焼酎が“Shochu Cocktail”となってニューヨークのスピークイージーで飲まれるワケ

【連載】REIKOのNY通信

コロナ禍で刻々と変化するアメリカの現状をニューヨーク在住の元LEON編集部員、菅 礼子がお届けする本シリーズ。カクテル文化の強いニューヨークはさまざまなカクテルトレンドが生まれる街です。今回、カクテルトレンドとして浮上したリキュールとは?

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取材・文/菅 礼子

▲Thyme Barの Iichiko Saitenを使ったカクテル「Hanani Arashi」。目を引くパフォーマンスで周りのお客さんが注目する一杯。

最近では若い世代を中心に、健康や節約など、さまざまな理由からお酒を減らす人たちが増えているとのこと。毎年1月を“Dry January”と呼んでお酒を飲まない月とする動きもあるようです。
それに伴いアルコールを含まないカクテルである“モクテル”の人気も出てきているようですが、その動きは日本でも顕著。モクテルをはじめ、低アルコールのカクテルを専門に出すバーなども登場し、お酒の選びの幅も広がってきているようですね。
それでもカクテル文化の根強いニューヨークのバーシーンは賑わっています。パンデミック以降、約2年経った今でも多くのレストランやバーが閉店に追いやられている状況とは以前お伝えしましたが、一方で有名バーなどは夜な夜なお店の外まで行列ができるほどで人気は衰え知らずなんです。

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Mezcalに続き、焼酎がカクテルとして飲まれているらしい!

数年前からよく見かけるようになったのがメスカルを使ったカクテルです。メスカルはテキーラと同じく多肉植物であるアガベを原料に作られたメキシコ産の蒸留酒で、主にオアハカ州で生産されたものを言います。
シャンパーニュ地方で作られたスパークリングだけをシャンパン、フランチャコルタ地方で作られたスパークリングをフランチャコルタと呼べる、というような感じでしょうか。テキーラに比べて独特のスモーキーなフレーバーがあるのですが、本当にこの数年でニューヨークのバーでカクテルとしてよく見かけるようになりました。
前置きが長くなりましたが、メスカルしかり、世界中からさまざまな人種の集まるニューヨークはカクテルのトレンドをイチ早く知ることが出来ます。メスカルに次いで最近カクテルとして飲まれているのが、実は私たちも馴染みの深い焼酎なんです。最近ではメスカルのように本格焼酎がスピリッツとして使われ、ニューヨークの人気バーでカクテルとして振る舞われているんです。

▲ 芋焼酎や米焼酎を使ったBar MOGAのカクテル。見た目もオシャレ!

焼酎と言えば、お父さんやお爺さんが芋焼酎をお湯わりで飲んでいる、なんてイメージがありますが、ニューヨークではオシャレなカクテルとしてミクソロジストと言われるバーテンダーたちが他のリキュールやジュース、旬のフルーツなどと掛け合わせて焼酎を作っています。ニューヨークを拠点に活躍をするミクソロジストの渡邊琢磨さんにお話を伺いました。
「ニューヨークでの焼酎のポジショニングはまだまだ韓国産のSojuと混同されがちで知名度が低いのですが、まったくの別物です。芋や麦、米など厳選された素材を使った本格焼酎のアロマは格別で、素材のクオリティの高さを感じることが出来ます。カクテルにする際も香りを活かして作られ、クセも強くないためとても飲みやすいです。アメリカではもっと伸びていくと思います」

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▲ 麦焼酎と柚子ジュースなどを混ぜたカクテルを開発した渡邉さん。3月に自身のバー、「Martiny’s」をグラマシーにオープン予定。

焼酎のアルコール度数はその他多くのスピリッツよりも低く(ウォッカなどのスピリッツが40度に対し、焼酎は25度前後)、お酒が弱い人たちにとっても飲みやすいというのも特徴なんだとか。
日本酒は和食以外でもレストランやバーで提供されるなど、徐々に市民権を得てきていますが、焼酎はまだまだこれから。でも、日本ではなかなかお目にかかることのないカクテルとしてニューヨークでじわじわと人気が出てきているのは興味深いところ。

▲ LAのバー「V DTLA」でも麦焼酎カクテルが振る舞われているそう。

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ニューヨークのトップミクソロジストも“Shochu”にご執心

実際にマンハッタンにある人気のバーで焼酎カクテルが提供されているということで実際に行ってみることに。フラットアイロン地区にあるThyme Barはケーキ屋さんの店内にある階段から地下に降りていくスピークイージーバー。仄暗い隠れ家のような店内ではフランス出身のミクソロジスト、ジェレミーさんがインスタ映え必至のクリエイティブなカクテルを提供しています。
コチラ、マンハッタン一高い(値段が!)と言われるバーで、一杯のカクテルは$26〜$28!  そもそも物価の高いマンハッタンですが、それだけのお値段には理由があり、味はもちろん見た目に華やかでエンタテイメント性に富んだものばかり。客層もオシャレをしたデート客で賑わっている大人の空間です。

