尖閣諸島「自然の宝庫」のはずが…ヤギ食害で荒廃・漂着ごみ深刻、生態系崩壊の危機

image

 国境の島は、ヤギの食害で緑が減少するだけでなく、漂着ごみの量も深刻化していた。沖縄県石垣市がまとめた尖閣諸島と周辺海域の環境調査報告書。中国側が領海侵入を繰り返して緊迫し、日本の領土でありながら環境保全がままならなくなる中、生態系への影響を強く危惧している。(今村知寛)

今回の調査で確認された魚釣島北側の海岸漂着ごみの状況(沖縄県石垣市の報告書より)今回の調査で確認された魚釣島北側の海岸漂着ごみの状況(沖縄県石垣市の報告書より)

 昨年の調査で確認された周辺海域の「漂流ごみ」は9個だったが、今回は3倍以上の28個だった。昨年と同様のブイや発泡スチロールのほか、ペットボトルやベニヤ板など多くの種類が確認された。報告書は「理由の特定は困難」としつつも、「環境への影響を考えた場合、注視すべき結果」と指摘している。

 今回、唯一調査した魚釣島の「漂着ごみ」は、北側で多数確認された。報告書では、北西の季節風の影響を理由に挙げている。一方、南側は沖合で漂流ごみは多数確認されたものの、海岸への漂着ごみはほとんど確認されなかった。黒潮に乗ってそのまま東に漂流したとみられるという。

 報告書は、確認した魚釣島北側のごみの量について、数年から数十年の長期間に蓄積したとの見方を示した。島はセンカクモグラやセンカクサワガニなど約10種の固有種が生息する「自然の宝庫」だ。市の担当者は取材に、「ごみがこうした動物の生態系を壊す懸念がある」と危機感を語った。

 食害については、ドローン調査で詳細が判明。報告書はヤギによるものと指摘し、1年前の調査時と比べて、「魚釣島の南側斜面における植生の荒廃と崩落による岩肌露出の進行が確認された」とした。

 市から調査を請け負った東海大の山田吉彦教授(海洋政策)によると、ドローンはヤギらしき動物をとらえていたが、その数はわずか1頭。一時は1000頭いるとされたが、その面影は見られなかった。山田教授は「南側は生態系が崩壊して餌となる植物が減少し、ヤギすら生息できなくなっている」と危惧する。

 一方、報告書は魚群探知機を使った海域の調査について、石垣島付近では観察されなかった魚群が3か所で確認されたとし、「高い漁業生産性を示唆する」とした。今後、魚の大きさや数を調べる機器を導入し、より具体的に資源量を推定する必要性を強調した。

 報告書について、中山義隆市長は「環境への負荷が大きい漂着ごみやヤギの実態を把握するには、海からの調査では限界がある。環境保全のため、島に上陸調査をした上で対策を取るよう、国に強く求めていきたい」としている。

調査報告書のポイント
▽石垣島近海から魚釣島沖までの調査海域で昨年の3倍以上の漂流ごみを確認
▽魚釣島北側の海岸の漂着ごみが昨年より一見して増加
▽魚釣島南側斜面の植生荒廃と崩落による岩肌露出が進行
▽尖閣諸島周辺海域の3か所で魚群を確認。高い漁業生産性を示唆

コメント