「脳の健康を守り、平均寿命を伸ばす」70代になったら積極的に食べたほうがいい"3つの食べ物"1000年以上前から健康食として知られている

いつまでも健康でいるためにはなにを食べればいいか。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「それは納豆と肉と野菜だ。これらの食材は脳を健康にする効果がある。特に70歳を過ぎたら、積極的に食べたほうがいい」という――。(第1回)

※本稿は、和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

夕食を食べるシニアカップル

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平安時代から健康食として認められていた納豆

30年余り精神科医を続け、約6000人の患者さんと接するなか、最も頻繁に受けてきた質問は、「食」と「睡眠」に関するものです。「何を食べれば、頭と体にいいのですか?」「よく眠れないのですが、どうすればいいでしょう?」というような問いですが、そうした質問に答えていきましょう。

まずは「食」ですが、前著『80歳の壁』では、「肉を食べる」ことの重要性を強調しました。牛肉や豚肉は、トリプトファンというアミノ酸をたっぷり含み、それが脳内の神経伝達物質の司令塔、セロトニンの材料になり、脳の活性化につながる――というのが、その大きな理由です。

本稿では、肉とともに、高齢者こそ摂りたい他の食べ物について、お話ししていきましょう。まずは、健康食の代表格、「納豆」です。話が飛ぶようですが、平安時代の宮廷医に、丹波康頼たんばのやすよりという人がいました。日本史に名を残す「最初の名医」といえる人物で、984年に日本最古の医学事典『医心方いしんほう』を著しています。

同書は、世界記憶遺産への登録運動も始まっている名著であり、大著です。2012年、古典医学研究家の槇まき佐知子さちこ氏の全訳が完成し、医学界で大きな話題になりました。私も、全巻読破とはいかなくとも、拾い読みしてみたのですが、その中に「納豆はひじょうに優秀な食品で、解毒げどく作用がある」という意味の一節がありました。1000年以上も前の医師が、すでに納豆の食品としての優秀性に気づいていたのです。

「ブレインフード」とも呼ばれている大豆

「納豆が脳にも体にもいい」ことは、医学・栄養学の研究者の衆目一致するところです。良質の植物性タンパク質を、最も効果的にとれる食材だからです。しかも、値段が安い。スーパーに行けば、3連パックが100円ほどで手に入ります。納豆は、最安値の“サプリメント”といってもいいでしょう。

一般に、高齢者は、体重1キロ当たり、1日に1.2〜1.5グラム程度のタンパク質をとるのが望ましいとされています。体重60キロの人で70〜90グラムです。これは、肉70〜90グラムではなく、純粋のタンパク質の重量ですから、摂取するのはなかなか大変です。朝はタマゴ、昼は魚、夜は肉くらいのつもりで、タンパク質性の食材を食べて、初めて摂取できる量です。そこで、大いに活用したいのが、納豆などの大豆を素材とする食品なのです。

納豆

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大豆食品は、脳にとっても、強い味方です。近年、大豆は、脳の働きを活発にする点でも注目され、「ブレインフード」とも呼ばれています。

脳内では、神経細胞(ニューロン)から神経伝達物質が分泌され、刺激や情報が別の神経細胞へ伝わっています。脳が活発に働いている状態とは、「神経伝達物質の量が多くなり、シナプス間を活発に行き来している状態」といっていいのですが、大豆は、その神経伝達物質の重要な原料「レシチン」をたっぷり含んでいるのです。

レシチンは、脳内でアセチルコリンという神経伝達物質に変化します。アセチルコリンが不足すると、脳内の情報伝達がうまくいかなくなります。認知症患者の人には、アセチルコリン不足の人が多いことがわかっています。大豆を素材とする食品、納豆や豆腐、豆乳、みそ、きな粉などを食べれば、そのレシチンをたっぷり摂取できます。中でも、納豆は、大豆の栄養をほぼそのままの形で摂取できる優秀な食材なのです。