▲ ケーキ屋の中から入る隠れ家的な「Thyme Bar」。夜な夜な大盛況の人気バーです。

ここでも焼酎カクテルを発見!  麦焼酎のIichiko Saitenを使ったカクテル「Hanani Arashi」と芋焼酎の黒霧島を作ったカクテル「Yushoku Mae」がありました。「Hanani Arashi」オーダーしてみると、ドライアイスの煙がモクモクと出る急須に入った液体を湯呑みに注いだと思ったらバーナーで紅茶を炙って香りを出した一杯。
スモークされた香ばしい香りにジンジャービールと焼酎が爽やかな飲み口です。焼酎はあまり飲んだことがありませんでしたが、カクテルはとってもイケる! という感想。
なんでも、このカクテルに使用されているIichiko Saitenという焼酎はカクテル用に開発されたもので、通常の焼酎よりもアルコール度数が43度と高めに作られているということ。
ですので、飲みごたえも十分。もっと前から焼酎を飲んでおけばよかったとさえ思う、焼酎カクテルは全体的にスムースな飲み心地です。

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▲ 黒霧島を使った「Yushoku Mae」のカクテル。枡の中に小さな花とカクテルの中には梅が入っています。

ミクソロジストのジェレミーさんに焼酎の魅力を伺うと。
「ニューヨークはメトロポリタンな都市なので、新しいスピリッツに抵抗なく挑戦してくれるお客さんが多いです。常に皆が新しいものを探しています。以前から気になっていた焼酎を初めて使ってカクテルを作りましたが、お客さんの反応もいいので継続予定です。麦焼酎はクリアな味わいです」

▲ Thyme Barのトップミクソロジストのジェレミーさん。クリエイティビティの高いカクテルを作るミクソロジストとして注目されています。

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マンハッタンにある洋食などを提供するBAR MOGAでは普段から焼酎が人気ということで「Shochu Experience」と題したミニイベントを開催。そちらにもお邪魔してきました!
ミクソロジストのジョンさんによる焼酎の原酒の説明を聞き、フライトで飲み比べ、同店で提供されている焼酎カクテルを体験するという内容でした。参加者は焼酎を飲んだことがないお客さんもいましたが、焼酎好きでもっと焼酎を知りたい! というお客さんの層も一定数いました。
ニューヨークのトップバーで焼酎がカクテルとしてじわじわと人気が出ているのは日本人からすると面白い現象です。日本人が気が付かなかった焼酎の魅力がカクテルとなって海外で花開いているわけです。

ここでレポートしたバー以外にも焼酎カクテルが飲めるバーがあるということで徐々に攻めていきたいと思います! ではでは。

▲ 紅一刻という芋焼酎を使ったBar MOGAの「Zireael」。スモークした香りが飲む際に広がります。

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■ お問い合わせ

Thyme Bar
https://www.thymebarnyc.com/
BAR MOGA
https://www.barmoga.com/
SHOCHU
https://shochu-jfoodo.jetro.go.jp/index.html

● 菅 礼子

LEON編集部で編集者として勤務後、2018年に渡米。現在はニューヨーク在住。男性誌や女性誌、航空会社機内誌などにニューヨークのライフスタイルの情報から世界中の旅の情報までを執筆する他、クリエイティブディレクションや日系企業の米国進出プロジェクトを行っている。Instagram(@sugareiko)でニューヨークだけでなくアメリカ&世界の情報を発信中。

  • ▲ 筆者も参加したBAR MOGAでの焼酎体験会「Shochu Experience」。原酒の飲み比べは素材の違いでこんなにもフレーバーが違うのかとびっくり。

  • ▲ 原酒の次は水割りやロックなど、オーセンティックな飲み方にトライ。焼酎初体験のアメリカ人にも好評。

  • ▲ 山椒を効かせたGINREI SHIROを使ったカクテル「oh Sansho Wow!」に興奮している様子。ブレていますが、臨場感たっぷりのイベントでした。

ここでレポートしたバー以外にも焼酎カクテルが飲めるバーがあるということで徐々に攻めていきたいと思います! ではでは。

▲ 紅一刻という芋焼酎を使ったBar MOGAの「Zireael」。スモークした香りが飲む際に広がります。

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■ お問い合わせ

Thyme Bar
https://www.thymebarnyc.com/
BAR MOGA
https://www.barmoga.com/
SHOCHU
https://shochu-jfoodo.jetro.go.jp/index.html

● 菅 礼子

LEON編集部で編集者として勤務後、2018年に渡米。現在はニューヨーク在住。男性誌や女性誌、航空会社機内誌などにニューヨークのライフスタイルの情報から世界中の旅の情報までを執筆する他、クリエイティブディレクションや日系企業の米国進出プロジェクトを行っている。Instagram(@sugareiko)でニューヨークだけでなくアメリカ&世界の

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