関西弁の「おおきに」なぜ鹿児島で多用? 宮仕え後に帰郷し伝播か…「音感にぬくもり」「ありがとうより親しみ」

「おおきに」と声をかけ、品を手渡す井上順二さん=鹿児島市金生町

 「おおきに」と声をかけ、品を手渡す井上順二さん=鹿児島市金生町

 「おおきに」。感謝の気持ちを表す関西弁が、鹿児島でも使われているのはどうして-。県外出身の読者から疑問が寄せられた。専門家に尋ねると、室町時代以降に京都から伝わり、定着したらしい。ただ今も日常的に使うのは高齢世代が多く「人情やぬくもりを感じる言葉。後世に残してほしい」と願う声が上がる。
 買い物客が行き交う鹿児島市の天文館。青果店「野菜の湧水館」の井上順二社長(70)は客に品を手渡し、「おおきに」と笑顔で頭を下げた。「幼い頃から身近な言葉。『ありがとう』より親しみを感じる」と話す。
 指宿市出身の下水流ヨチ子さん(80)=鹿児島市=は大阪を訪れた際、「おおきに」と言われて驚いた。鹿児島弁だと思っていたからだ。70〜80代が使う印象があり、「昔と比べて話す人は少ない」と感じる。
 実際、若者には縁遠い言葉のようだ。鹿児島で生まれ育った鹿児島大学法文学部1年前美羽さん(18)は「同世代の会話に『おおきに』は出てこない。関西弁のイメージしかない」と驚く。
 南九州の方言に詳しい十文字学園女子大学(埼玉県)の松永修一教授(60)=鹿児島市出身=は「京都を中心とした言葉が伝播(でんぱ)したと考えられる」と説明。「室町時代以降、宮中に仕えた人が古里に戻るなどして、広がった部分もあるのではないか」とみる。
 宮中にルーツがあるとされる鹿児島の言葉に「おかべ」(豆腐)もある。「おおきに」は長崎や宮崎でも残っており、鹿児島では「おおきんなあ」と使われるケースも。松永教授は「50代以下はほとんど使わず、高齢層の間でも消滅の危機にある」と指摘する。
 鹿児島市の女性(73)は「『おおきに』は相手に心を込めるときに使うと教えられてきた。人情を大切にする鹿児島だからこそ、各地で受け継がれてきたのでは」と語る。古くから人と人とをつなげてきた「おおきに」。阿久根市大丸町の橋崎一幸さん(76)は「気持ちを通わせる言葉として若い世代が引き継いでほしい」と話した。

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