70歳を過ぎたら、むしろコレステロールが必須

私が講演などで「高齢者ほど肉を食べたほうがいい」とお話しすると、かならず「コレステロール値が上がるのが心配で」という質問の声が上がります。

そうした不安に答えるため、ここで、声を大にしていっておきますが、「コレステロールは、体に悪い」というのは、フェイクニュース、間違った思い込みです。むしろ、老後、元気に暮らすためには、コレステロールは不可欠な物質なのです。

そもそも、コレステロールは、人間を含めた動物の体を形づくる脂質の一種。性ホルモンや細胞膜の材料になるなど、生命体に欠かせないものです。加えて、コレステロールは、脳内で「セロトニンを運ぶ」という大役を果たしています。セロトニンは、脳の神経細胞間で、刺激や興奮を伝える神経伝達物質のひとつです。

神経伝達物質といえば、ドーパミンやアドレナリンが有名ですが、セロトニンはそれらの分泌量のコントロールにも一役買っている神経伝達物質の司令塔であり、「心」のコントロール役をつとめています。コレステロールは、そのセロトニンを運んでいるため、コレステロール値の高い人のほうが、うつ病にかかりにくいことがわかっています。また、いったん、うつ病にかかっても、治りやすいのです。

肉を食べることで、さまざまな健康効果が期待できる

さらに、コレステロールは、主要な男性ホルモン、テストステロンの材料にもなります。日本人がセックスレスになりがちなのも、「コレステロールを減らしたほうがいい」という誤った言説が広まった結果、男性ホルモンを減らしたことが原因のひとつだと、私は見ています。

さらには、コレステロール値が低いと、がんになりやすいというデータもあります。これは免疫細胞の材料が不足するからでしょう。また、コレステロールが多すぎると、「高コレステロール血症」となり、動脈硬化を引き起こすリスクが高まるのはたしかですが、少なすぎても、血管がもろくなり、脳卒中を起こしやすくなります。

そもそも、現在、日本人の平均寿命が世界トップクラスになった理由のひとつは、戦後、戦前とは比べものにならないほど「肉を食べる」ようになり、コレステロールの摂取量が格段に増えたことです。コレステロール摂取量が増えたことで、血管が強く、しなやかになり、出血性の脳卒中による死亡者が激減したのです。

豚のしょうが焼き

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ビタミンは体だけではなく脳の健康にも深く関わっている

次はビタミンです。知っておいていただきたいのは、ビタミンは、体の健康だけでなく、脳の健康にも深く関わっていることです。

アメリカでは、知能指数とビタミンCとの関係について、次のような実験が行われました。幼稚園児から大学生までの351人を2つのグループに分け、Aグループには、血中のビタミンC濃度が高くなるような食事を与え、一方のBグループには、ビタミンCが不足するような食事を与えました。その状態でIQテストを行ったところ、Aグループの平均が113.2、Bグループの平均が108.7と、有意差が生じたのです。

頭をよくするビタミンCの「抗酸化作用」

ビタミンCが頭をよくする理由は、酸化を防ぐ抗酸化作用にあります。

脳細胞の酸化が進み、傷つくと、脳全体の働きが弱ってしまいます。また、血管内で酸化が進んでも、脳に必要な酸素や栄養が行き渡らなくなってしまいます。そのため、脳や血管の酸化は、認知症全体の約7割を占めるアルツハイマー型認知症の原因のひとつとされているのですが、ビタミンCには、それを防ぐ力があるのです。

ビタミンCには、酸化の逆である還元作用を起こす力があります。その作用によって酸化を防ぎ、脳細胞や血管を守るのです。むろん、ビタミンCは、脳や血管だけでなく、体全体にとっても必要です。老後、新鮮な野菜やフルーツをたっぷり食べている人は、男性で6年、女性で1年、寿命が伸びるというデータもあります。

ご承知のように、ビタミンCは、野菜や果物に含まれていますが、サプリメントで補給することもできます。ビタミンCは、古くから「健康にいい」と注目されてきたため、早い時期から、錠剤が作られ、その値段はサプリメントの中でも、最安値の部類に入ります。大いに利用しましょう。

