2024年1月19日、厚生労働省は「令和6年度(2024年度)」の年金額改定について公表。前年度と比べて2.7%の引き上げが決まっています。
とはいえ昨今の物価上昇には追い付いていないのが現状。高齢の親を持つみなさんの中には、介護が必要になったときの「施設入居費用」が心配という人も多いはず。
親の入居費用は、基本的に本人のお金から捻出されるものです。しかし、親の収入が「年金のみ」という場合には「年金だけで入居できる介護施設はあるのか?」「年金だけで費用がまかなえるのか?」と不安を覚える方もいるでしょう。
介護施設の中でも「特別養護老人ホーム」は、年金だけで入居できる場合があります。
本記事では、ケアマネジャーである筆者が特別養護老人ホームの費用について分かりやすく整理。年金だけで入居できるのか、また年金だけでは足りない場合の対処方法についても最後にご紹介していきます。
1. 国民年金・厚生年金の平均受給額
まずは、今のシニア世代が受け取る平均的な年金額を確認しておきましょう。
厚生労働省が公表する「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金と厚生年金保険(第1号)の平均年金月額は以下の通りです。
国民年金で5万円台、厚生年金で14万円台となっていますね。
2. 【特養】特別養護老人ホームの主な費用
次に、特別養護老人ホームへの入居にかかる費用をご紹介します。
特別養護老人ホームは公的施設であるため、入居一時金などの初期費用は必要ありません。必要な費用は月額費用のみです。その内訳は以下の通りです。
以下で詳しく整理していきましょう。
2.1 特別養護老人ホームの費用1.施設サービス費
施設サービス費は施設で介護を受ける際に必要となる費用です。介護保険の対象となるため、利用者負担は所得に応じて1〜3割で設定されます。
要介護度が高くなるほど負担額が増え、居室のタイプによっても金額に差が出ます。
以下は、要介護度と居室タイプ別での自己負担額の一覧です。
要介護度・居室タイプ別の介護福祉施設サービス費自己負担額(30日間)
■要介護度・居室タイプ別の介護福祉施設サービス費自己負担額(30日間)
※「自己負担額1割」「1単位=10円」で計算
要介護1
要介護2
要介護3
要介護4
要介護5
「多床室/従来型個室」の場合、要介護度1で1万7190円、要介護度5で2万5410円でした(30日間)。
2.2 特別養護老人ホームの費用2.介護サービス加算
介護サービス加算は、サービスの提供体制や利用者の状況等に応じて加算される費用のことです。
その金額は施設や入居者の方の状態によって変動します。
たとえば、特別養護老人ホームでのサービス加算の種類には以下のようなものがあります。
2.3 特別養護老人ホームの費用3.居住費・食費
特別養護老人ホームの居住費の基準費用額(日額(30日間))居住費
出所:厚生労働省「介護サービス情報公表システム」」をもとに筆者作成
特別養護老人ホームの居住費と食費については、厚生労働省が1日あたりの「基準費用額」を定めています。
居室タイプごとの居住費と食費の基準費用額は以下のとおりです。
たとえば従来型個室の場合、居住費は3万5130円、食費は4万3350円となっています。
3. 結局のところ「特養は年金だけで入居できるのか」
特別養護老人ホームに入居すると、毎月どのくらいの費用が必要となるのでしょうか。
以下より、介護度と居室タイプ(「多床室」と「ユニット型個室」)別に、月々支払う費用の目安をご紹介します。年金だけで費用をまかなうことができるのか確認しましょう。
3.1 特養月額費用の目安①:居室タイプ「多床室」の場合
月額費用の目安①:居室タイプ「多床室」の場合
出所:各種資料をもとに筆者作成
※介護サービス加算と日常生活費の金額は一例。自己負担割合が1割の場合。
要介護3
総額 9万8360円
要介護4
総額 10万400円
要介護5
総額 10万2410円
3.2 特養月額費用の目安②:要介護5・居室タイプ「ユニット型個室」の場合
月額費用の目安②:要介護5・居室タイプ「ユニット型個室」の場合
出所:各種資料をもとに筆者作成
※介護サービス加算と日常生活費の金額は一例。自己負担割合が1割の場合。
要介護3
総額 13万5320円
要介護4
総額 13万7390円
要介護5
総額 13万9400円
上記の通り、費用の安い特養であっても多床室は約10万円、個室であれば13万円以上かかります。
厚生年金を受給する方の場合は、年金だけで毎月の費用をカバーすることが可能かもしれませんが、国民年金のみを受給する場合は難しいと言えるでしょう。
4. 【特養】特別養護老人ホームの費用を「年金だけで払えない場合」の対処方法
