突然“空き家”になった実家、「壊せない、直せない、売れない」で焦る息子…「実家のあと片付け」で慌てないための〈5つのポイント〉【空き家問題のプロが解説】

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今回の相談者、桧山太郎さん(仮名)の実家は、現在「空き家」になっています。解体にもリフォームにも大きな費用がかかることがわかっており、売りに出してみても問い合わせは一切ありません。放置しておくわけにもいかず、焦る太郎さん。こうならないなために、どんな準備をしておくべきだったのでしょうか。本稿では、株式会社JKASの「空地空家で困ったときのあなたの街の相談窓口」代表を務める森下政人氏が、「実家のあと片付け」のポイントを解説します。

築40年超の実家…一向に買い手が付かず、不安が募る

今回の相談者、桧山太郎さん(仮名)は大阪郊外のニュータウン出身の52歳サラリーマン。大学進学を機に上京し、新卒入社した都内の大手家電メーカーで奥様と出会いました。それ以来、お盆と正月以外は大阪に戻っておらず、現在は20歳の長男、17歳の長女と4人で奥様の実家近くの都内マンションで暮らしています。

1年ほど前に太郎さんの母が他界してから、76歳の父は太郎さんが生まれ育ったニュータウンの実家で一人暮らしをしていました。母亡き後、ヘルパーに身の回りの世話と高齢者向けの食事サービスを頼むことにしましたが、幸いにして父には1,200万円ほどの預貯金があり、実家の住宅ローンもすでに完済済み。年金を受け取りつつ、貯金を切り崩していけば当面の生活は心配なさそうでした。

しかし最近自宅で転倒してしまって入院した後は、家賃15万円のサービス付き高齢者住宅に入居することになりました。当然、実家で生活していた頃よりも出費が増えることになり、太郎さんは「父の貯金があと何年もつのか」という不安を抱くようになりました。

とはいえ、太郎さんには「いざとなれば実家を売却して資金を捻出すればいい」という考えもあります。

実家は大阪市内から電車でおよそ45分、最寄り駅からもバスで10分ほどの場所にある、築40年超の木造2階建。父が施設に入居してからは当然、「空き家」になっています。

家は誰も住まなくなると、途端に朽ちていきます。

長期間にわたって植木の剪定や草刈り、外壁の補修などのメンテナンスを行わなければ、排水口からは下水の匂いが立ち込め、害虫が侵入し、やがて雨漏りやシロアリの被害が発生します。雑草の伸びきった庭へは、外からペットボトルや空き缶、ひどい場合は自転車や家電製品などが不法投棄され、景観的にも防犯上も良くありません。

さて、このような場合には実家をどうするべきでしょうか?

太郎さんは東京に生活基盤があり、大阪に戻る予定はありません。実家を売却しようにも両親が生活していたそのままの状態ですから、家財道具の処分や解体には250万円から300万円ほどの費用がかかりそうです。

解体はせずに賃貸に出してみることも考えましたが、リフォーム業者から提示された見積りは500万円。解体するにしても、賃貸用にリフォームするにしても経済的負担が大きいことがわかったため、現状のまま不動産仲介会社に売却を依頼してみることにしました。

しかし立地も悪く、築年数もかなり経っていることから買い手は一向に付かず、父の生活費と施設の家賃支払いについて、太郎さんの不安は募るばかりです。

「人生の節目」のタイミングで老後についての話し合いを

これは、筆者が空き家の管理や空き家の有効活用、処分などについて受ける相談のなかでも、よくある事例の1つです。

「両親は元気だし、問題ない」と多くの人が考えていますが、「空き家問題」は突然やってくるものです。空き家問題は決して特別なものではなく、多くの人の身近にある、待ったなしの問題なのです。

では具体的に、「実家のあと片付け」はどのようにして行えばいいのでしょうか。

まず大切なことは、早い時期からご両親と親の老後について話をすることです。老後はどこで、どんな暮らしがしたいのかを聞き出すようにしてみましょう。

聞き出すタイミングは、親の定年の時期や友人の冠婚葬祭など、人生の節目が訪れたときです。

元気な親に対して老後の生活や相続の話を切り出しにくいのは事実ですが、老いが進めば、頑固になってしまって余計に話しづらくなるというのはよくあるケースです。

以下、親が元気なうちに話し合っておくべきこと、準備しておくべきことについて、5つのポイントを解説します。

1.終の棲家について

介護の要・不要によって、住まいの選択は大きく異なります。自宅に住み続けたい場合は、手すりの設置などのバリアフリーに対応したリフォーム工事を行うほか、場合によっては建て替えが必要になるかもしれません。家の階段の上り下りが大変だったり、自動車の運転が不安だったりする場合は街中のマンションに引越しするという選択肢もあるでしょう。また、介護が必要な場合は、施設探しを始めるべきといえます。

2.実家を維持したいのか売却したいのか

施設や病院に入ることになったとしても、「いつでも帰れる場所」があることは重要です。先祖代々の土地を守るなどの想いもありますし、親族としての故郷を保つことができるメリットも多いです。

空き家になった家を維持する費用や手間が掛かるというデメリットもありますが、子が将来的に仕事を辞めて老後は実家に帰ってゆっくりと生活する、経済的理由で行く場所がなくなった場合に実家に避難するといったことも想定できるため、「両親の住まい」という視点以外からも、実家の行く末について話し合っておく必要があります。

3.家に関する書類を揃える

家に関する書類の中で重要なものはいくつかありますが、「登記識別情報通知書(登記済権利証)」はもちろん、譲渡所得税の計算の際に必要になる実家を購入したときの「不動産売買契約書」と、諸費用の領収書がなによりも大切です。

4.「親と一緒に」要らないものを早めに処分をする

捨てることがもったいない気持ちは大切ですが、歳をとると億劫になり家の片付けができなくなってきます。子供時代の洋服やおもちゃ、お客様用の布団、古い雑誌などで収納がいっぱいになり、納戸が足の踏み場もない状態になっているケースは珍しくありません。

ただ、親の価値観を無視して「これはいらないでしょ!」と勝手に処分するのは控えましょう。ここで揉めると余計なトラブルに発展する可能性があります。

5.親の資産について把握しておく

親と一緒に要らないものを処分する一番の理由は、重要なものがどこにあるのかを整理して保管しておくためです。不動産関係の書類や預金通帳、有価証券、保険証券、貴金属などはしっかりと管理してください。

相続が発生した際に遺産がどれだけあるのか把握するためには、一緒に片付けをしながらでないと、本人も忘れている可能性があるからです。

話し合いは親が元気なうちに

ほかにも課題はたくさんありますが、まずは上記5つについて話をしてみましょう。

親が認知種を発症したり、突然相続が発生したりすると金融機関の口座などの資産は「凍結」され、すぐには動かせなくなります。

口座凍結となってしまえば、認知症になった親の病院代や生活費が引き出せず、介護期間が長期化するほど、肩代わりする子ども自身の生活が困窮することは明らかです。

相続が発生した場合も、遺産分割協議などすべての相続手続きを済ませて必要書類を提出しなければ、払い戻しはできません。

なにより親が元気なうちに、よく話し合って準備しておくことが大切です。

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