鹿児島の特産・黒豚が足りない 年末年始の需要期迎え「ブランド全体にとって損失」 背景に厳しい農家経営

歳暮向け黒豚の出荷準備をする卸業者。品薄感が広がっている=21日、鹿児島市の岩元精肉店

 歳暮向け黒豚の出荷準備をする卸業者。品薄感が広がっている=21日、鹿児島市の岩元精肉店

 年末年始の贈答や外食向けに需要期を迎えている鹿児島の特産品、黒豚の品薄感が広がっている。卸業者らは仕入れ先の変更などで対応するが、入荷の見込みが立たず取引を断るケースも出ている。背景には、新型コロナウイルスや飼料価格の高騰による農家経営の悪化があるとみられる。
 鹿児島市の精肉卸「岩元精肉店」では最近、日ごろ取引をする業者からの黒豚の納入が必要量の1割ほどに減っている。不足分は別の業者から3〜4割高い価格で買い付ける。
 全国展開する通販事業者から秋ごろ、黒豚を使った加工品の商談を持ちかけられたが断った。十分な量を確保できるめどが立たなかったためだ。岩元幸治社長(70)は「今の状況が続けば鹿児島の黒豚ブランド全体にとっての損失だ」と危機感を募らせる。
 同市の精肉店「肉の大野屋」の大野雄二代表(42)は「人気の部位が手に入らないことがある」と現状を明かす。例年10月から年末にかけて月に約20頭と、部位別にバラやロースを仕入れる。今年は人気の部位別は諦め、1頭買いを増やしたが、それでも注文通りに届かないことがある。
 11月からは人気のバラや肩ロースの特売を見送っている。「お客さまに対しても心苦しい」とこぼす。
 品薄の背景とされるのが、生産者の経営の厳しさだ。2020年以降、コロナで外食需要が縮小し、ウクライナ侵攻や円安の影響でえさ代などのコストが高騰。資金繰りに窮する農家が増えた。曽於市で黒豚を育てる青木宏和さん(34)は「国内外の情勢に経営が振り回されている。先が見えない」と訴える。
 生産に時間のかかる黒豚に比べて効率が良く、内食需要が高まっている白豚に切り替える農家が出ているという。「黒豚を守っていかなければとは思うが、農家の努力だけでは限界がある」とため息をつく。
 国際情勢なども関わるため、需給が今後どう展開するかは不透明だ。岩元精肉店の岩元社長は「商品がなければ、需要があっても売り先を広げることができない。黒豚の信用にも関わる。農家が十分に生産できるような支援が必要ではないか」と指摘した。

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