宿は常に満室、木造アパート8万円…馬毛島の自衛隊基地工事に沸く種子島、ホテル・不動産バブルが起きていた

工事関係者の宿泊先確保で争奪戦が起きている西之表市街地一帯=12日(本社チャーター機から撮影)

 工事関係者の宿泊先確保で争奪戦が起きている西之表市街地一帯=12日(本社チャーター機から撮影)

 鹿児島県西之表市馬毛島への米軍機訓練移転を伴う自衛隊基地整備計画は12日から本体工事に入った。軍事的に台頭する中国をにらみ、面積8平方キロメートルの島は日米の防衛拠点に変貌する。構想が表面化して16年。戦後、真っさらな土地に大規模な基地が造られるのは初めてだ。着工の波紋を追った。(連載「基地着工 安保激変@馬毛島」6回目より)
 市街地近くの木造アパート1室が月額7~8万円。西之表市では最近、これが賃貸物件の一つの目安とされる。不動産関係者は「少なくとも2割は上がった。都会並みだ」と苦笑する。
 家賃高騰の発端は、同市馬毛島の自衛隊基地整備計画だ。昨年1月に管理用道路整備の一環で島内作業が始まったのを機に、工事関係者の宿舎確保が争奪戦の様相を見せ始めた。
 物件不足も深刻で、賃貸情報を見ても空き部屋はほぼゼロ。ある不動産業者によると、新築アパートは建設告知の看板を出した時点で問い合わせが入る。完成前に1棟丸ごと借り上げが決まることもあった。
 市には家賃の値上げを通告された住民から、市営住宅の入居相談が複数寄せられた。「異動期でも借り換えは厳しい」「新婚さんの新居が見つからない」といった話は珍しくない。
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 宿泊施設も盛況だ。市内の味処井元(いのもと)の旅館は予約が2月まで埋まっている。「毎日20件ほど問い合わせがある。心苦しいけど直前の予約や飛び込みの対応は難しい」と女将(おかみ)の井元まゆみさん(60)。客室の3分の1は、基地工事の関連業者が1年半~3年程度の長期で借り上げているという。
 工事関係者の送迎場所の西之表港に近い種子島あらきホテルでは、昨秋から男性専用カプセルホテルが高い稼働率を維持する。荒木政臣専務(39)は「受け入れ人数をどう増やせるか検討している」と話す。
 種子島観光協会などによると、宿泊施設の大まかな収容人数は西之表市900人、中種子町230人、南種子町1000人。基地着工前から宿舎確保の波は全島に及び、南種子町でも予約が取りにくくなっている。ある宿泊業者は「工事関係はドタキャンがなく、細かい要望もあまりないのでありがたい」と明かす。
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 種子島の宿泊者数は、新型コロナウイルスの影響で4割ほど落ち込んだ。宿泊業にとって、基地工事はこれを補う機会と言えるが、観光客を受け入れる余地がなくなる懸念も広がる。
 特にサーフィンやカヤック、スキューバダイビングなど、体験型観光の事業者には死活問題だ。関係者は昨年から、4、5年と見込まれる工事期間中の対応を協議してきたものの、有効策は見いだせていない。
 工事に投入される作業員は、ピーク時で5000人規模に上ると言われる。種子島観光協会などはこうした工事関係者をターゲットに、当面は島外誘客から島内向けのPRに切り替え、しのぎたい考えだ。
 同協会の酒井通雄会長(59)は「5年後の姿を想像できないのが怖い。それでも準備を急がないと」。人口約2万7000人の種子島が今、大きく変わろうとしている。

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