鹿屋を飛び立った海自哨戒機が中国戦闘機に追尾される。元隊員は「生きた心地がしなかった」。東シナ海の緊張は今も続く

海上自衛隊鹿屋航空基地に配備されているP1哨戒機

 海上自衛隊鹿屋航空基地に配備されているP1哨戒機

運用初日の飛行を終え、海上自衛隊鹿屋航空基地に戻った米空軍無人偵察機MQ9(右)=22日午前1時43分、鹿屋市今坂町

 運用初日の飛行を終え、海上自衛隊鹿屋航空基地に戻った米空軍無人偵察機MQ9(右)=22日午前1時43分、鹿屋市今坂町

運用初日の飛行を終え、海上自衛隊鹿屋航空基地に戻った米空軍無人偵察機MQ9(右)=22日午前1時43分、鹿屋市今坂町

 ある日の東シナ海上空。海上自衛隊鹿屋航空基地(鹿屋市)を飛び立ち、洋上を監視中だった哨戒機内は緊張感に包まれた。
 中国の戦闘機が近づき、追尾されていた。空自の戦闘機がスクランブル出動(緊急発進)で応援に来たが、中国側を刺激してはいけない。しばらくにらみ合いが続き、結局は事なきを得た。「生きた心地がしなかった」。元隊員は明かす。
 尖閣諸島を国有化した2012年9月以降、中国の海洋進出は大幅に増えた。別の元隊員は「不審船を追う時は国を背負うような重圧を感じる」と振り返る。
 海自幹部は「今の中国軍は量に加え、動きの質も高度化している」と言う。「進出と監視の我慢比べだ。負担はかつてなく重い」
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 防衛省によると、自衛隊機の緊急発進は年間900~千回、1日あたり2回以上の高い水準が続く。近年は対象機の7割が中国だ。戦闘・爆撃機に加え、無人機が太平洋や尖閣諸島を巡るなど特異飛行も目立つ。
 米国防総省は2000年代から中国軍の分析に力を入れ、「アクセス阻止・エリア拒否」戦略とみる。中国に近い地域の部隊や基地を攻撃できる装備をそろえて損害リスクを高め、南西諸島からフィリピンに連なる第1列島線の大陸側に他国を近づけさせない考えとされる。
 自衛隊制服組元トップの河野克俊氏は「海洋権益を増やしたい中国にとって尖閣や南西諸島は邪魔な存在でしかない」と話す。
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 朝霧でかすむ11月21日午前8時ごろ、鹿屋基地から無人機MQ9が1機発進。米軍の運用は本格化した。
 その後、他の無人機の離陸はなく、朝の機体とみられるMQ9が戻ったのは約17時間後の22日午前1時半。海自の哨戒機の後を追うように現れ、基地周辺を2周した後、着陸した。
 防衛省の説明資料を基に単純計算すると、この日の飛行距離は5600キロ以上。鹿屋から約1100キロ離れた台湾周辺を優に往復できる。「鹿屋への配備は中国対応で初の試み。世界中から注目されている」。ある米兵は誇らしげに話す。
 対中国を想定し、米軍は南西諸島などに拠点を分散させ、状況に応じて各地に部隊展開する作戦を練る。鹿屋の無人機が得た情報は日本側と共有する。
 鹿屋の自衛隊員の負担軽減にはなるのか。防衛省の制服、背広組幹部は「期間限定で実証的要素が強い」と否定的だ。「米軍頼みでは限界がある。自衛力を高めなければ」
 離島を中心に続く中国と日米の覇権争い。鹿屋もその一翼を担う。22日未明にMQ9が基地に戻ると、すぐに次の機体が離陸の態勢に入っていた。

 中国やロシア、北朝鮮に囲まれた日本の安全保障政策が大きく変わろうとしている。鹿屋、西之表市馬毛島、奄美大島…。日米が一体化を目指す中、鹿児島はその激動の渦中にいる。終戦後の進駐軍以来、県内で初めて米軍の駐留が始まった鹿屋を見つめる。
(連載「安保激変@鹿屋 米軍がやってきた」より)

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