お茶は「最先端の健康飲料」だった! がんの成長、転移を予防…日本茶に豊富な成分「テアニン」とは

緑茶

緑茶が“不老長寿”をもたらす?

 日本人にとって「ソウルドリンク」ともいえる「お茶」。そんな気軽な飲み物が“不老長寿”をもたらす可能性を秘めていると聞けば驚く人も多かろう。どの種類のお茶をどれくらい飲めば、どんな病気にどのような仕組みで効くのか。専門家が「お茶」を語り尽くした。

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 ちょっとした風邪薬から抗がん剤まで、現代社会では病気を治すため、実に多くの薬剤が用いられている。言うまでもなく、これらの薬は、医師や薬剤師の厳重な管理のもとで処方される。強い効果を持つ薬には、時として副作用があるからだ。

 一方、東洋医学の世界では、他の部位に影響を与えず、ゆっくりと病気を癒やす薬が「上薬」とされてきた。抗がん剤のように、効果はすぐに出るものの他の部位に甚大な影響をもたらす薬は「下薬」というわけだ。

 先進各国で見られる長寿化に、これらの「下薬」が貢献してきたのは間違いない。ところが近年、さらなる健康長寿のために、「上薬」が注目を集めているという。その最たる例として、太古より健康効果が言い伝えられてきたもの。それこそが「お茶」である。

 日本には、奈良・平安時代に遣唐使や留学僧によって中国より渡来したと言い伝えられるお茶。日本人にとって「ソウルドリンク」ともいえるこの飲み物に、実は今、世界中の視線が集まっているのだという。

“最先端の健康飲料”

茶葉イメージ

お茶は“最先端の健康飲料”であると言っても過言ではない

 一体、お茶のどこにそんな力が隠されているのか。静岡県立大学・茶学総合研究センターでセンター長を務める中村順行(よりゆき)特任教授によれば、お茶の特異な健康効果には主に三つの成分が寄与しているという。

「お茶にはビタミンやミネラルも豊富に含まれていますが、特に注目されているのが『カテキン』『カフェイン』『テアニン』の三大成分です。さまざまな栄養素を含むお茶は“最先端の健康飲料”であると言っても過言ではありません」

 まさに“有効成分”のオンパレード。中でも有名なのは、やはり三大成分の一角をなすカテキンだろう。

 そもそもカテキンとはポリフェノールの一種。

「ポリフェノールは植物の苦味や渋味、色味のもとになる成分の総称で、お茶が渋かったりするのも、カテキンというポリフェノールのおかげです。また、ポリフェノールには味や色だけでなく抗酸化作用という重要な役割もあります。これは読んで字のごとく“酸化”に抗う作用です」(同)

緑茶を5杯以上飲むと驚きの効果が

 ポリフェノールはほぼ全ての植物に含まれる成分で、赤ワインやブルーベリーに含まれるアントシアニン、コーヒーに含まれるクロロゲン酸などが知られている。だが、お茶の中でも緑茶に多く含まれる「エピガロカテキンガレート」というカテキンは数あるポリフェノールの中でも抗酸化力が非常に高く、その値は、クロロゲン酸の数倍ともいわれる。実は、この抗酸化作用こそ、お茶を「健康飲料」たらしめる一番の立役者なのだ。

「人間は酸素を取り込みながら生きていますが、これが体内で変化した活性酸素はかなり厄介。活性酸素は簡単に言うと、人間の細胞を酸化させさびつかせてしまいます。老化や動脈硬化、さらにはがんも、もともとはこの活性酸素が原因。逆に言えば活性酸素から身を守ることができれば健康寿命をさらに延ばすことも理屈の上では可能。お茶に含まれるカテキンの抗酸化作用には、この活性酸素を取り除く力があるのです」(同)

 実際、2015年に国立がん研究センターが発表した研究結果によれば、1日に緑茶を5杯以上飲む人は、1杯未満の人に比べて、男性で13%、女性は17%も死亡リスクが減少することが分かっている。

脂肪イメージ

カテキンには脂肪を溶かす作用も

大腸がんを予防する効果

 さらに疾患別に見れば、女性では心疾患の死亡リスクが約4割、男性では脳血管疾患が約2割下がったというから、その実力は折り紙付きである。

「こうした血管に関連する病気の死亡リスクが下がったのは、血管の壁が硬くなることで起こる動脈硬化を、カテキンのもつ抗酸化力によって防ぐことができるからでしょう。さらに、カテキンには血管にこびりついた脂肪を溶かし、血の巡りを良くする作用もありますからね」(同)

 また同調査では、緑茶に肺炎などの呼吸器系疾患の死亡リスクを下げる効果があることも指摘されている。

 秋津医院院長の秋津壽男医師によれば、

「心臓が悪くなると血液の循環も悪くなり、肺機能も低下してしまいます。おそらく、カテキンによって心臓の血管の状態が健康に保たれ、結果として肺機能が維持されて肺炎などの死亡リスクが下がったのではないでしょうか」

