「住民リスク無視ではただの軍拡」 寝た子を起こす騒音、地下水に有害物質…沖縄の基地負担、暮らしの隅々に

嘉手納基地に飛来したステルス戦闘機F35=6月28日、沖縄県沖縄市

 嘉手納基地に飛来したステルス戦闘機F35=6月28日、沖縄県沖縄市

嘉手納基地を飛び立つステルス戦闘機F35=6月28日、沖縄県嘉手納町

 嘉手納基地を飛び立つステルス戦闘機F35=6月28日、沖縄県嘉手納町

 鹿児島で自衛隊の新基地建設や部隊増強が続いている。海洋進出を強める中国を念頭に米軍との一体化も進む。基地があることは地方の暮らしにどんな影響を及ぼすか。鹿児島との関わりが深まる沖縄と山口県岩国市周辺の現場を訪ねた。(連載「基地と暮らして 安保激変@沖縄、岩国」⑩より)
 在日米軍岩国基地(山口県岩国市)に別の基地から戦闘機の飛来が相次いだ今月上旬、沖縄県の嘉手納基地(嘉手納町など)にも同様に外来機が頻繁に姿を見せた。「戦闘機の見本市のよう。実弾を搭載した空母艦載機も来る」。約10年前から基地の様子を撮影している60代男性はシャッターを切り続けた。
 岩国は海兵隊や海軍空母の航空部隊、嘉手納は空軍の拠点。ともに極東最大級の規模で「抑止力」の象徴だ。
 外来機の往来の増加は、台湾有事に備えた米軍の戦略が背景にある。中国のミサイル能力向上で、基地に戦力を集中させるリスクが増大。このため基地間や島々を行き交いながら拠点を分散させ、応戦する方針だ。
 鹿児島に波及している自衛隊基地や民間空港の使用も、こうした戦略の上にある。
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 「沖縄への基地集中は軍事、政治の両面で安保体制を脆弱(ぜいじゃく)にしている」。沖縄国際大の野添文彬准教授(安全保障)は強調する。普天間飛行場(宜野湾市)の近くに立地する同大学は、構内に2004年の海兵隊ヘリコプター墜落跡が残る。
 部隊の安定運用に地域との協力関係は不可欠だが、過重な基地負担で住民の不満が募っている。野添氏は「米軍が分散戦略を進める今、沖縄の負担軽減は安保上のメリットと両立する」と指摘。同時に「住民のリスクを無視した従来の進め方ではただの軍拡になる。信頼関係の醸成が今後、より重要になる」とくぎを刺す。
 琉球大学の山本章子准教授(国際政治史)も「日米地位協定が抱える課題の放置は安保体制をもろくする」とみる。寝付いた子どもを起こす騒音、米軍基地周辺の地下水などから検出される有害な有機フッ素化合物(PFAS)。沖縄の暮らしの隅々で基地の負担を感じている。「特定の地域の犠牲を前提にした政策のままでいいのか」
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 住民間の溝をよそに、国が交付金で地方を揺さぶり、諦めを誘う。ほかの地域は「仕方ない」と黙認する-。基地の街を訪ねると、同じ構図が浮かんだ。馬毛島、鹿屋、奄美をはじめ鹿児島でも似た経緯をなぞっている。
 これまで鹿児島を訪れた米軍幹部は「重要な戦略地」と強調してきた。軍事大国化する中国を念頭に、政府はかつてない防衛力強化を打ち出し、世論も容認に傾いている。鹿児島に求められる役割は今後もやみそうにない。
 ただ、実態の見えない軍事的な課題ばかりが先行し、暮らしに直結するリスクの議論は何も深まっていない。現状のまま有事が迫っても世論は割れ、「抑止力」が揺らぐのは明らかだ。
 国は住民と信頼を平時から築けているか。激変する鹿児島から問うべき課題は山積している。
=おわり=

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