【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実

人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実

「柿胃石」を知っていますか?

「柿を食べすぎると胃の中に石ができる」という事実をご存じだろうか。

 この病気を「柿胃石」と呼び、吐き気や腹痛の原因になることもあれば、石が小腸に転がり落ちて腸閉塞を引き起こしたり、腸に穴があく(穿孔)の原因になったりすることもある。

 柿を好んで食す日本人の中では、胃にできる結石のうち70%の原因が柿である。

 過去には、一日に1個から3個のペースで柿を食べる人が柿胃石になり、石が小腸に詰まって腸閉塞を起こしたケースが報告されている(1)。

 何でも食の偏りは体に良くないが、特に柿にはこうした特徴的なトラブルがあるのだ。

シブオールが結石になる

 では、なぜ柿を食べすぎると胃石ができるのだろうか。

 柿に含まれる渋みの成分「シブオール」が胃酸と反応し、水に溶けにくい物質に変化するからである。胃内の柿が不溶性の結石になり、胃に残ってしまうのだ。柿の美味しい季節だが、過剰摂取には要注意なのである。

注意した方がいい人の特徴

 特に腸閉塞を起こしやすいのが、胃を部分的に切除した人(胃の出口部分を切った人)である。

 胃の出口には「幽門」と呼ばれる関所があるが、胃がんなどの胃の病気に対して行われる胃切除術では、この関所も一緒に取ってしまうケースが多い。

 関所があれば胃内にとどまっていた胃石も、関所がないと小腸に転がり落ちやすくなるというわけだ。

 過去の研究では、胃石によって腸閉塞を起こした例のうち、約40%が胃切除術を受けたことのある人だった(2)。

コーラで石を溶かす!?

 さて、実は柿胃石は、身近な飲料で溶かせることがある。それがコーラである。実際、医療機関ではコーラを使った溶解療法が広く行われており、内視鏡(胃カメラ)を用いてコーラを胃や小腸に注入する方法が取られることもある。

 溶けるまでに時間がかかることも多いが、コーラを使用することで、90%以上の患者で手術を回避できる(3)。

 なぜ、柿胃石がコーラで溶けるのだろうか。その理由ははっきり分かってはいないが、炭酸の気泡が胃石の表面から浸透することや、高濃度の炭酸水素ナトリウムが粘液を溶かす効果を持つことなどがメカニズムとして推測されている。

 なお、普通の「コカ・コーラ」のほか、「コカ・コーラライト」や「コカ・コーラゼロ」でも良く、「ペプシ・コーラ」も有効である(4)。

イスラエルの「柿ブーム」のその後

 余談だが、イスラエルから興味深い報告がある。

 1970年代に初めてイスラエルに柿が上陸し、その後、大人気の果物となった柿は、多くのイスラエル人によって食されることとなった。すると柿胃石が激増し、政府がテレビで正式にこれを警告、すると一転して柿の人気はガタ落ちになったそうである(5)。

 一方、「古事記」や「日本書紀」に登場するくらい古くから日本人にはなじみ深い柿だが、それでも胃石の発生頻度自体は高いわけではない。

 胃カメラを行った例のうち、胃石が見つかるのは0.07~0.4%と低いからだ(6)。

 柿をことさらに恐れる必要はないが、1日数個を食べ続ける、といった食習慣は避けるべきだと知っておくと安心だろう。

【参考文献】
(1)「腸閉塞で発症し溶解療法後に腹腔鏡下手術で摘出した残胃胃石の1例」日臨外会誌 78, 977-982, 2017
(2)「落下胃石により回腸閉塞・穿孔を来した1例」日消外会誌 39,94-99,2006
(3)Systematic review: Coca-Cola can effectively dissolve gastric phytobezoars as a first-line treatment. Aliment Pharmacol Ther. 37:169-73,2013
(4)Gastric Bezoar Treatment by Endoscopic Fragmentation in Combination with Pepsi-Cola(R) Administration. Am J Case Rep. 16: 445-8, 2015
(5)Phytobezoars and trichobezoars: a 10-year experience. J Clin Gastroenterol. 3810:873-6, 2004
(6)Clinical characteristics and treatment outcomes of nineteen Japanese patients with gastrointestinal bezoars Intern Med. 53:1099-105, 2014

(本原稿は、山本健人著すばらしい医学に関連した書き下ろしです)

山本健人(やまもと・たけひと)

2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に18万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。
Twitterアカウント https://twitter.com/keiyou30
公式サイト https://keiyouwhite.com


深く広大な知識の海へ――著者より

 私は外科医として、毎日のように手術に携わり、生きた臓器に触れている。

 お腹をメスで切り開くと、そこには自然界が生み出した美しく複雑な構造物が横たわっている。臓器の様子は、人によって全く違う。黄色い内臓脂肪が分厚く臓器を覆っている人もいれば、内臓脂肪が白っぽくて薄い人もいる。胃が大きく足側に伸びている人もいれば、上方にとどまる人もいる。大腸が蛇のようにお腹の中にとぐろを巻いている人もいれば、比較的短くストレートな人もいる。

 一見すると不思議に思えるが、考えてみれば当たり前のことだ。人によって、背丈や顔のつくり、性格は全く違う。それと同様に、臓器の様子にも個人差があるのだ。

【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実

 医学はこれまで長い年月をかけて、臓器一つ一つの構造と機能を明らかにしてきた。それぞれの臓器が、なぜそのような形態であり、なぜそのような働きを持つのか。

 医学が解明してきた謎について知ると、自然界が生み出した人体という精緻な構造物に、誰もが畏敬の念を抱くはずだ。

 私は、医師として日々人体に触れ、その美しさを実感している。一方で私は、日々の手術を行う中で、現代医療の凄まじい進歩をも、この手で体感している。

 私たちは今や、痛みを感じることなく手術を受け、短期間で元の生活に戻ることができる。かつての人たちが想像すらしなかった未来を、私たちは生きているのだ。医学がこれまで何を達成し、どのような治療を生み出してきたのか。この途方もない医学の進歩を知れば、誰もが驚嘆するはずだ。

【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実

 医学を学び、自らの体について知ることは、途方もなく楽しい営みだ。 私が医学生の頃から約二十年間、絶えず味わってきた知的好奇心を満たす喜びを、多くの人に伝えたい。本書はそんな思いで執筆した。

【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実

本書で語る一つ一つのエピソードは、誰もがよく知る身近な話題から始まるが、奥に続く知識の海は深く広大だ。本書を読めば、「医学」という学問を、まるで高台から俯瞰するような心地良さを味わえるだろう。

それでは、いよいよ出発だ。すばらしい医学の世界へ。

【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実


■新刊書籍のご案内

【ウソのような本当の話】「柿」を食べすぎると「胃に石ができる」という驚愕事実すばらしい医学
山本健人 著
定価1870円

<内容紹介>

私たちは、自分の体のことをほとんど知らない。人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、twitterフォロワー約10万人のフォロワーを持つ著者が、医学5000年の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する。

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