日蓮宗とはどんな宗教? 歴史や特徴、葬儀のマナーなどの基礎知識

仏教にはさまざまな宗派があり、宗派によって葬儀の手順が異なることも珍しくありません。無宗教の人も、葬儀に参列するときに備えて、宗派ごとの特徴を知っておくとより安心です。
ここでは、日蓮宗の歴史や教義の特徴、葬儀のマナーなどを紹介します。

日蓮宗とは

「日蓮宗(にちれんしゅう」)とは、どのような宗派なのでしょうか。開祖や主な寺院など、日蓮宗の基礎知識を見ていきましょう。

日蓮聖人が開いた宗派

日蓮宗は、鎌倉時代中期に「日蓮聖人(にちれんしょうにん)」が開いた宗派です。

1222(承久4)年、安房(あわ)国(現在の千葉県鴨川市)に生まれた日蓮は、12歳で地元の清澄寺(せいちょうじ)に入って仏教を学びます。16歳で出家し、比叡山(ひえいざん)や高野山(こうやさん)で修行を積んだのちに、独自の宗派を開きました。

東方の太平洋に向かって祈る「日蓮聖人」銅像(千葉県鴨川市清澄寺内)。12歳で父母の元を離れ、この清澄寺で仏道修行に励んだ。4年間、寝食を忘れて修行に打ち込んだという。「日本第一の智者となし給え」と虚空菩薩に祈願した。

なお、日蓮宗の呼び名が一般的になったのは、安土桃山時代の終わり頃です。宗派が開かれた当初は「法華宗(ほっけしゅう)」と称していましたが、「天台法華宗」と区別するため、開祖の名前を付けて呼ぶようになりました。

日蓮宗の主な寺院

日蓮宗の総本山は、山梨県にある「身延山久遠寺(みのぶさんくおんじ)」です。

晩年の日蓮が、読誦(どくじゅ、声を出してお経を読むこと)や弟子の教育に注力した場所で、境内には日蓮のお墓もあります。

また、日蓮や日蓮宗に深いかかわりのある以下の7寺院が「大本山」と呼ばれています。

・誕生寺(たんじょうじ・千葉県)
・清澄寺(せいちょうじ・千葉県)
・中山法華経寺(なかやまほけきょうじ・千葉県)
・北山本門寺(きたやまほんもんじ・静岡県)
・池上本門寺(いけがみほんもんじ・東京都)
・妙顕寺(みょうけんじ・京都府)
・本圀寺(ほんこくじ・京都府)

このうち、東京都の池上本門寺は日蓮が亡くなった場所です。忌日(きにち)に開催される法要「お会式(おえしき)」には、毎年数十万もの人が参詣します。

池上本門寺「大堂(祖師堂)」(東京都大田区)。1282(弘安5)年10月13日、日蓮聖人が61歳で入滅した霊跡。9年間過ごした身延山に別れを告げ、病気療養のため常陸の湯に向かう途中、当地で亡くなったという。毎年10月11、12、13日にわたってお会式がある。

日蓮正宗との違い

「日蓮正宗(にちれんしょうしゅう)」は、日蓮の高弟の一人・日興(にっこう)によって発展した宗派です。日蓮宗と同じく、日蓮の教えを大切に受け継いでいます。

日興は日蓮の没後、身延山久遠寺で墓を守り、布教や弟子の教育にあたっていました。しかし、身延の領主と意見が合わず、久遠寺を離れることになります。

その後は、静岡県富士宮市に「大石寺(たいせきじ)」を創建し、独自に布教活動を続けました。釈迦(しゃか)を本仏とする日蓮宗に対して、日蓮正宗では日蓮聖人を本仏としており、「日蓮大聖人」と呼んでいます。

日蓮宗の歴史

日蓮は、どのような経緯で新しい宗派を開いたのでしょうか。日蓮宗が生まれた時代背景や、立教開宗の歴史を見ていきましょう。

日蓮宗が生まれた背景

日蓮が生まれる少し前に、源頼朝(みなもとのよりとも)が政治の実権をにぎり、鎌倉に日本初の本格的な武家政権が誕生します。

しかし、政権交代に伴う争乱が相次いで起こったうえに、凶作や疫病、大地震などの災害が重なり、世の中は荒れていました。

そこで、仏教をもっと庶民に身近なものとして広め、苦しむ人々を救おうと考える僧侶たちが現れます。

当時の仏教は、貴族や武家など一部の身分の高い人だけが学べるものであり、貧しい人々には縁遠かったのです。日蓮も、そうした僧侶の一人でした。

彼らは簡単な修行で誰でも成仏できるとする新しい宗派を開き、庶民に広く支持されます。「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と念仏を唱えるだけでよい浄土宗(じょうどしゅう)や浄土真宗(じょうどしんしゅう)、座って修行する「禅(ぜん)」を取り入れた臨済宗(りんざいしゅう)や曹洞宗(そうとうしゅう)なども、同じ頃に開かれた宗派です。

1253年に立教開宗

1253(建長5)年4月28日の早朝、日蓮は最初に修行した清澄寺の旭森(あさひがもり)山頂にて、立教開宗を宣言しました。「日蓮」の名は、このときに名乗ったものです。

開宗から数年後、日蓮は鎌倉にて辻説法(つじせっぽう、街頭での布教活動)を始めました。1260(文応元)年には、相次ぐ天変地異から国を救うための方策を「立正安国論(りっしょうあんこくろん)」にまとめ、鎌倉幕府に提出します。

