リサイクル率日本一14回 鹿児島の町が新たな挑戦 枯れ竹を炭に

短く切った枯れ竹をステンレス製のかまで燃やす住民ら=鹿児島県大崎町永吉で2023年2月2日午前11時38分、新開良一撮影

短く切った枯れ竹をステンレス製のかまで燃やす住民ら=鹿児島県大崎町永吉で2023年2月2日午前11時38分、新開良一撮影

 放置された枯れ竹を竹炭として再利用する実証実験を、鹿児島県大崎町が2022年から始めている。自治体の一般廃棄物リサイクル率日本一を14回達成している同町ならではの、住民、町職員、農家、福祉、企業関係者が参加する官民共同の「農福商連携」の取り組み。中心となっている町地域おこし研究員、田中力(つとむ)さん(38)は「地域の高齢者や障害者の就労意欲を引き出し、社会参加と生きがいづくりの場にもしたい」と話す。

 「ま、お茶一杯いかがですか」。実証竹林がある同町永吉地区の宮園集落を2月初めに訪ねると、竹林近くの休憩小屋で輪になって談笑する女性が勧めてくれた。メンバーは集落のお年寄りや近くにある障害者らの就労支援施設の利用者ら二十数人。山口、香川県からの視察者もいる。

大崎町で放置竹林の枯れ竹を使った竹炭製造実証実験を推進する田中力さん=大崎町で2023年2月2日午後3時半、新開良一撮影

大崎町で放置竹林の枯れ竹を使った竹炭製造実証実験を推進する田中力さん=大崎町で2023年2月2日午後3時半、新開良一撮影

 枯れた竹は大半が倒れているため林を整備する邪魔になるが、田中さんは「青竹の伐採は高齢者や障害者にとって危険が伴うので、倒伏した枯れ竹の方が扱いやすい」。町内約400ヘクタールの竹林は大半が放置状態という。

 等間隔に切って運び出し、ステンレス製のかまに入れ、炭になるまで約1時間半燃やす。1回の焼成で20~30キロの竹炭ができる。

 作業を見守る田中さんには聴覚障害がある。話す人の唇の動きとわずかな聴力で聞き取った音で内容を理解する。新型コロナウイルスの影響で皆マスク姿だが、「私と話す時はマスクを外してくださるんです」と田中さん。現場で一緒に作業する元町職員の中野耕造さん(70)は「ものおじしない行動力と会話力は抜群」と話す。

大崎町の民間施設「そおリサイクルセンター」。同町の一般廃棄物リサイクル率日本一を支える=鹿児島県大崎町で2023年2月2日午後1時24分、新開良一撮影

大崎町の民間施設「そおリサイクルセンター」。同町の一般廃棄物リサイクル率日本一を支える=鹿児島県大崎町で2023年2月2日午後1時24分、新開良一撮影

 田中さんは東京出身で地球温暖化が藻場やサンゴ礁に及ぼす影響など環境問題を広島大で研究し、広島県庁に入庁。主に環境政策を担当した。22年4月、県庁在職のまま慶応大大学院へ。地域資源の再利用を地域住民らが担う仕組みを現場で実践しようと同8月、地域おこし研究員として大崎町に着任した。

 竹炭は植物の成長に必要なミネラルが多いうえ多孔質で、通気性や透水性が増す土壌改良剤に向くという。

竹炭を畑の土に混ぜて栽培したサツマイモを加工した干し芋=鹿児島県大崎町菱田の「あいのさと」で2023年1月26日午後2時47分、新開良一撮影

竹炭を畑の土に混ぜて栽培したサツマイモを加工した干し芋=鹿児島県大崎町菱田の「あいのさと」で2023年1月26日午後2時47分、新開良一撮影

 町内の障害者支援施設「あいのさと」は近くのサツマイモ畑に散布。今回は地元産の竹炭は間に合わず、県外産を使ったが、福重順一あいのさと施設長(66)は「土がふかふかしている」。収穫したサツマイモは干し芋にして3月3、4日にJR鹿児島中央駅前であるイベントで販売する計画だ。

 田中さんは「地域住民が担う竹炭製造を通じて行政や福祉団体、企業が支援するコミュニティーモデルをつくりたい」。少年のように目を輝かせた。【新開良一】

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