自分の葬儀は?お墓は? おひとりさまの終活を自治体がサポート(神奈川県大和市)

神奈川県大和市のおひとりさま政策課の相談窓口。さまざまな相談が寄せられる

神奈川県大和市のおひとりさま政策課の相談窓口。さまざまな相談が寄せられる

自分が死んだら葬儀はどうする、誰に連絡する-。高齢者、特に1人暮らしの人に多いこのような悩みに、自治体がサポートに乗り出している。専門の業者を紹介したり、知人に連絡したり、と終活を支援する。家族がいても「迷惑をかけたくない」と利用する人が多い。

80代の女性が市の窓口に相談に訪れた。「自分が死んだときに葬儀は誰がやってくれるのでしょうか」。夫に先立たれ、1人暮らしだという。

神奈川県大和(やまと)市の「おひとりさま政策課」は、人生の最期を迎えるに当たっての活動=終活について悩みを抱える人の相談に乗っている。

「お墓を子供に残すと大変だから墓じまいして、自分は合葬墓に入りたい」「納骨を親族ではなく専門業者に頼みたい」「終活というが、何から始めたらいいのか」。相談は多岐にわたる。「お一人かご夫婦で相談にみえます。最近は『相続税と生前贈与のどちらがよいか』といった、相続や財産の相談も増えています」と、同課の阿部亨課長は話す。

相談を受けると、専門業者や専門家とつなぐ。合葬墓の希望があれば、合葬墓を扱っている市内の協力葬祭事業者を紹介し、生前契約できるようにする。死後の遺品整理など死後事務委任契約の希望があれば、市が連携する神奈川県司法書士会の司法書士から連絡がいくように手配する。

登録すれば生前は希望に応じて安否確認をし、死後は知人などに死亡連絡、葬儀が契約通りに行われたか確認する。登録者は今年8月までで延べ66人で、4分の3ほどが1人暮らしだという。

大和市は平成28年7月から、所得の低い単身者向けに葬儀の生前契約サポート事業を始めた。しかし、「身寄りはいて財産もあるけど、頼れないので終活支援してほしい」という相談が相次ぎ、30年6月から所得制限をやめ、誰でも相談できる現在の形にした。令和3年4月に設置された課の名前は「おひとりさま」でも、対象は1人暮らしに限らない。4年度の市民の相談は233件、今年度は8月までで166件にのぼる。

同課おひとりさま政策係の旅井崇孝係長は「漠然とした不安で相談に来て話しているうちに、やるべきことに気づかれる方も多い」と話す。

大和市は65歳以上を含む世帯における1人暮らしの割合が41・7%(令和4年)と全国平均の34・7%より高い。阿部課長は「夫婦で暮らしていても最後は1人になる。死後の不安解消をサポートすることで、本人は元気になり、介護・医療費が抑えられる」と、自治体が終活を支援する意義を説明する。

終活支援を続けた結果、市民へのアンケートで終活への関心が「ある」と答えた人は、令和2年度の57・6%から4年度は62・7%に増えた。しかし、「何か準備をしている」人は25・2%から23・1%に減っている。阿部課長は「具体的な行動に移せるよう、支援をさらに進めていきたい」と話す。(小川記代子、写真も)

今や1人暮らしが主流 支援の基準が必要

自治体が住民の終活を支援しているケースは、神奈川県横須賀市や東京都豊島区、静岡県熱海市などでみられるが多くはない。

単身化社会での高齢から死後の調査を行った、日本総合研究所創発戦略センターの沢村香苗さんは「担当課がない、何の法律に基づく業務なのか明確でない-などで、横断的に取り組む自治体は少ない」と話す。

入院時の保証人や、死後の葬儀や税金の支払いといったことは、これまで家族が担ってきた。家族の関わりが薄い場合、ケアマネジャーといった専門職が担う場合もあった。

「1人暮らしは『例外』だったが、1人暮らしが主流になってきた今、現場がもたない。自治体が乗り出す理由になっている」

自治体の終活支援では、「どこまでやるべきか」という問題がつきまとう。沢村さんは「家族と同じようにはできない。どこまで保障するか、一定の基準を作るべきだ」と提言する。

調査で、病気や介護、死後への備えについて聞いたところ、「もう少し先でいい」という回答が最も多かった。「死ぬ準備なんて、と思うのでしょう。簡単に取り組める仕組み作りが必要だ」と話す。

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