋久島へは鹿児島から飛行機で約35分、または高速船で約1時間50分から2時間45分。屋久島の宮之浦港からフェリーで約1時間40分。
●おすすめステイ先 民宿くちのえらぶ 電話番号 0997-49-2213

古関千恵子(こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

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