口永良部島に行くなら覚えておきたい、別名“緑の火山島”と呼ばれる理由植物も海も生物も生命力が溢れてる!

屋久島の宮之浦港からフェリーで約1時間40分。口永良部島の中心地、本村港に入港します。屋久島の宮之浦港からフェリーで約1時間40分。口永良部島の中心地、本村港に入港します。

 およそ50万年前から、10個の火山が順々に誕生し、度重なる火山活動によって溶岩や火山灰などを噴出し、大きくなったという口永良部島。

 大小の2つの島が合体したような形で、最高地点が657メートル。と聞くと、低いように思えるけれど、水深600メートルの海底からそびえていると考えれば、全体像としては1200メートル。面積も南西諸島の火山島では、最大だとか。

1000年前から活動が始まり、今も煙を噴く新岳。山頂付近は噴火の影響で岩が露出しているけれど、麓には緑が。1000年前から活動が始まり、今も煙を噴く新岳。山頂付近は噴火の影響で岩が露出しているけれど、麓には緑が。

前回は、火山がもたらす恩恵のひとつ、温泉(かなりの秘湯!)をご紹介しましたが、今回は豊かな動植物についてのお話を。

 口永良部島は別名“緑の火山島”と呼ばれています。

 山頂付近はマルバサツキ、その周辺はスダジイやタブノキ、ホルトノキなどの照葉樹林、海岸部はハマビワやマルバニッケイなどの常緑低木林が広がっています。それ以外のほとんどはダイミョウチクの笹が占めています。

 森に入ると、珍しいランを見かけることも。ツルランの群落が6~7月には開花し、サクラランやコクラン、そして環境省により絶滅危惧種に指定されているムヨウランのタカツルラン、昨年口永良部島で新たに国内2番目の自生地が発見されたヤクシマヤツシロラン……。ランに詳しい方なら、訪れてみたくなることでしょう。

周回道路から少し入っただけで、この緑。周回道路から少し入っただけで、この緑。

 ガイドをしてくれたえらぶ年寄り組の山口英昌さんたちは、森の中の一画をヤクシカが入らないように囲い、植物相の成長具合を調べています。植物たちの勢いの良さは、島の生命力そのものにも見えてきます。

エラブオオコウモリが目撃された木には看板が立つ

固有種を守るため、ネットで覆い、成長を見守っています。固有種を守るため、ネットで覆い、成長を見守っています。

 健全な森は、希少な生き物にも居心地のいい住み処に。クビワオオコウモリの亜種の中でも数が少ないエラブオオコウモリも、こことトカラ列島の一部にしか生息していません。

 フルーツが好物、特にガジュマルやアコウ、クワやイヌビワの実が大好きなエラブオオコウモリ。贅沢にも果汁だけを味わって、食べカスはペッと吐き出します。そのペリットという食べカスを見つけたら、前夜そこにエラブオオコウモリがいた証拠。夜行性の生物ゆえに、夜に出直すと、会えるかもしれません。

エラブオオコウモリの観察案内看板。木の名前と出没するシーズンや時間帯が表示されています。エラブオオコウモリの観察案内看板。木の名前と出没するシーズンや時間帯が表示されています。

 ちなみに集落内にはエラブオオコウモリが見かけられた木に看板が立てられ目印になっています。小・中学校の校庭のヤシの並木も、日没後には遭遇できる可能性が高いそうです。

屋久島町立金岳小・中学校のワシントンヤシの木も観察スポット。屋久島町立金岳小・中学校のワシントンヤシの木も観察スポット。

 夜間、エラブオオコウモリを探しにいったら、夜空を見上げてみてください。私が訪れた春先には、全天で2番目に明るい恒星のカノープスが輝いていました。ちなみにこの星は中国では見ると長寿になるという、縁起のいい星だそうです。

ひとはあるものだけで豊かになれる

 火山灰由来の土壌は作物がよく育つといいます。口永良部島は、山の幸の宝庫。5~6月はダイミョウチクのタケノコのシーズン。タケノコ特有のアクがないので、そのまま天ぷらに。また、キウイの原種やブルーベリーの仲間のシャシャンボ、ぶどうのようなガネブなど、ワイルドなごちそうも実っています。

 一方、海も豊穣。寝待・岩屋泊などにはサンゴ礁が広がり、サンゴは69種、魚種は546種とも、686種ともいわれています。魚種には黒潮にのってやってきたトロピカルな魚もいれば、新種が発見されることも。今回、私はダイビングをする機会がなかったのですが、ダイビングサービスもあります。

北側の美浦の荒々しい磯場。タイドプールには様々な海の生き物が。北側の美浦の荒々しい磯場。タイドプールには様々な海の生き物が。

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湯向地区にある民宿の夕食に並んだ、カメノテ。初めて食べました。美味!湯向地区にある民宿の夕食に並んだ、カメノテ。初めて食べました。美味!

 砂浜のある向江浜にはアカウミガメやアオウミガメが産卵のために上陸していたとか(現在は噴火後の土石流で地形が変わり、姿を見せなくなってしまったそう……)。西之湯温泉前の海ではアカウミガメを見かけることがあるとか。寝待温泉前の海でイルカの群れも見ました。

明治半ばに熊本の僧侶によって発見され、日露戦争の頃に現在の温泉が作られたという西之湯温泉。明治半ばに熊本の僧侶によって発見され、日露戦争の頃に現在の温泉が作られたという西之湯温泉。寝待温泉の前の立神の海中温泉。ケガした魚も傷を癒しにやってくるとか⁉寝待温泉の前の立神の海中温泉。ケガした魚も傷を癒しにやってくるとか⁉

 口永良部島では、ガイドに連れられて生物を見に行くというよりも、あるがままの彼らの暮らしを垣間見る、という感じでしょうか。

 また、島の中心地の本村を歩いていると、あちこちに湧き水の分配タンクを見かけます。えてして島は水問題に悩まされるものですが、口永良部島では水が涸れたことはないそう。火山岩の層を通り抜けたシリカの濃度が高い地下水がこんこんと湧き、生活用水にも使われています。

集落のあちこちに湧き水が。集落のあちこちに湧き水が。

 水が豊かで、海の幸・山の幸に恵まれた口永良部島。「ひとはあるものだけで豊かになれる」というキャッチフレーズがしっくりきます。

 が、問題もあります。戦後の農林省の植林政策で植えられた杉の人工林が放置されていることによる悪影響、増えすぎてしまったシカや野生化したヤギなどの被害……。人の手が入ったことによる、自然界のバランスの乱れだとは一概には言えないかもしれませんが、小さな島では影響が大きいもの。自然環境についても、考えさせられます。

山肌をびっしりと覆うダイミョウチク。春先は美味しいタケノコがとれるけれど、実は、荒れた土地で最初に勢力をのばすのがタケなのだとか。山肌をびっしりと覆うダイミョウチク。春先は美味しいタケノコがとれるけれど、実は、荒れた土地で最初に勢力をのばすのがタケなのだとか。島の東部には広大な牧場が。同じ島でもいろんな表情があります。島の東部には広大な牧場が。同じ島でもいろんな表情があります。

口永良部島

●アクセス 屋久島へは鹿児島から飛行機で約35分、または高速船で約1時間50分から2時間45分。屋久島の宮之浦港からフェリーで約1時間40分。
●おすすめステイ先 民宿くちのえらぶ 電話番号 0997-49-2213

取材協力/えらぶ年寄り組 https://kuchinoerabu-jima-senior.org/index.html

古関千恵子(こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

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