賃上げ率4%が必要!?首相の掲げる「物価上昇に見合う賃上げ」率 30年ぶりとなる高水準だが…<Q&A>

 岸田文雄首相は3日の所信表明演説で「物価上昇に見合う賃上げの実現」を掲げ、28日に決定する総合経済対策に関連政策を盛り込む見通しです。日本が長く経験していなかった物価上昇が続く中、物価に見合う賃上げ率はどの程度でしょうか。(渥美龍太、原田晋也)

Q 物価に見合う賃上げとはどういう意味ですか。

A 本年度の物価上昇見通しは前年度比2.6%(内閣府調べ)ですが、賃上げ率を2.6%にすれば相殺されるわけではありません。賃上げは、年齢が上がるのに応じて賃金が上がる「定期昇給(定昇)」と、一律に水準を上げる「ベースアップ(ベア)」に分けられます。定昇は、個々人の賃金は上がりますが、高給のベテランが定年を迎えるなどして激減するため、全体の賃金は基本的に変わらない構造になっています。ベア分が物価上昇率と比べてどれぐらい上がったかが問題なのです。

Q 具体的には?

A 専門家は定昇分を1.8%程度とみています。つまり1.8%程度の賃上げ率ならば、世の中全体の賃金は実質変わらないことになります。1.8%に物価上昇率をベア分として上乗せすることで、初めて「物価に見合う」のです。仮に内閣府の物価上昇見通し2.6%で計算すると、賃上げ率は4%を超えることになります。
 過去の賃上げ率をみると、今年の実績は2.2%(厚生労働省調べ)。4%台に達したのはバブルの影響が残る1992年です。「来年すぐ達成するのは非現実的」(ニッセイ基礎研究所・斎藤太郎氏)との見方が多いのです。

Q 物価に追いつかないとどうなりますか。

A 実質賃金が下がります。今年は8月まで5カ月連続のマイナスです。賃上げ交渉の本番となる来年の春闘で賃上げが弱いと、厳しい状況が長引く可能性が強まります。電気代抑制など政府の物価対策は対症療法で、重要なのは持続的な民間の賃上げだからです。

 連合は今月、5%程度の賃上げを求める来春闘の基本構想を発表しました。来年の労使交渉で、直ちに物価上昇分に追いつかなくとも、中長期的に人々が「賃金は上がる」と期待できる実りある話し合いが求められています。

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