では、特別養護老人ホームの費用を年金だけで支払うことができない場合に検討したい対処方法を4つ、お伝えします。
4.1 軽減制度を利用する
特別養護老人ホームで利用できる軽減制度は「負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)」と「高額介護サービス費」の二つ。
それぞれの概要について整理していきましょう。
■その1.負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)
特定入所者介護サービス費(補足給付)の対象者
出所:厚生労働省「介護サービス情報公表システム」をもとに筆者作成
負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)とは、所得や資産等が一定以下の方に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給される制度です。
その対象者と利用者負担段階は以下の通りです。
※夫婦の場合、預貯金等基準額は( )内の金額となります。
第1段階
※預貯金等限度額:1000万円(夫婦の場合 2000万円)
第2段階
※預貯金等限度額:650万円(夫婦の場合 1650万円)
第3段階(1)
※預貯金等限度額:550万円(夫婦の場合 1550万円)
第3段階(2)
※預貯金等限度額:500万円(夫婦の場合 1500万円)
■利用者負担段階別の負担限度額(日額)
利用者負担段階別の負担限度額(日額)
出所:厚生労働省「介護サービス情報公表システム」をもとに筆者作成
利用者負担段階別の負担限度額(日額)は以下の通りです。
【第1段階】
居住費
食費:300円
【第2段階】
居住費
食費:390円
【第3段階(1)】
居住費
食費:650円
【第3段階(2)】
居住費
食費:1360円
負担限度額は所得段階、施設の種類、部屋のタイプによって異なります。
例えば『第2段階で要介護3、居室タイプ「多床室」』の方の月額費用は次のようになります。
『第2段階で要介護3、居室タイプ「多床室」』の方の特養月額費用
出所:各種資料をもとに筆者作成
総額 5万2160円
※介護サービス加算と日常生活費の金額は一例。自己負担割合が1割の場合。
軽減制度その2.高額介護サービス費
高額介護サービス費とは、同じ月に利用した介護サービスの、利用者負担の合計額が高額になり一定額を超えたときに、超過分が「高額介護(介護予防)サービス費等」として支給される制度です。
なお、この制度は申請を行うことで支給を受けられます。自治体から通知書と申請書が届くため、受け取ったら速やかに申請手続きを行う必要があります。
4.2 自宅を売却する
自宅(持ち家)を売却して資金にあてるという方法もあります。
ただし、自宅を売却する場合は、専門の不動産業者に査定をしてもらい、確実な金額を把握する必要があるでしょう。
また、親が認知症になってしまうと売却が難しくなることもあるため注意してください。
4.3 融資を受ける
「リバースモーゲージ」というシニア向けの融資制度を利用するのも1つの方法です。
これは、持ち家のある人が、介護施設などへの入居に当たって、自宅(持ち家)を担保にして銀行などの金融機関からお金を借りることができる融資制度です。
所得の低い高齢者向けには、国の生活福祉資金貸付制度の「不動産担保型生活資金」を利用できる場合があります。
こちらは、お住まいの市区町村社会福祉協議会、または都道府県社会福祉協議会が相談窓口です。
4.4 生活保護を受給する
年金だけで費用を支払えない場合「生活保護の受給」も対処法となります。
ただし、生活保護を受給したい場合は、世帯年収の最低生活費に満たないことが条件となっているなど一定の条件を満たす必要があります。
生活保護を受給して特別養護老人ホームに入居したい場合は、自治体の担当窓口やケアマネジャーに相談してみるといいでしょう。
参考資料
執筆者
介護福祉士/ケアマネジャー/社会福祉士/保育士/福祉住環境コーディネーター3級
福祉系短期大学を卒業後、生活支援員として障害者支援施設へ就職。その後、生活相談員、ケアマネジャーとして、養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院に勤め、地域に暮らす高齢者やその家族に対する相談援助、行政機関や地域コミュニティとの連携・調整等の業務に従事した。現在はフリーライターとして、福祉・介護業界での20年間の経験を活かした介護関連の記事を多く執筆している。
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