鹿児島の象徴である桜島。空高く噴煙を上げる姿をニュース番組でたびたび目にする“生きる火山”、そして“地球”を感じる存在でもあります。
噴火は多い年では年間数百回(2011年の爆発的噴火は観測史上最多の996回)、1日2~3回起きることも。
細かく、ガラスのような性質の火山灰は、洗濯物が汚れる、庭木や草花が痛むことなどをはじめ、窓ガラスや車の塗装にとっても厄介モノ。そこで鹿児島県では火山灰に少しでも備えられるよう、降灰と風向きの情報を日々発信しているそうです。
暮らすのが大変そう……。そんな印象を持っていたのですが、鹿児島港近くの街中を歩いている時、建物の間からふと見えた、そびえる桜島の美しさに思わずハッとしました。
ちなみに今年オープンしたシェラトン鹿児島のルーフトップバーから桜島を眺めながら、薩摩焼酎をいただくのも、オツです。
北岳と南岳、どちらの表情が好き?
たしかに爆発的な噴火は怖くはありますが、活火山とともに暮らすための先端技術があり、桜島だからこその恩恵もあり、長年の暮らしの工夫もあり、桜島は実に奥が深そう!
砂防ダムなど、噴火による被害防止に向けた対策も取られています。
そんな桜島は、錦江湾に浮かび、鹿児島港から桜島フェリーで15~20分。フェリーは24時間運航し、1日100便以上が鹿児島港と桜島港を結んでいます。
桜島フェリー内の立ち食い店。うどんが自慢! 船内にはダシのいい香りが。
桜島フェリー内の立ち食い店。うどんが自慢! 船内にはダシのいい香りが。
一周約52キロ(外周道路は36キロ)の島に、人口約3,700人が暮らしています。
児童は登下校時にヘルメットを着用。火山灰専用袋の黄色い“克灰袋”は、「灰に打ち勝つ(克つ)」からネーミング。
桜島のなりたちには、その前に広がる錦江湾の誕生が大きく関わっています。
約2万9,000年前、今の噴火と比べると数億倍くらいのパワーがある巨大噴火が起こり、マグマが噴き出しました。その量、県全土を平均60メートルの厚さで埋め尽くしたほど。
大量のマグマが放出されたことで地面が陥没して「姶良(あいら)カルデラ」を形成、そこに海水が流れ込んで錦江湾が誕生。一方、火山噴出物によって南九州一帯にシラス台地ができました。
その後の約2万6,000年前の噴火で、姶良カルデラの南端に桜島が生まれました。
桜島の噴火活動は2つの時期に分かれています。約2万6,000年前から約5,000年前が北岳の活動。約4,500年前から現在にいたるまでは、南岳が活動しています。
実は桜島は北岳と南岳、2つの火山が南北に連なった山容をしています。見る角度によって印象も変わり、地元の人には、ここから眺めるのが一番、と人それぞれお気に入りもあるようです。
“天然のプランター”で育った名産品といえば?
噴火直後は草木も枯れてしまいますが、長い年月をかけて地衣類、ススキなどの草原、クロマツなどの陽樹、スダジイなどの陰樹の順で育ち、森が形成されていきます。
その後も噴火は度重なりますが、20世紀以降の噴火で地形を変えるほど大きなものは大正3(1914)年のもの。噴煙は1万8,000メートル上空まで上昇し、火山灰はカムチャツカ半島まで達したとか。そして流れ出した溶岩によって桜島と大隅半島は地続きになったのです(桜島は陸路でも行けるのです)。
大正3年の噴火では1日2メートルも火山灰が降り積もり、そのすさまじさは地面に上の部分だけを覗かせた黒神埋没鳥居で窺い知ることができます。
しかし巨大噴火が招くのは、被害ばかりではありません。噴火によってもたらされた恩恵のひとつが、シラス台地です。
軽石が多く混じっている桜島の土壌は、“天然のプランター”と言われているとか。雨が降れば、軽石が過剰な水分を吸収し、晴れれば軽石が吸収した水分が土に放出されて水やりのような効果が。
そんな桜島の土ですくすくと育った名産品といえば、桜島大根! あの巨大な大根です。2003年には重さ31.1キロ、周囲119センチの巨大な桜島大根がギネス記録に認定されました。そして2023年1月にはそれを上回る33.7キロもの超ビッグなものができましたが、運搬時にひび割れてしまって、審査対象外になってしまったとか。惜しい!
地元では“しまでこん”と呼ぶ桜島大根。煮付けや大根おろしなどにしても美味。
桜島大根は水分をたっぷり含み、やわらかで甘みが強いのが特徴。近年発見された“トリゴネリン”という血管をしなやかにする成分も注目されているそうです。
“避難港”と呼ばれる港が22も
また、カルデラである錦江湾は最深部で200メートル以深。磯場もあれば、サンゴや干潟もあり、多様な自然環境が揃っています。そのため魚種は約1,000種を数えるそう。
新鮮なブリやカンパチはもちろん、珍しいところでは深海に暮らすナミクダヒゲエビ(赤エビ)も錦江湾のめぐみ。濃厚な甘みとぷりぷりとした食感のエビは、天ぷらや寿司ネタなどで味わえます。そして錦江湾では通年、イルカも見られるそうです。
火山の恩恵といえば、温泉! 桜島溶岩なぎさ公園の約100メートルの足湯からは錦江湾が望めます。
さて、気になる桜島のビーチ。“避難港”と呼ばれる緊急時の島外避難のための港が22あり、番号が付けられています。
そのうち、8番の塩屋ヶ元港へ。急坂を下りた先に、漁船が数隻停泊する、緑の岬に囲まれたエメラルドグリーンの風光明媚な入り江が広がります。
塩屋ヶ元港。少し緑がかった海水は、海底から湧き出る温泉成分によるもの。
実は、外海と入り江の境部分は年代の異なる溶岩の塊なのだとか。外海に向かって右が764年の天平宝字溶岩、左が1946年の昭和溶岩。そう思って見てみると、美しい景色の中にも桜島のパワーが感じられます。
石垣の家並みが旅情あふれる4番の湯之港。桜島港近くのレインボービーチ。行き来するフェリーを見ながら、のんびり。
桜島
●アクセス 鹿児島港から桜島フェリーで15~20分
●おすすめステイ先 シェラトン鹿児島
https://www.marriott.com/ja/hotels/kojsi-sheraton-kagoshima/overview/
古関千恵子(こせき ちえこ)
リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/
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