まな板と食材

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やっぱり「酒」と「たばこ」は健康に良くない

常識的なことではありますが、70歳前後ともなれば、飲酒は、ほどほどを心がけることです。

酒は、ストレスの発散効果があるとはいえ、基本的には脳にダメージを与える物質です。大酒を飲んだとき、記憶がなくなるのも、脳内で記憶に関して重要な役割を果たしている「海馬」という部位が麻痺するために起きる現象です。

脳には、「血液脳関門」という有害物質の侵入を阻止する“関所”が設けられているのですが、アルコール類はその関所を突破して、脳内に入り込みます。そうして、海馬を麻痺させてしまうのです。一時的な“記憶喪失”は、酒からさめれば解消されるとしても、毎日のように大酒を吞のんでいると、前頭葉が確実に萎縮していきます。実際、アルコール依存症患者の脳を調べると、前頭葉と海馬が萎縮しているケースがひじょうに多いのです。とりわけ怖いのは「ひとり吞み」で、アルコール依存症のリスクが大きく高まります。

一方、タバコも、やめるに越したことはありません。脳への影響についていうと、ニコチンは血管を縮めるため、体内の血のめぐりが悪くなるうえ、脳に流入する血液量が減っていきます。すると、脳はたえず酸素不足の状態に陥り、うまく機能しなくなってしまうのです。

いわば、ヘビースモーカーの脳は、つねに酸素不足で、いわば金魚が口をパクパクしているような状態。そんな状態では、脳の衰えを防ぐことはできません。

ただ、最近の研究では、ニコチンにはアルツハイマー型認知症を防ぐ効果もあるとされています。どうしても禁煙できないという人は、酸素不足の起こりにくい電子タバコでがまんするのが、現実的な解決法といえるかもしれません。

「食べる」ことと「噛む」ことは健康に大きく影響している

「食べる」ことに関連して、「噛む」ことの重要性について述べておきたいと思います。

以前、「ガム」に関して、次のような記憶力テストが行われたことがあります。対象は、小学生。色付きボードの配置を30秒間で覚え、その通りにカードを並べ直すというテストです。このテスト、ガムを噛みながら行うと、正解率が2倍にもアップしたのです。

そこで、ガムを噛んでいるときの、脳の状態を調べると、血流量が増えていることがわかりました。とりわけ、記憶を司つかさどる海馬の血流量が増えていたのです。そのメカニズムは、以下の通りです。

ガムを噛むと、あごの「咬筋こうきん」が動きますが、その咬筋は三叉さんさ神経によって脳とつながっています。そのため、咬筋を動かしたことによる信号が、大脳や扁桃体へんとうたいなど、認知機能を司る部位を刺激し、血流が増えるという仕組みです。

加えて、ガムを噛むと、歯の歯根膜しこんまくが圧力を受けます。歯根膜への刺激も脳に信号として伝わり、脳を刺激します。これもまた、脳の活性化につながるのです。逆にいうと、歯が悪いことは、認知症の原因になります。

ガムやスルメを食べるだけで脳の衰えを防ぐことができる

その理由は2つあって、第一には、噛む回数が減ることで、脳への刺激が減り、認知機能が衰えること。第二には、噛む力が衰えると、生野菜などの硬い食べ物を避けて、麺類など、やわらかいものを食べる機会が増えることです。すると、ビタミン不足に陥り、これもまた、認知症の発生リスクを高めるのです。

和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)

和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)

実際、歯が20本以上ある人に対して、歯のほとんどない人は、認知症の発症率が1.85倍も高いというデータもあります。また、アルツハイマー型認知症の患者は、野菜の摂取量が少ないこともわかっています。私は、健康に長生きしたければ、義歯やインプラントなど、歯にはお金をかけたほうがいいと思います。

なお、脳を刺激するには、咬筋を動かせばいいのですから、噛むものは、ガムではなく、スルメでもOK。私も、ときおり昔懐かしい「都こんぶ」を買ってきては、噛んでいます。というわけで三度の食事をとるときは、若いとき以上に、よく噛んで食べるようにしたいものです。それだけのことで、脳の衰えを防ぐことができるのです。

和田 秀樹

和田 秀樹精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授

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