沖永良部島で働きませんか? 職業紹介をスタート 移住を後押し

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ジャガイモの収穫作業をする谷七海さん(右)=2023年3月29日午前11時54分、鹿児島県和泊町、野崎健太撮影

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えらぶ島づくり事業協同組合の事務局で働く寺内佑介さん=2023年2月8日午前10時34分、鹿児島県和泊町、野崎健太撮影

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えらぶ島づくり事業協同組合の金城真幸事務局長=2023年2月8日午前10時1分、鹿児島県和泊町、野崎健太撮影

 人手不足に悩む鹿児島県・沖永良部島の農家や観光業者らが人材確保のために立ち上げた協同組合が、これまでの労働者派遣事業に加えて、新たに職業紹介事業を始めた。農繁期や観光シーズンに働くアルバイトなどを島外から募る。本格的な移住を促し、人口減少を食い止める狙いもある。

 事業を始めたのは、えらぶ島づくり事業協同組合。総務省「特定地域づくり事業協同組合制度」を利用して2021年に設立された組合で、都会などから移住者を募って人手不足に悩む組合員の事業所に派遣する事業を営んできた。さらに、制度改正によって認められるようになった職業紹介事業にも昨年10月から乗り出した。全国に79ある同様の組合(4月1日時点)の中で初めてだという。

 組合は、島内の事業者から求人の相談を受けると、離島への移住者を募るインターネットのサイトなどに求人広告を出す。関心を持った人とインターネットも活用して面談し、就労先とのマッチングを行う。

 面談などを担当する組合の金城真幸事務局長(54)は「経験や知識よりも、離島の生活環境に適応できそうか、集落の近所づきあいができそうか、といった適性をふまえて紹介している」と話す。

 これまでに知名町と和泊町の地域おこし協力隊2人を紹介したほか、冬から春先にかけて繁忙期を迎えた花やジャガイモの農家などで働く約20人を仲介した。

 島では農繁期を終え、大型連休や夏休みの観光シーズンを迎えると、宿泊や飲食業などで人手不足が見込まれる。新型コロナの影響で人員を抑制していた事業者も、今年は本格的な観光需要の回復に対応を迫られるとみられ、組合は職業紹介のニーズは少なくないとみている。(野崎健太)

 特定地域づくり事業協同組合の制度は2020年度に始まった。総務省によると今年4月1日時点で全国に79の組合が設立されている。鹿児島県内には5組合があり、奄美市と錦江町でも準備が進んでいる。

 沖永良部島の組合を構成しているのは、農業や食品製造、クリニック、宿泊業など6業種の11事業者。通年で職員10人を雇い、繁忙期を迎えた職場に交代で派遣している。

 事業者は、忙しいときだけ人手を確保できるメリットがある。職員の人件費の半額は国と和泊・知名の2町が助成する。

 組合に加入している事業者の一つ、ホテルシーワールド(和泊町)を運営する山田海陸航空の山田朗人常務は「島の若者は島外に出てUターンする人は少なく、人手不足はコロナ禍前からの悩み。コロナで働き方がかわり、島で複数の仕事をかけもちしながら働くこともできる。うまく情報発信していければ、移住者の増加につなげられる」と期待する。

 移住者にとっては、通年で仕事が確保できるうえ、さまざまな職業を経験することで、本格的な移住に向けた「お試し期間」として島暮らしを体験することができる。組合事務局長の金城さんは「都会で仕事や生活に疲弊していた人が自分らしさを取り戻し、生き生きと働いている」と語る。

 組合事務局で働く寺内佑介さん(29)もそんな一人。首都圏でITやウェブデザインの会社に勤めていたが、コロナ禍でリモートワークが続いたことなどで体調を崩し、退職。移住サイトに登録して金城さんと出会い、名前も知らなかった島への移住を決めた。

 組合事務局のほか、花農家やスーパーの青果部門、ホテルの総務部門などで働いた。「都会でふつうに働いていたら経験できないこともできた。いろんな仕事を経験することで、島での人脈も広がった」と話す。

香川県出身の谷七海さん(27)はオーストラリアカナダのホテルや農場で働いた後、21年の秋に島に移住。ホテルや花農家、ジャガイモ農家で働いてきた。「スローライフを想像していましたが、意外と忙しい。島の人はみんなアクティブで働き者」と語る。

 組合では正社員としての待遇なので、家賃補助や社会保険なども完備し、生活は安定している。今年1月には、同じ移住者の夫拓実さん(27)と結婚した。永住するかどうかはまだ決めかねているというが、島の人たちのあたたかさに触れ、島の生活を楽しんでいる。「困ったことがあると自分のことのように助けてくれる。人間関係が濃いですね」と島暮らしの魅力を語った。(野崎健太)

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