薩摩硫黄島(三島村、鹿児島県) その2
薩摩硫黄島の最高峰、硫黄岳。岩肌のところどころに噴気孔があり、煙が立ち上っています。
前回は薩摩硫黄島の硫黄岳の噴気孔への登山を体験。煙が立ち上り、足裏から地熱が伝わってくる“生きる火山”を体感しました。今回は、火山がもたらす恩恵、温泉のお話です。
温泉といっても、はじめて聞く“野湯(のゆ)”というジャンル。これは、人里離れた海沿いや山間などの“野に湧いている”、つまり自然の中に自噴している温泉のこと。加えて、温泉施設のような人の手が加わっていないところをいうのだそうです。
こちらは東温泉。湯船があり、厳密にいえば野湯ではありませんが、野湯初心者におススメです。
宿泊施設「イオキャラバンパーク」の今別府秀美(ひでよし)さんと話をしている時に、ひょんなことから野湯が話題に上り、もう興味津々。薩摩硫黄島にはいたるところに野湯が湧いていて、その道の愛好家たちにとっては羨望の地だとか。
急遽、今別府さんにガイドしてもらって野湯めぐりをすることになりました。
野湯を目指すにはそれなりの格好が求められます。絡み合うような草藪の道なき山道を下りていくため、ビーチサンダルや短パンでは傷だらけになってしまいます。水着なんてもってのほかです。長袖長ズボン、スニーカーで、いざ出陣です。
“七色の海”の潮だまりに温泉発見!
高台から見下ろした穴之浜。ここへは道なき道を10分ほど下りて行きます。
最初に訪れたのは穴(けつ)之浜。入り口付近は多少道のていがありましたが、すぐに私の身長を超える高さの草むらを分け入ることに。この島では植物の勢いが猛烈で、年2~3回は草を刈らないとあらゆるところが草に覆われてしまうとか。足もとが見えない中、恐る恐る傾斜を下り、途中でガクンと落ちるところもありましたが、探検隊気分で突き進むこと約10分。ようやく穴之浜に出ました。
前を行く今別府さん。足もとが見えなくても、段差などのありかは大体わかっているそうです。心強い。
穴之浜の海はエメラルドグリーン。ところどころで色の濃淡が変わっています。硫黄岳の流紋岩から溶け出したアルミニウムや鉄やケイ素が溶け出し、海水と反応しているからだそう。潮流や風の具合などで色が変わるため、“七色の海”と呼ばれています。
岩の合間を歩き、温泉を探します。潮だまりをよく見ると、ふつふつと気泡が湧いているところがありました。手を入れてみると、温かい。周りを見ると、何カ所かそうした温泉だまり(?)があるようです。
潮の干満の具合にもよりますが、ゴロタ石を組んで温泉をためて、お湯に浸かるのが穴之浜流だとか。けれど、大きな岩盤にできたくぼみに温泉がたまっている場所(脛ぐらいの深さですが)をたまたま見つけたので、ちゃぽんとひと風呂いただくことに。
太陽の下で、エメラルドグリーンの海を眺めながらの湯浴み、とてつもない開放感です(かなり浅いけれど)。温泉をペロリとなめてみたら、海水のしょっぱさの中に昆布だしのような旨みも感じました。気のせい?
波打ち際近くまでやってきた2匹の海ガメ。湯治のためだったりして?
続いては、東温泉。こちらは海のギリギリ近くに築かれた温泉で、2つの湯船が作られているため、野湯とは言えないかもしれませんが、誰でも気軽に利用できます。温泉成分は、強酸性の硫黄明礬(みょうばん)泉。やや緑色を帯びた透明なお湯で、こちらはなめてみると、かすかな渋みも。
波しぶきの向こうに屋久島を望みます。絶景かな、絶景かな。ただし、強風や海が荒れた時は波にさらわれる危険もあるそうなので、注意が必要です。
大海原に面した豪快な景色の中で、とっておきの湯浴み。銭湯の富士山のごとく、お隣の屋久島の島影が。
断崖のそばに立つ「イオキャラバンパーク」に宿泊
温泉ガイドをしてくれた今別府さんは、今回利用した宿泊施設「イオキャラバンパーク」のオーナー。アウトドアの趣味が高じて、三島村役場が募集した遊漁船の船長に応募したのがきっかけで、42歳で移住しました。それまで忙しかった分、人生の折り返し地点に立った時に、のんびり生きてみようという思ったのだとか。
鬼界カルデラの縁部分の断崖。今別府さんがかねてから気に入っていた場所に、イオキャラバンパークを開設することに。2020年開業。
7台のキャンピングトレーラーと屋内の炊事場からなるイオキャラバンパーク。自炊のための調理器具は調っているし、掃除は行き届いているし、なにより、テントと違って強烈な夏の日差しの下ではエアコンがあるのがありがたい。
炊事場にはインスタント食品や島の名産品も並んでいます。こちらの三島村の地魚ジャーキーは今別府さんが釣った魚で手作りしたもの。
トイレやシャワー、洗濯機は徒歩ですぐの体育館や三島開発総合センター(開発センター)のものを利用します。基本的には不自由はないのですが、体育館の網戸にびっしりしがみついているカナブンが厄介。その存在を忘れて勢いよく戸を閉めると、ボロボロッと無数のカナブンが落ちてきます。恐怖。
イオキャラバンパークに隣接した開発センター。こちらへシャワーと温泉に入りに行きます。
開発センターには温泉施設もあり、週3回、温泉が利用できます。こちらも快適。
今回は行けなかったけれど、船で目指す田代の洞窟温泉や噴水のように噴き上がる昭和硫黄島の温泉も、野湯ファンの間では垂涎モノの存在だとか。薩摩硫黄島は温泉のバリエーションが実に豊富。それに今回の温泉めぐりで、野湯という新たな興味の泉も湧いてきました。もう間欠泉のように沸騰中です!?
鬼界カルデラの縁からのぼる天の川。イオキャラバンパーク前の芝生エリアから。
薩摩硫黄島(三島村、鹿児島県)
●アクセス 鹿児島港からフェリーみしまに乗り、約4時間。フェリーは朝9:30出港なので、東京から行く場合は前日泊が必要。
●おすすめステイ先 イオキャラバンパーク(素泊り)
https://io-caravan-park.site/
【取材協力】
株式会社いおう
三島村観光協会 http://mishimamura.com/gaiyoukankou/
古関千恵子(こせき ちえこ)
リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/
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