日本でもおなじみ「花崗岩」なんと、屋久島はまるごと「ひとつの岩体」だった…!深まるのは「どうやってできたか」という「謎」

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私たちが暮らす地球は、豊かな恵みを与えてくれますが、地震、火山噴火などの大きな災害をもたらすこともあります。こうした大地の性質を「地質」といいます。

この地球の大部分を占める三つの石「かんらん岩(橄欖岩)」「玄武岩」「花崗岩」。これらの性質や成り立ちが分かれば、地球のことが理解できると言います。

今回は、陸上でも目にしやすく、日本でも古くから硬くて丈夫な石として、石材などに利用されてきた「花崗岩」を取り上げます。高級石材と知られている「黒御影」もか花崗岩の仲間です。『三つの石で地球がわかる』などの著書がある、藤岡 換太郎さんの解説でお送りしましょう。

【書影】三つの石で地球がわかる

*本稿は、ブルーバックス『三つの石で地球がわかる』の内容を再構成してお送りします。

昔から石材の主役だった「花崗岩」

花崗岩は昔から石材として実にさまざまな使われ方をしてきました。お城の石垣や、お地蔵さんや五百羅漢などの石像、九州に多い石橋にも花崗岩からできているものがあります。

【写真】大阪城の石垣は、小豆島産の花崗岩大阪城の石垣は、小豆島産の花崗岩 photo by gettyimages

それは、洒落のようですが、「花崗岩」は「加工」しやすいからです。「崗」は「硬い」という意味であるように、花崗岩そのものは硬い石なのですが、表面には「節理」という割れ目があります。

地下深部でマグマがゆっくり冷えて岩石になるときに、冷えやすい部分が壊れて割れ目になるのです。ここに楔(くさび)を打ち込むと、花崗岩はその面に沿って容易に割れます。石材はこうして切り出すのです。

節理が見られる名所としては、木曽川(長野県)沿いの「寝覚の床(ねざめのとこ)」と呼ばれるところに、花崗岩の大きな節理があります。また、大阪城の巨大な石垣となっている花崗岩も、楔を節理に何本も打ち込んで、切り出したものと推察されます。

花崗岩が並ぶ木曽川の名所「寝覚の床」
花崗岩が並ぶ木曽川の名所「寝覚の床」 photo by gettyimages

花崗岩ほど、日本人の生活に古くから密着してきた石はないでしょう。石井さん、石川さん、石塚さんなどの「石」も、多くは花崗岩なのかもしれません。

なんと島全体が花崗岩の岩体

さて、このように花崗岩が日常的にみられるのも、この石が大陸地殻を形成しているからにほかなりません。地球の全体積に占める割合は橄欖岩(82.3%)、玄武岩(1.62%)よりも少ない0.68%ですが、陸をつくっているだけに、私たちの目にふれる頻度はほかの二つの石とは大違いです。

花崗岩が大陸地殻となったのは、海洋地殻を形成する玄武岩よりも密度が小さい、つまり軽いからです。重い玄武岩の上に、軽い花崗岩が乗っかっているのです。

花崗岩はしばしば、巨大な岩体を形成します。日本では、鹿児島県南西の海に浮かぶ屋久島の、面積504km²におよぶ島全体が大きな花崗岩の岩体でできています。

【写真】屋久島の千尋滝に露出する巨大な花崗岩の岩盤
屋久島の中央山岳部から流れる滝之川の千尋滝では、巨大な花崗岩の岩盤が露出する photo by gettyimages

さらに巨大な「バソリス」

しかし、世界に目を向ければ上には上があり、アメリカ大陸ではロッキー山脈に巨大な花崗岩の岩体が出現しています。そもそも「ロッキー」とは「岩がごろごろしている」「岩がちな」といった意味ですが、なかでもコロラド州のボールダー山地(「ボールダー」は「巨礫」という意味)には、なんと直径が100kmを超える巨大岩体がごろごろしています。

【写真】ロッキー山脈にみられる花崗岩の巨岩ロッキー山脈にみられる花崗岩の巨岩の一部。巨大岩体は「バソリス」と呼ばれる photo by gettyimages

【写真】ヨセミテ米国立公園の花崗岩ドーム「ハーフドーム」
こちらはロッキー山脈の西側に位置するヨセミテ米国立公園の花崗岩ドーム「ハーフドーム」 photo by gettyimages

このような巨大な岩体を、一般に「バソリス」といいます。バソリスは世界各地で見られ、ユーラシア大陸でも、ロシアのウラジオストク北東から日本海沿いへ1200km延びるシホテ・アリン山脈や、カムチャツカ半島から中国の海南島まで3000kmにもわたる範囲に、バソリスが分布しています。

ちなみに中国の雲南や貴州に露出している花崗岩はいわゆるレアメタルをたくさん含んでいて、貴重な金属資源になっています。

バソリスを形成することは、花崗岩の大きな特徴です。ところが、このことがやがて、20世紀の岩石学者たちをおおいに悩ませる謎となるのです。

「バソリスはどうやってできた」という謎

それは、つきつめれば花崗岩の成因に関係してくる問題であり、岩石学者たちの間で「花崗岩問題」とも呼ばれた難題でした。

花崗岩がどうしてできるのかについては、カーネギー地球物理学研究所のノーマン・ボーエンが20世紀の初め、花崗岩の「火成論」を提唱しました。

本源マグマとされる玄武岩質マグマの結晶分化作用によって、安山岩質マグマ、デイサイト質マグマ、流紋岩質マグマとさまざまな組成のマグマができます。ボーエンはさらに、それらができたあとに残った最後の液は、花崗岩質マグマになることを溶融実験によって明確に示したのです。

(参考記事:「マグマ」は「石」が溶けてできた「液体」…冷える時の「ある違い」で、はまったく別の「種類」の石になる!

つまり、花崗岩も玄武岩と同じく火成岩であり、系譜としては同じ橄欖岩を親にもつ、玄武岩の弟というところでしょうか。

ところが、ここに大きな謎が立ちはだかってきたのです。それは、これだけのバソリスをつくるほど大量の花崗岩が、いったいどこでできたのか、というものでした。

この新たな謎が、どのように解き明かされていったのかを、続いて見てみましょう。

【写真】シホテ・アリン山脈のピダン山頂からの見た山脈の連なり。これだけ大量の花崗岩がどこでできたのか?
シホテ・アリン山脈のピダン山頂からの見た山脈の連なり。これだけ大量の花崗岩が、いったいどこでできたのだろうか photo by gettyimages

三つの石で地球がわかる――岩石がひもとくこの星のなりたち

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