家賃が突如3倍、漁船は通勤用に駆り出され 高給の自衛隊基地関連へ流れる人、モノ…馬毛島バブルは地場経済を狂わせる

収穫したサトウキビを運び込む生産組合の作業員=16日、中種子町野間

 収穫したサトウキビを運び込む生産組合の作業員=16日、中種子町野間

〈関連=変わりゆく馬毛島。1年前と現在の様子を比べて見る〉北側上空から見た馬毛島。左は2023年1月12日撮影、右は24年1月8日撮影=いずれも本社チャーター機から撮影

 〈関連=変わりゆく馬毛島。1年前と現在の様子を比べて見る〉北側上空から見た馬毛島。左は2023年1月12日撮影、右は24年1月8日撮影=いずれも本社チャーター機から撮影

 鹿児島県西之表市馬毛島の自衛隊基地整備は、昨年1月の基地本体着工から1年となった。インフラのない「離島の離島」を丸ごと基地化する異例ずくめの国家事業。地元の産業や暮らしに与える影響を追った。
 サトウキビの日本北限産地とされる種子島は、収穫の最盛期を迎えている。中種子町にある島内唯一の製糖工場周辺は、刈り込んだキビを積んだ大型車がひっきりなしに行き交う。
 例年と変わらぬ冬の光景だが、今期は苦難が多かった。ハーベスターや運搬車両の運転手が、給料の高い馬毛島基地関連の仕事に流れたからだ。建設業と近い技術を持つ農業は人材の「草刈り場」と化している。
 同町の農業生産法人「アグリエイト」の梶屋良幸さん(73)は「運送会社にも委託できず困っている」と話す。5割増の日当で運転手をかき集め、自前でユニック車などをそろえざるを得なかった。投資額は数千万円に上った。
 キビは種子島の耕地面積の4分の1を占める主要作物。高齢化が進み、農地集約による大規模経営体への転換期にある。JA幹部は「人がいない、育たない。産業が成り立たない」と危機感を募らせる。
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 種子島に滞在する基地工事関係者は約1800人。馬毛島への通勤に漁船が駆り出されたこの1年、海にも変化が起きている。
 西之表市のまとめによると、種子島漁協の2023年の水揚げ量は前年の3割減。3年前に比べて半減した。全国的に知られるトビウオは前年の3割に満たない。
 一方、少ない漁獲を奪い合うように仕入れ値は上がった。とりわけ特産のトコブシ(ナガラメ)は、主要漁場の馬毛島東岸が港湾整備による漁業制限を受けていることもあり、競りで1キロ1万円を超えることがあった。
 飲食店の中には、県本土や南種子町漁協に仕入れ先を求める動きもある。西之表市住吉で商店を営む浜上英二さん(76)は「トコブシやキビナゴは3、4割上がった。漁師も生活がかかっているから何も言えないが、このままだと漁業が先細るばかりだ」と将来を憂う。
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 「とうとう来たか」。西之表市の60代女性は昨夏、大家から家賃を約3倍の10万円に上げる通告を受けた。市営住宅への入居を希望したが、ペットは連れて行けない。住む場所がなくなる不安と焦りから、体調を崩しがちになったという。
 市内の賃貸物件は、基地整備を契機に工事関係者に押さえられて満室が続き、家賃も高水準で推移する。不動産業者などによると、一戸建てで月30万円以上、1ルームで10万円超の事例もあった。
 物件所有者の貸し出し意欲を刺激し、放置状態の空き家の改修も進んだことで「街が活性化した」と前向きに受け止める声もある。とはいえ、4年程度とされる基地整備の後を見据えると、健全とは言えない状況だ。ある不動産業者は「バブルがはじけ、家賃が着工前より値崩れしないだろうか」と不安を口にする。
 先の女性は郊外に貸家を見つけたものの、新たに初期費用がかかり、勤務先に給料を前借りしてしのいだ。「工事が始まる前に対策は打てなかったのか。市民は泣き寝入りするだけだ」
(連載「基地着工1年 安保激変@馬毛島」4回目より)

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