汗を大量にかく人とかかない人の違いは? 発汗機能は2歳までに決まる説も 多汗症チェックリスト

※写真はイメージです(写真/Getty Images)

外に出ると、じっとしているだけでも汗が流れるこの時季。発汗は体温を調節するために重要な機能ですが、日常生活に支障があるほどの大量の汗に悩まされる人もいます。汗をたくさんかく人とかかない人の違いや「多汗症」と診断される基準について、専門の医師に聞きました。この記事は、週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院」編集チームが取材する連載企画「名医に聞く 病気の予防と治し方」からお届けします。「多汗症」全3回の1回目です。

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 私たちの体は、暑いときや運動時に体温が上がると、汗を出すことで皮膚表面を冷やし、体温を下げます。体温が上昇すると、脳の視床下部という部位から全身の皮膚にある汗腺(かんせん)に汗を出すように指令が出て、発汗するという仕組みです。汗をかけないと体の中の熱を外に逃がすことができず、熱中症の危険が高まります。つまり、汗を出すことは、健康を維持するために重要なことです。

 しかし同じ環境下にいても、汗をかきやすい人とかきにくい人がいます。この違いはどこからくるのでしょうか。発汗異常症を専門とする愛知医科大学病院皮膚科教授(特任)の大嶋雄一郎医師はこう話します。

「一般的に男性のほうが女性よりも汗をかきやすい傾向があります。男性ホルモンは発汗を促す働きがあり、女性ホルモンは発汗を抑える働きがあることが一因です。また、汗腺の働きは加齢によって低下していくので、高齢になると汗をかきにくくなります」

 そのほか、日ごろの生活習慣も影響するといいます。汗腺は全身に存在していますが、そのすべてが機能しているわけではありません。

「運動や入浴などによって汗をかく習慣がある人は、働く汗腺の割合が多く、汗をかきやすいと考えられています。6月くらいの暑い日に熱中症になりやすくなるのは、気温が低かった時季に汗をかいていなかったことで、汗腺が働きにくくなっていることが一因です」(大嶋医師)

発汗機能は2歳までに決まる?

 一方で、汗のかきやすさは2歳くらいまでに、ある程度は決まるという説もあります。汗の病気や小児皮膚科に詳しい池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長の藤本智子医師はこう話します。

「同じ日本人でも気温が高い東南アジアで生まれ育った人のほうが、日本で生まれ育った人よりも汗を素早くかけるという、60年ほど前の論文報告があります。大規模な実験によるものではありませんが、ほかにも似たような報告はあり、乳幼児期に汗をかく環境で過ごしたほうがその後も汗をかきやすくなる可能性があると言われています」

 しかし現代の子どもは、温暖化による気温の上昇もあり、冷房が利いた涼しい部屋で汗をかかずに過ごすことが多くなりました。

「短時間でもいいので、毎日外遊びをするなど、乳幼児のうちに無理のない範囲で汗をかけるような環境をつくることは大事です」(藤本医師)

多汗症かどうかを見極める方法とは?

 暑いときや運動したときだけではなく、緊張したとき、驚いたときなど精神的な刺激によって汗が出ることもあります。体温調節のための発汗は「温熱性発汗」、精神的な刺激による発汗は「精神性発汗」と呼ばれます。緊張などによって交感神経の働きが活発になると、アセチルコリンという神経伝達物質が放出され、それが汗腺にある受容体に結合して、発汗が促されると考えられています。

 温熱性発汗と精神性発汗は、汗をかく部位にも違いがあります。

「精神性発汗の特徴は、手のひら、足の裏に汗をかくことです。一般的に手足は温熱性発汗はありません。わきの下や頭、顔は温熱性と精神性、両方に関わります」(大嶋医師)

 前述したように温熱性発汗は生命維持に不可欠ですが、精神性発汗の場合、暑くもないのに日常生活に支障をきたすほど大量に汗をかくことがあります。この場合「多汗症」という病気の可能性があります。約6万人を対象とした調査(2020年)では、1割の人に多汗症がみられました。(「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改定版」から)

 多汗症かどうかは、次の基準によって判断することができます。

 部分的に過剰な発汗が、明らかな原因がないまま6カ月以上認められ、6項目のうち2項目以上が当てはまる場合に、「原発性多汗症」(以下多汗症)と診断されます。

 明らかな原因がある多汗症は「続発性多汗症」と呼ばれ、原因には薬剤性、循環器疾患、がん、感染症、内分泌・代謝疾患、末梢神経障害などがあります。

「当院を受診した40代の患者さんで、急に左側のわきの下から大量の汗が出るようになったという方がいて、CT検査をしたところ、肺がんが見つかりました。左右どちらかだけに症状が出ている場合は、病気が潜んでいる可能性があります」(大嶋医師)

乳幼児期から思春期に発症しやすい

 多汗症の基準として「発症が25歳以下」とあるように、多汗症は、大人になってからではなく、乳幼児期から思春期までには症状を自覚するケースが多いのが特徴です。

「手足の多汗症(掌蹠多汗症・しょうせきたかんしょう)は、生まれつきのもので遺伝が関連する場合もあります。これまで診た患者さんで一番低年齢だったのは生後6カ月の赤ちゃんです。一般的には幼稚園や小学校など集団生活を送るなかで、本人が気にし始めることが多いようです」(藤本医師)

 わきの下の場合は、思春期に発症する傾向があり、早くて小学校高学年、あるいは中学生、高校生になって悩まされます。

 多汗症は、放置しても健康上影響はなく、本人が困っていなければ、問題はありません。しかし、多汗症によって日常生活や職業が制限されることもあります。多汗症は現在、健康保険が適用されている薬もあり、治療の選択肢が広がっています。多汗症の基準に当てはまる場合は、皮膚科を受診することをおすすめします。

(文/中寺暁子)

愛知医科大学病院 皮膚科教授(特任) 大嶋雄一郎医師
1999年、愛知医科大学医学部医学科卒。刈谷総合病院、トヨタ記念病院などを経て、現職。専門は発汗異常症。日本皮膚科学会認定専門医・指導医、日本発汗学会理事、日本ボツリヌス治療学会代議員。


愛知医科大学病院 皮膚科教授(特任) 大嶋雄一郎医師

愛知医科大学病院 愛知県長久手市岩作雁又1-1

池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 院長 藤本智子医師
2001年、浜松医科大学医学部医学科卒。同年、東京医科歯科大学皮膚科入局。同大皮膚科助教、多摩南部地域病院皮膚科医長、都立大塚病院皮膚科医長などを経て17年から現職。東京医科歯科大学病院皮膚科の発汗異常外来を05年から担当。日本皮膚科学会認定専門医・指導医、日本発汗学会理事、日本臨床皮膚科医会常任理事。


池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 院長 藤本智子医師

池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 東京都豊島区西池袋1-39-4第一大谷ビル3階

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