桜島噴火、情報伝達模索する鹿児島市 気象庁メール終了には困惑

写真・図版

訓練では噴火警戒レベル4(高齢者等避難)になったことを想定し、保育園での避難手順を確認していた=鹿児島市の桜島

写真・図版

逃げ遅れた人を自衛隊の装甲車で救助する訓練もあった=鹿児島市の桜島

写真・図版

訓練では避難を終えたことを示す「避難完了板」が各家の前にかけられていた=鹿児島市の桜島

写真・図版

ペットと一緒に避難することを想定し、避難所にはペットのスペースも設けられた=鹿児島市の桜島

写真・図版

気象庁が7月に出した噴火警戒レベル5を知らせる緊急速報メール。対象地域が記されていないことなどを理由に年内で配信を終了するという=鹿児島市提供

桜島噴火警戒レベルが7月、最も高い5(避難)に引き上げられたことを受け、住民への情報伝達などの課題が浮き彫りになった。これを教訓に、鹿児島市は避難訓練で改善に取り組んだ。一方で気象庁が噴火の緊急速報メールを年内でやめると発表し、新たな対応を迫られている。(仙崎信一)

     ◇

 桜島で噴火警戒レベルが5になったのは7月24日夜。噴石の飛散が基準の2・4キロを超えたため、気象庁がレベル3(入山規制)から一気に5に引き上げた。5は大規模噴火の恐れを示すレベル。桜島で発令されたのは初めてだった。

 桜島には約1800世帯約3500人が暮らす。市はレベル引き上げから1時間半後、噴石の距離や噴火の状況から桜島南部の2地区に避難指示を出した。

 初のレベル5を経験し課題が見つかった。なかでも「情報がわかりやすく伝わらなかったのが反省点」と市危機管理課の中島智広課長。

 桜島の噴火警戒レベルを5に引き上げる時は、大規模噴火が切迫し全島で警戒が必要な場合と、噴石が一定の距離を超えて飛んだ場合とがあるが、今回はどちらなのかが伝わらず混乱を招いた。避難指示を出すまでの1時間半、有効な情報を出せなかった点も反省の一つという。

 市は11月に実施した桜島の総合防災訓練に、情報伝達を含む新たな課題を踏まえた対応を盛り込んだ。

 わかりやすい情報発信に関しては、島内の防災行政無線で「大規模噴火の可能性が高まっている」「大規模噴火が近づいている」と、内容をよりはっきりと伝えるよう心がけた。

 7月の噴火の際は島民から町内会長に問い合わせが相次いだことを踏まえ、同じ噴火情報を町内会長あてにも電話やFAX、メールで送った。

 ほかの課題に関しては、避難の際、薬を忘れた人が多かったことから3日程度の薬を持つよう呼びかけた。ペットの同行避難も想定し、避難所にペットのスペースも設けた。

 世帯全員が避難したことが一目でわかる「避難完了板」を家の前に掲げる訓練も、昨年の一部世帯から全世帯に拡大した。

 中島課長は「7月に出た課題の解消に取り組めた」と振り返った。

     ◇

 7月の噴火後、気象庁は「噴火警報文の改善」「噴火緊急速報メールの終了」という二つの変更を打ち出した。困惑が広がったのが緊急速報メールの年内での取りやめだ。

 噴火警報は自治体や報道機関向けに出し、住民に伝えられるもの。11月からは噴火警戒レベルが5、4(高齢者等避難)になった場合、大規模噴火の兆候の有無を記すことにした。

 大規模噴火が迫っている場合は「大規模噴火の発生が切迫しています」、そうでない場合は「大規模噴火が発生する兆候は認められません」と盛り込む。

 わかりやすい情報発信を求める鹿児島市の要望を受けたもので「この取り組みは歓迎しています」と市の担当者。ただ、この改善以上に、緊急速報メール終了の影響を心配している。

 緊急速報メールは緊急地震速報のように、携帯電話会社を通じて一定エリアにある携帯電話に情報を一斉配信する仕組み。7月の噴火の際も使われた。「住民に直接情報を届けるプッシュ型の最たる手段なので続けてほしいのですが……」

 気象庁が「噴火」と大雨など「気象」に関する特別警報(レベル5、4)時の配信を12月末で終了すると発表したのは10月18日。理由に、対象となる市町村の記載がないことや、他の防災アプリが充実していることを挙げた。

 市は全国の火山を抱える市町村でつくる「火山防災強化市町村ネットワーク」(鹿児島市長が会長)を通じて11月29日、配信継続を気象庁長官に求めたが、好感触は得られなかった。

 重大な災害発生に備えて最大限の警戒を呼びかけるのが特別警報。噴火に関する緊急速報メールの配信が始まったのは、わずか7年前のことだ。

 市の関係者は「数十年に一度の危険な時に発せられるのが特別警報。だからこそ直接国民に伝える目的で緊急速報メールを始めたはずで、国はあまりにも無責任」と疑問を呈する。

 配信終了まで1カ月を切った。下鶴隆央市長はやむなく市独自の代替策をつくる考えを表明。素早い発信ができるよう検討を進めている。

     ◇

 〈7月の桜島の噴火警戒レベル5引き上げ〉 桜島で7月24日午後8時5分、爆発的噴火が発生。噴石が基準の2・4キロを超えたため、気象庁は午後8時50分、噴火警戒レベルを3(入山規制)から5(避難)に引き上げた。鹿児島市は午後10時20分、桜島南部の2地区33世帯に避難指示を出した。被害や大規模噴火の兆候はなく、気象庁は27日、レベル3に引き下げ、避難指示も解除された。

コメント