 カテキンの実力は心血管系疾患や呼吸器系疾患だけにとどまらない。理論上、「大腸がん」を予防する効果も期待できるのだという。

 秋津氏が続ける。

「私たちの腸内で悪玉菌が増えると、食べ物を分解したときに活性酸素が多く発生します。この活性酸素が腸内を傷つけ、ひいては大腸がんの原因になるのです。ただ、コーヒーに含まれるポリフェノール『クロロゲン酸』には、大腸内の悪玉菌を減らし、活性酸素を中和させて大腸がんを予防する効果があると指摘されている。いまだお茶でその効果を証明した研究はありませんが、カテキンもクロロゲン酸と同じポリフェノール。原理的にはお茶を飲んでも同様の効果が得られるものと考えられます」

転移を防ぐ効果も

 がんの研究には膨大な期間が必要となるため、お茶でがんが予防できることが実証されるのには、まだ時間がかかるかもしれない。だが、動物実験ではすでにお茶によるがん予防の効果が報告され始めている。

 先の中村氏が解説する。

「がん細胞が恐ろしいのは、自らが成長するために血管を新生し寄生虫のように体の中で成長を続けること。それから、自らの分身を他の場所にも転移させてしまうことです。ただ、お茶に含まれるカテキンは、がん細胞が血管を新生するのを防ぐと同時に、転移も防いでくれる。これは動物実験ではハッキリと分かっており、いずれ人間でも証明される可能性があると思います」

 がんの成長や転移を防ぐ効果まであるとすれば、お茶は“健康飲料”どころか“夢のドリンク”である。

 ところが、驚くなかれ。カテキンの実力はまだまだ底が知れない。お次はなんと糖尿病である。

「甘い食べ物などには、糖が複数結合した二糖類や三糖類が含まれます。これらの多糖類は分解され単糖類になることで初めて体に吸収され、多糖類のままでは吸収に時間がかかる。カテキンにはこの糖を分解する酵素の働きを阻害する効果があり、急激な血糖値の上昇も抑えることができるのです。また、血糖値を下げるインスリンの働きを増強する効果も認められていて、お茶以外にも“桑の葉茶”の予防効果が注目されています」(同)

 もちろん、カテキンが活躍するのは生活習慣病だけではない。秋津医師によれば、日常生活における感染症予防にもカテキンが力を発揮するのだという。

カフェインの効果を穏やかにするテアニン

「約3年半続いたコロナ禍には、お茶メーカーが競い合うようにしてカテキンによる免疫力向上の研究結果を発表していました。体内で発生した活性酸素は免疫細胞をも傷つけてしまうのですが、カテキンの抗酸化作用によってこれを防ぐことができるというわけです。さらに、カテキンには菌やウイルスの増殖を防ぐ『静菌』効果があることも分かっています。強い殺菌効果を謳う市販のうがい薬は、良性の菌まで殺してしまうのですが、静菌ならその心配はありません。お茶に一つまみの塩を入れれば、浸透圧が体とぴったりになり喉を傷めることもない。そのまま飲み込んでも大丈夫ですから、うがいが苦手な子どもやお年寄りでも難なく感染症予防をすることができる。私自身もよく患者さんにはお茶うがいをお勧めしています」(同)

 心血管系の疾患や呼吸器系疾患の死亡リスク低減からがん予防、さらには糖尿病予防に免疫力向上や感染症予防まで。実に多岐にわたる健康効果を有する「カテキン」だが、忘れてはいけないのが、お茶には他にも有効成分があるということ。

 中村氏は、

「お茶の成分の一つであるカフェインは、交感神経に働きかけて覚醒や集中をもたらしてくれます。玉露などの高級茶にはコーヒーより多量のカフェインが入っていることも珍しくありません。ただ、玉露を飲んで目がカーッと見開いたりすることはあまりありませんよね。これは三大成分の一つであるテアニンにリラックス効果があり、副交感神経に働きかけてカフェインの効果を穏やかにしてくれるからなのです」

ストレスによる脳の萎縮を軽減

 すでに研究されつくした感のあるカテキンやカフェインに対して、まだまだ未知の領域も多い「テアニン」。だが、その実力の一端は動物実験により明らかにされつつあるという。

「強いストレスにさらされると脳が萎縮する場合があるのですが、テアニンのリラックス効果はこの脳の萎縮を軽減することが動物実験で確かめられています。また、ストレスを与えたマウスは一般に寿命が短くなるのですが、テアニンを投与したところ、平均的なマウスと同じ水準まで寿命が延びたという結果も報告されています」(同)

