酪農相次ぐ廃業「搾れば搾るほど赤字」 止まらぬコスト高、進まぬ価格転嫁 最後の16頭 競りへ「静かになった。かなしいね」

乳牛がほとんどいなくなり、がらんとした牛舎=18日、南九州市川辺

 乳牛がほとんどいなくなり、がらんとした牛舎=18日、南九州市川辺

牛舎から搬出されトラックに積み込まれる搾乳牛。熊本である競り市に出される=18日、南九州市川辺

 牛舎から搬出されトラックに積み込まれる搾乳牛。熊本である競り市に出される=18日、南九州市川辺

農場を去る牛を見送る大渡康弘さん=18日、南九州市川辺

 農場を去る牛を見送る大渡康弘さん=18日、南九州市川辺

 酪農家の廃業が相次いでいる。生産コストが上昇する一方で収入の柱となる乳価への価格転嫁が進んでいないためだ。鹿児島県内では生産の主力を担う中堅農家の離農も増えており、生産基盤を揺るがしかねない事態となっている。
 南九州市川辺の酪農家大渡康弘さん(48)は5月、両親の代から30年間続けてきた酪農を辞めた。最後の搾乳を済ませた18日の早朝、2台のトラックが農場に入ってきた。熊本県で開かれる乳牛の競りに牛を連れて行くためだ。
 県酪農業協同組合の職員らも加勢し、1時間ほどかけて16頭を積み込んだ。「静かになった。かなしいね」。大渡さんがつぶやいた。多い時には60頭いた牛舎はがらんとし、残った数頭も種付けして来年初めまでに競りに出すという。
 ウクライナ問題や円安の影響で輸入飼料価格や光熱費、物流費が高騰。乳価は上がったがコスト上昇に追いつかず、赤字経営が続いていた。「(乳を)搾れば搾るほど赤字になる。親の代からの設備があった自分はまだ良い方。借金して始めたほかの酪農家はどう生活しているのか」と厳しい環境を訴える。
 乳牛の競りを運営するらくのうマザーズ(熊本市)によると、これまで月に1回、1日開催していた。今年になって九州管内で廃業や規模縮小で競りに出される数が増え、3月からは月に2日開くようになった。
 鹿児島県酪農協によると、県内の酪農家戸数は6月6日時点で119戸。今年4月以降は既に4農家が離農した。以前は高齢や体調不良を理由とした離農が多かったが、最近は大渡さんのように経営悪化を理由に、若手や中堅農家が辞める例が目立つという。
 毎年2月に実施している調査では、5年以内の経営中止を考えている酪農経営者は22、23年ともに11農家だったが、50代以下に限ると22年の1農家から23年は5農家に増えた。
 北村雄三参事は「先が見えない状況では多額の投資はできず、設備更新のタイミングで辞めてしまう農家もいる。農家が減り続ければ、フレッシュな牛乳を消費者に届けられなくなってしまう」と危機感をあらわにした。

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