温泉天国ピンチ コロナ禍で客離れ、燃料費高騰が追い打ち… 後継ぎ不足の銭湯 相次ぎ廃業

番台に立つ永用八郎さん=3月、鹿児島市三和町の亀乃湯

 番台に立つ永用八郎さん=3月、鹿児島市三和町の亀乃湯

 270以上の源泉数を誇る温泉天国の鹿児島市で、地元に愛されてきた銭湯が近年相次ぎ廃業している。深刻化する後継ぎ不足に、新型コロナウイルスによる客離れと燃料費の高騰が追い打ちをかけた。経営者は厳しい運営の中、「市民の生活を守りたい」と営業継続を模索する。
 市や県によると、市内の一般公衆浴場は2019年度末までに数軒ずつ減少し、20年度末からは53軒を維持する。ここ10年で鹿児島市では7軒、県内全体では60軒減った。
 県公衆浴場業生活衛生同業組合の鹿児島市支部長、永用八郎さん(69)は「経営者の高齢化と後継者不足が原因」とみる。施設が老朽化した場合、後継者がいなければ多額の設備投資に踏み切れず、結局廃業を選ぶケースは少なくない。
 永用さん自身も娘夫婦に継がせる予定はない。「大がかりな修理となれば数千万円かかる。今の体力で完済できる自信はない」
 一度掘った温泉が安定して出続ける保証はなく、出なくなれば高額な費用をかけて掘削しなければならない。さらに「清潔さが命」の温泉業は、力仕事である清掃が毎日欠かせない。営業は朝早くから夜遅くまでと長いが、アルバイトを雇う余裕のある店は少ない。
■感染恐れ入湯を自粛
 追い打ちをかけたのが、新型コロナの感染拡大による銭湯離れだ。銭湯は県の休業要請の対象にはならなかったが、感染を恐れ自粛する人が見られた。
 みやこ温泉(上竜尾町)の福丸宏二代表(69)は「コロナの影響で、高齢者を中心に一気に減った。元に戻りつつあるが、売り上げはコロナ前から2~3割減った」と肩を落とす。
 光熱費の高騰も打撃だ。温泉を沸かしたり、サウナを稼働したりするのに必要なガス代が上昇。コロナ対策で窓を開け換気しなければならないが、急激な血圧変化で起きる「ヒートショック」を避けるためにも脱衣所に暖房が必要となり、電気代の負担も大きい。
 中山温泉(中山町)では昨年11月から今年2月の光熱費が、前年同月比で7~9割上がった。「客が減り収入が減っても、節約や削減ができない必要経費。経営を圧迫している」と西田賢作支配人(45)は頭を抱える。
■サウナブームが希望の光
 経営環境は厳しくなる一方だが、営業を続ける経営者は「客の生活を守りたい」と口をそろえる。風呂はほとんどの家庭に普及しているが、疲れを取るため、体が温まる温泉を日常的に利用している人が一定数いる。中には交通手段がなく歩いて来る高齢客もおり、「うちがなくなれば、どこにいくのだろう」。福丸代表の心配は絶えない。
 希望もある。ここ数年のサウナブームで、若い男性客を見かけるようになった。経営者は「定着してくれるとありがたい」と力を込める。組合も2月6日の「風呂の日」に合わせたイベントや割引など、客に来てもらうためのてこ入れを進める。
 芦刈温泉(若葉町)の中原愛代表(48)は7年前、会社員を辞めて親族から経営を継ぎ、温泉を守る思いを託された。「銭湯は鹿児島が誇る価値ある文化。できる範囲で大切にしていきたい」と前を向く。

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