もしかして大病?――「ふらつき」を感じたら何をすべきか

医者も悩む、ふらつきとしびれ

患者さんがよく訴える症状の中で、いまだになかなか治療できないものがいくつかあります。その代表的なのが「ふらつき」と「しびれ」です。治療薬も効果的なものが少ないのが現状です。
ふらつきとしびれについてネットで調べてみると、それらに関係するたくさんの病気が出てきて驚いてしまいますが、実際には原因のはっきりしない場合がありますし、説明できないところが医師としても困ってしまうのです。

ふらつきは高齢者なら仕方ない?

本稿ではふらつきを中心に触れていきます。ふらつきは高齢者がよく訴える症状ですが、これは高齢者特有のものなのでしょうか?

年を取ってくるとふらつくことが多くなります。まさに、からだの衰えの典型的な症状とも言えます。筋肉が減って筋力が落ちてくれば、しっかり踏ん張っていられないのでふらついてしまうのです。

筋力の衰えはなかなか自覚できないものです。それは普段、最大限の筋力を使うことが少ないからです。その一方で、限界まで常に筋力を使っているスポーツ選手は、30歳過ぎにはすでに筋力の衰えを感じていると言います。
一般の人は余裕を持って筋肉を使っているので、衰えに気がつけないのです。だから、ふらつくという症状が筋力の低下だとは思うことができず、何かの病気だろうと考えてしまうのです。

油断できない、ふらつきの症状

といっても、「急に」ふらつきが出たときは、緊急性のある病気を疑う必要があります。早く医師に診てもらうべきです。たとえば脳卒中の場合は、早く治療することで症状がよくなる可能性があるからです。

いつから起きたのかはっきりしない、そういえばこの頃ふらつくような気がするといった場合は、緊急の病気ではないので急ぐ必要はありません。しかし、念のため、一度診察を受けたほうがいいでしょう。
ふらつくだけでなく、「手のしびれ」や「しゃべりにくい」といった他の症状がある場合も、やはり医療機関を受診すべきです。
ふらつきはどれもはっきりとした診断ができないというのではなく、典型的な症状や経過なら病気を特定することもあります。ただ、高齢者の慢性的なふらつきは非常に診断が難しく、いろいろ検査をしても何も異常がないということが多いのです。

ふらつきと同じように、「めまい」という症状があります。めまいはふらつき以上に、よく診療では診る症状です。

おおざっぱに言ってしまえば、症状が激しく起き上がれないようなめまいは、耳から来るものが多く、症状は激しいですが、数日で治ってしまう場合が多いです。
回転性といってぐるぐる回るようなめまいと、頭を動かすとぐらっとするようなめまいがあります。どちらも耳からくるめまいのことが多く、頭を動かすとめまいが出る場合は、治るのに時間がかかります。時間はかかりますが、どんどん悪化することは少なく、こういっためまいは一度耳鼻科を受診しておきましょう。

ふわふわするというふらつき感を訴える人も多くいます。
体が宙に浮いている、足元が安定しない感じというような訴えが多いようです。こういった症状も診断がつきにくく、医師も手を焼く症状の典型です。この場合はほとんど原因がはっきりしません。

ふらつきを起こす他の原因

耳が原因ではないふらつきにはどんなものがあるのでしょうか。
医学の教科書には、血圧が急に上がった場合にめまいが起こるとありますが、私の臨床経験ではそういった患者さんを診たことがありません。血圧が200近くてもむしろ無症状の人のほうが多いように思います。

ふらつきの原因として、脊髄の病気、パーキンソン病、重症筋無力症や多発性筋炎などが医学の教科書には書いてありますが、こういった病気の初発症状がふらつきということはまずないでしょう。他の症状が先に起こるので、結果的にはふらつきが出てはきますが、ふらつきを診て、小脳や耳以外の原因の場合は非常に少ないものです。

ネット情報でも医学の教科書でも、めまいやふらつきを起こすいろいろな病気が書かれています。それを読むと重篤な病気ではないかと悩んでしまうものです。それによって、以下のような症状が出てしまうことも少なくないようです。

・病気不安症(心気症)
ふらつきが続くと、自分は何かの病気にかかっていると心配し始めます。日常の生活が不安になったり、仕事がうまくいかなくなります。いろいろ検査を受けて、重篤な病気が否定されても、自分は何かの病気にかかっていると思ってしまいます。ふらつきやめまいを抱える患者さんには、こういった病気を持つ患者さんがいます。この場合に大切なことは、医師と信頼関係を築くことが重要になってきます。

では、ふらつきの原因としては、実際にはどういったものが多いのでしょうか。改めて箇条書きにします。

・加齢によって筋肉が減ってくると、足の筋力の低下が起きてきます。それが原因でのふらつきは多いものです。病気で長く寝ていても筋力の回復に時間がかかるので、ふらつきがでてきます。
・骨粗鬆症で脊椎の形がつぶれ、背中が曲がってくると、身体の重心がずれてくるので、ふらつきやすくなります。
・変形性股関節症や変形性膝関節症のために脚がまっすぐ伸びないと、これも重心が狂ってくるので、バランスが悪くなって、ふらついてきます。 

これらはいずれも年齢的な変化を原因にしたふらつきです。こういったふらつきは、完全に治療することは難しいものです。
筋力維持、それしか方法はありません。歩くだけでは筋力はつかないので、スクワットのような体重をかけた運動をしていくしかありません。治そうと考えるより、現状維持が重要なのです。

しびれの原因は

最後にしびれについてです。しびれもなかなか診断の難しい症状です。

糖尿病による神経のしびれは有名ですが、最近ではそれほど見なくなっています。早期の治療が進んでいるせいかもしれません。
ビタミン不足でもしびれは起きますが、現代のように普通にいろいろ食べられる生活ではまず、ビタミン不足は起きないものです。
頚椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症、腰椎椎間板ヘルニアなど多くの脊椎疾患(整形外科の病気)でしびれが起きます。

手術で回復するケースもあるので、まずは整形外科を受診です。手足の神経の病気でもしびれが起きます。これらも手足の神経を専門に診ている整形外科や神経内科を受診すべきでしょう。

いろいろ検査をしても異常が見つからず、薬を飲んでも変化なければ――ふらつきやめまいが命に関わる病気の可能性は低いということです。 名医探しはやめて、人生の別な楽しみを探すほうがずっと症状は楽になります。

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