 ストレスも軽減し、寿命も伸ばす。こうなれば、いよいよ“魔法のドリンク”に見えてくるが、気になるのは「お茶ならば何でもよいのか」という点だろう。

 ご存じの方も多いだろうが、緑茶も烏龍茶も紅茶も元は同じ。これらのお茶は全て「茶の樹」という常緑樹から作られている。

 中村氏いわく、

「茶の樹は葉の小さい中国種と葉の大きいアッサム種に分類されますが、含まれる成分に大きな違いはなく、生産地によって変わることもありません。緑茶や烏龍茶、紅茶の違いは、主に発酵の有無や度合いによるもの。お茶の世界では、茶葉をしおれさせたり、もむことで細胞を壊したりして酸化を促進することを“発酵”と呼びますが、茶葉の酸化は熱を加えることで止められる。この発酵を止めるタイミングによってお茶の色や味、香りに変化が出るのです」

 具体的には、茶葉を蒸すことで酸化を止める「不発酵茶」と呼ばれるのが、日本の煎茶や玉露、番茶、抹茶などのいわゆる緑茶である。ちなみにほうじ茶は煎茶や番茶を焙煎したもので、緑茶に分類される。

 一方、中国の烏龍茶などは少しだけ発酵させる「半発酵茶」。紅茶は完全に発酵させる「発酵茶」だ。

テアニンが多いのは日本の抹茶

抹茶イメージ

日本の高級抹茶が一番

 発酵の度合いはお茶の色や香りにも影響を与えるが、

「重要なのは、お茶を酸化させるとカテキン同士が結合するということです。つまり不発酵茶である日本の緑茶にはカテキンが豊富に含まれる一方、発酵茶である紅茶はカテキン同士が結合して別の物質に変わってしまうので、カテキンはほとんど含まれません」(同)

 ここまで見てきた通り、お茶の健康効果の大部分はカテキンによるもの。烏龍茶や紅茶にはこれらの健康効果は望めないのだろうか。

 だが、中村氏は、

「それが、そうとも言い切れないんです。カテキンが複数結合して別の物質に変わってもカテキンの良いところは失われませんから、場合によっては緑茶より強力な効果を得られる可能性もある。ただ、カテキンが結合した結果、どの成分が有効なのかを判別しにくいだけ、ともいえるのです」

 では、リラックス効果をもたらすテアニンはどうか。テアニンの含有量は葉への日光の照射程度によっても変わるという。

「日本の緑茶のうち、煎茶や番茶は日光を遮らずに育てるのですが、抹茶や玉露といった高級茶は新芽が2、3枚開き始めた頃にワラなどで太陽光を遮る被覆栽培を行うんです。こうすることによってテアニンが生成され、旨味が増すため、玉露や抹茶はほんのり甘い味になる。現在、世界で飲まれている緑茶の9割は中国産といわれていますが、中国産のお茶は手間のかかる被覆栽培を行いません。世界中の抹茶を買い集めて比較しましたが、テアニンが最も含まれていたのは日本の高級抹茶でした」(同)

 もっとも、テアニンと違って、カテキンは日光を照射しなければ豊富に生成されない。そこで、効果を高めるためには、自らの用途に応じて複数の種類を組み合わせるのが良いのだそう。

「例えば、玉露はその甘みを味わうために50~60度で入れるのが良いとされます。これくらいの温度でもテアニンは十分抽出されますが、カテキンやカフェインは熱湯で入れる方が多く抽出される。従って、空腹時や夜寝る前などは玉露など、ぬるま湯で入れたお茶を飲むのが良いでしょう」(同)

カテキンが豊富な「二番茶」

 また、お茶が摘み取られる時期によっても、成分に違いが出る。

 晩春に収穫されるその年最初の「一番茶」は、栄養成分が豊富で、カテキンやテアニンの含有量も多い。一方、「二番茶」は一番茶に比べてテアニンなどの成分が少ないものの、夏に近づき強い日光が当たっているためカテキンの含有量は他の時期よりも多い。さらに遅い時期に摘み取られる番茶は、冬に近づき養分を蓄え始めた頃に摘み取られるため、糖類が多く含まれているという。

「特に番茶に含まれるポリサッカロイドという糖類には血糖値や血圧を下げる効果があることが分かっています。従って、食後や寝起きなど血糖値や血圧が上がりやすい時間帯に飲むと効果的だと思います」(同)

 現代社会では、コンビニや自販機で売られているペットボトル入りの緑茶も人気だが、

「“濃いお茶”や“特茶”でない限り、カテキンやカフェインの分量は急須で入れたものと比べて3分の2以下。テアニンはほとんど期待できません。冷たいお茶を飲みたいのであれば、茶葉から入れたお茶を冷やすか、茶葉をティーバッグにいれて水出しにするのがおすすめです。抗酸化作用を得たいのであれば1日350ミリグラム程度のカテキンを摂取するのが目安。湯飲み5杯分ほどを3時間おきくらいに飲むのが良いのではないでしょうか」(同)

 リラックス効果も得られて、健康長寿も手に入る。何よりお茶を入れることで得られるくつろぎは、私たちの人生をより一層、豊かなものにしてくれるだろう。

週刊新潮 2023年12月28日号掲載

特別読物「諸悪の根源『活性酸素』を除去 身近に“魔法のドリンク”『お茶』」より

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