年1億円弱繰り入れる市所有の宿泊2施設で「大量退職」 赤字続きにコロナが打撃…経営再建中に人繰りの懸念も

健康交流館ゆーぷる吹上=日置市吹上町中原

 健康交流館ゆーぷる吹上=日置市吹上町中原

国民宿舎吹上砂丘荘=日置市吹上町今田

 国民宿舎吹上砂丘荘=日置市吹上町今田

吹上地域の自治会長らにゆーぷる吹上の経営改善策を説明する田代誠治商工観光課長(中央左)ら=2022年12月、日置市役所吹上支所

 吹上地域の自治会長らにゆーぷる吹上の経営改善策を説明する田代誠治商工観光課長(中央左)ら=2022年12月、日置市役所吹上支所

 鹿児島県日置市は管理・運営する健康交流館ゆーぷる吹上(吹上町中原)の食堂と売店を3月末で廃止した。同じく運営する国民宿舎吹上砂丘荘(吹上町今田)とともに赤字経営が続いていたが、新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけた。2023年度から宿泊予約など両施設の業務管理を一元化し経営改善を目指すものの、職員の退職が相次ぎ人繰りに懸念もある。
 ゆーぷるのオープンは1998年4月。宿泊施設と一般客も利用できる温泉やプールがある。コロナ禍前の年間利用者は8~11万人で推移し、2019年度は8万2867人だったが、20、21年度は5万人を下回った。
 砂丘荘は1970年12月に開設し、85年の増改築で現在の新館が完成。87年には皇太子だった上皇ご夫妻が宿泊された。宿泊施設や食堂、宿泊者専用の温泉を備える。2019年度の利用者は3万1774人で20、21年度は約1万1000人に減少した。
 両施設への18~22年度一般会計からの繰り入れは、計4億6675万円で年1億円弱。市は年間1500万円の経費削減を目指し、砂丘荘を本館、ゆーぷるを別館として業務を統合する計画を22年11月に発表。食堂廃止は23年1月の予定だったが、地元自治会長らから異論が出て4月に先送りした。
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 ゆーぷるを巡っては過去にも食堂やプールの廃止案が出され、住民の反対運動が起こった経緯がある。22年12月の吹上地域自治会長連絡協議会の研修会では「利益改善の具体策が見えない」「伊集院や日吉の市の温泉施設にも、指定管理料として財源を投入している。なぜ吹上だけ問題視されるのか」など、市への不満の声が相次いだ。
 同協議会の櫻井健一会長(71)は最終判断は行政に委ねるとしながら「ゆーぷるはアスリートの合宿利用が多い。食事面で不満が出ないよう対処してほしい」と注文を付けた。
 4月1日から業務統合が始まったが、想定外だったのは従業員の大量退職だ。当初ゆーぷるから7人が砂丘荘に移る予定だった。しかし年齢や異動を理由に、22年度末までに両施設で計11人が退職。異動は4人にとどまり、砂丘荘ではホールスタッフなどを派遣社員で補うことになった。
 ただ、砂丘荘のフロントと調理場職員は増員されたため、寺脇正徳支配人(62)は「断っていた宴会を受けられるようになった」と前向きに捉える。一方で人手不足で指定管理者が撤退し、4月から休館しているホテル佐多岬(南大隅町)の例もあり、人員確保に頭を悩ませる。
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 両施設の今後について、市は3月市議会の一般質問で「民間譲渡を含め、複数の企業と連携の可能性を協議している段階」と答弁。老朽化する施設に積極的には手を加えず、人員の適正配置と食堂廃止によるコスト削減などで、経費を圧縮する考えを示した。
 また、吹上支所がリードする形で地域住民ら約50人が参加する「ふきあげビジョン69」を22年11月に設立。両施設を含めた観光拠点や人口問題について定期的に話し合い、吹上地域全体の将来像をまとめる作業を行っている。
 4月19日、ゆーぷるの食堂跡のスペースで、自治会長らから要望の強かった「うどん・そば」の提供が始まった。近くに住む西園良夫さん(69)は「そばはおいしかった」と言いながら「周辺に食堂が少ないので、客を連れて行ける場所が減ったのは困った」と付け加えた。

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