「立正安国論」の内容は、天変地異の原因が念仏の流行にあるとし、放置すれば、さらなる国難が起こると幕府を批判したものでした。こうした過激な思想のため、念仏信者や幕府の怒りを買い、たびたび迫害を受けています。

日蓮宗の教え

仏教の宗派の多くは、膨大な経典(きょうてん)の中から、中心となる経典を選び、教えの基本としています。日蓮宗が大切にしている経典や、教えの特徴を見ていきましょう。

法華経の教えが基本

日蓮宗は「法華経(ほけきょう)」の教えを基本とする宗派です。法華経は、釈迦が晩年の8年間を費やして説いた教えで、正しくは「妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)」といいます。

仏教の重要な経典の一つであり、平安時代に開かれた天台宗(てんだいしゅう)をはじめ、多くの宗派で用いられています。日蓮は修行を重ねるなかで、法華経を独自に解釈する境地に至りました。

釈迦の本当の心が表されている法華経は、釈迦そのものであり、「妙法蓮華経」の5文字に釈迦の知恵と功徳(くどく)が、すべて備わっていると考えたのです。

そして、「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」の題目を唱えることで、誰でも平等に成仏できると説きました。

題目「南無妙法蓮華経」の意味

「南無」とは、仏の名を唱えるときに、頭に付ける言葉です。妙法蓮華経に南無を付けた日蓮宗の題目には、「法華経を信じてすがります」「大切にいたします」という意味があります。

釈迦は法華経の中で、すべてのものには「仏の心」があると説いています。釈迦の功徳をすべて備える法華経を、心から信じて題目を口にすることで、自分の中に仏の心が現れ、成仏できるというのです。

当時は、女性や武士などは成仏できないとする考えもあったため、誰でも差別なく成仏できるとする日蓮の教えは斬新なものでした。

知っておきたい日蓮宗の葬儀の特徴

日蓮宗の葬儀に参列するときは、どのような点に注意すればよいのでしょうか。焼香のやり方や香典のマナーなど、知っておきたい葬儀の特徴を見ていきましょう。

葬儀の最中に題目をくり返し唱える

先述の通り、日蓮宗では題目である「南無妙法蓮華経」を唱えることで成仏できると教えています。このため、葬儀の最中でも題目がくり返し唱えられます。

題目を唱える行為が、故人の生前の信心深さを示す証(あかし)となり、釈迦のいる「霊山浄土(りょうぜんじょうど)」にたどり着く道しるべとなるのです。

霊山とは、釈迦が法華経を説いた「霊鷲山(りょうじゅせん)」の略です。仏教には、いくつかの浄土(仏や菩薩がいる神聖な世界)がありますが、日蓮宗では釈迦により法華経が説かれた霊山こそが、釈迦のいる浄土とみなしています。

身延山久遠寺「祖師堂」(山梨県南巨摩郡)。日蓮宗の総本山で、1274(文永11)年5月17日を日蓮聖人身延入山の日、同年6月17日を身延山開闢(かいびゃく)の日としている。写真の祖師堂は、日蓮聖人の神霊を祀る堂閣で、「棲神閣」と称する。

葬儀の流れ

日蓮宗の葬儀における、一般的な流れは以下の通りです。地域や寺院によっては、手順が変わることもあります。

1.総礼
2.道場偈(どうじょうげ):諸仏を招く声明曲
3.三宝礼:仏(釈迦)・法(妙法蓮華経)・僧(日蓮聖人)の三宝を礼拝
4.勧請:釈迦や諸仏、日蓮聖人を招く
5.開経偈(かいきょうげ):法華経の功徳を讃える
6.僧侶による読経
7.開棺・引導:仏様に故人を引き合わせる
8.祖訓:日蓮聖人の遺文拝読
9.唱題(題目を唱える):この間に焼香を完了
10.宝塔偈(ほうとうげ):法華経の功徳を讃える
11.回向(えこう):故人の幸せを願う
12.四誓・三帰:人々を救う誓い及び仏道に精進する誓いの言葉
13.奉送:釈迦や諸仏、日蓮聖人をお送りする
14.閉式

葬儀のマナー

一般の参列者が押さえておくべきポイントは、焼香・数珠(じゅず)・香典の3点です。

日蓮宗の葬儀では、唱題の間に焼香を行います。焼香台の前で合掌、一礼したら、お香を右手の親指と人差し指でつまみ、押しいただいてから火種に振りかけましょう。

数珠は宗派によって、房の付き方や玉の数などが異なります。日蓮宗にも専用の数珠がありますが、信者ではない人がわざわざ買う必要はなく、自宅にある数珠で十分です。

葬儀に持参する不祝儀袋の表書きは、「御霊前」または「御香典」です。ただし、日蓮宗では、故人が四十九日を境に成仏すると考えているため、四十九日以降の法要に参列する場合は「御仏前」または「御香典」とします。

仏教の宗派の一つである日蓮宗

日蓮宗は、鎌倉時代に開かれた仏教の宗派の一つです。法華経を釈迦とみなし、題目を唱えるだけで救われると説いた日蓮の教えは、現代の葬儀にもしっかりと受け継がれています。

葬儀に参列する際は、心を込めて「南無妙法蓮華経」を唱え、故人の安らかな成仏を祈りましょう。

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