「はっかぶりそうだ」⇔「吐きそうだ」、AIが鹿児島弁を標準語に翻訳…災害時など想定し開発

 鹿児島大の学生たちが、鹿児島弁をAI(人工知能)に学習させ、「チャットGPT」で翻訳するシステムを開発した。精度の向上など実用化に向けては課題もあるが、災害時に鹿児島県外から派遣された医療従事者と地元住民が円滑に意思疎通を図る手段などに応用できると期待される。(井芹大貴)

翻訳システムを試す(左から)種子田会長、伊藤さん、坂井准教授(3日、鹿児島大で)翻訳システムを試す(左から)種子田会長、伊藤さん、坂井准教授(3日、鹿児島大で)

 3日、鹿児島大の講義室。学生らがシステムの性能を試していた。画面に向かって「ようこそ」と話すと、数秒で「鹿児島弁に翻訳すると『ゆくさ』です」と音声が流れた。これとは逆に、「ビンタ(頭)」などの鹿児島弁を話すと、標準語への翻訳が画面に表示された。

 開発の端緒は、方言を研究する坂井 美日みか 准教授(37)が開いた8月の夏季集中講義。方言の記録と継承をテーマにグループワークに取り組む中、医学部保健学科2年の武富志保さん(20)と、いずれも理学部理学科1年の伊藤伯さん(19)、川田匠人さん(18)の3人が企画した。

 「miibo(ミーボ)」というチャットGPTを利用した会話AIを活用。鹿児島弁の 語彙ごい を辞書などから集め、標準語の訳とセットで学習させた。

 学生たちが発案した元々の狙いは、災害時の医療など緊急時に方言の壁を取り除くことだ。

 迅速で適切な処置を行うには、患者と医療従事者のスムーズな意思疎通が求められる。しかし、2011年の東日本大震災をはじめ、地域外から派遣された医療従事者と住民が意思疎通を図る際、方言が壁になったことが少なくなかった。

 弘前学院大の今村かほる教授らが、東北に派遣された全国の医師・スタッフ308人を対象に実施したアンケート調査によると、「被災者の話す言葉・方言が分からないことがあったか」という問いに、医師の27%、医療スタッフの43%が「あった」と回答した。方言が分かる地元の看護師や自治体職員に“通訳”してもらったケースも少なくなかったという。

 鹿児島弁は方言の中でも癖が強く、県外の人には難解とされる。身体関係だけでも「ビンタ(頭)」「ゴテ(体)」などの呼び方があるほか、「はっかぶりそうだ(吐きそうだ)」などの特有の言い回しも多い。

 そこで鹿児島大の学生たちは、大量の語彙に対応できるAIに注目。チャットGPTの専門家や鹿児島方言文化協会(鹿児島市)の種子田幸広会長(73)からアドバイスをもらいながら開発を進めてきた。伊藤さんは「翻訳システムが課題解決の第一歩になれば」と話す。

 実用化に向けては、翻訳の精度や速度を上げるなどのハードルもあるが、坂井准教授は、将来的にはシステムをアプリ化し、スマホやタブレットなどの端末にダウンロードしてオフラインでも使用できるようなツールにしたいとしている。

 学生たちは12日、かごしま県民交流センター(鹿児島市)で開かれる「鹿児島方言週間フェスティバル」(11、12日)で翻訳システムの開発の成果を披露する。

 坂井准教授は「災害時だけでなく、介護現場など様々な場面で活用できる可能性も秘めている」と話している。

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