「戦争をあおっているのは日本」 防衛増税と敵基地攻撃能力保有に批判や懸念の声相次ぐ

 平和主義をうたう憲法を横目に、再び戦争への道を歩むのか。国会での議論もなく、増税による防衛力強化や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に道筋を付けた16日の閣議決定。反戦を訴える人や識者からは、懸念の声が相次いだ。

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◆「怖さが共有されてない」安保法案反対デモにも参加した早大生

 中学生だった2015年に国会前の安保法案反対デモに参加した早稲田大2年の吉田武人さん(20)は、政府方針を「この10年ほどの流れを見れば驚かないが、軍拡が進む怖さがリアルに共有されていない」と憂う。

首相官邸前で軍事費が増大されることなどについて話す吉田武人さん

首相官邸前で軍事費が増大されることなどについて話す吉田武人さん

 岸田政権は国民に議論を起こさせず、見えないところで進めている印象といい「改憲や軍拡を前面に出さない岸田さんのカラーに欺かれないようにしないと」。

 相模原市の米軍基地近くで生まれ育ち、低空飛行するヘリの騒音などが身近で、安保政策に疑問を持った。「自分の生活圏にいる米軍と一体化してしまうような政策に危機感」から15年のデモへ。その後、地元で反戦運動や戦争経験の記憶継承に関わった。ただ、同世代やより若い世代では反戦意識が薄いと感じる。

 防衛費増は復興特別所得税や法人税の増税を伴う。「庶民生活に関係ないという印象でかわしたいのかもしれないが、何が財源でも反対。歴史に学び、東アジアの緊張緩和のイニシアチブを取ってほしい。自主外交の道を切り開いて」と政府に求める。 (奥野斐)

◆「戦争の姿が鮮明に」ベトナム反戦運動も経験した74歳

 「戦争の姿が鮮明になってきた。平和が遠のいている」。東京・新宿駅西口地下広場でほぼ毎週、土曜日に反戦を訴えている世田谷区の主婦大木晴子せいこさん(74)は、敵基地攻撃能力の保有に危機感を募らせる。

新宿駅の西口地下広場でスタンディングデモを続けている大木晴子さん

新宿駅の西口地下広場でスタンディングデモを続けている大木晴子さん

 ベトナム戦争反対運動も経験、広場にはイラク戦争前の2003年2月に立ち始めた。01年の米中枢同時テロで、戦争の足音が近づいたと感じてのこと。プラカードに「軍拡反対」「武力で平和つくれない」などと記し、無言で訴える。

 防衛費拡大の財源に復興特別所得税を転用する方針には「あまりに被災地をばかにしている。復興のためのお金を使う神経が理解できない」と憤る。今月10日に広場に立った際、「戦争止めて」という仲間のプラカードを見た男性が立ち止まり「そうだよね」と声を掛けてきたといい、政府方針に反対する世論は確実にあると考えている。

 ただ、15年の安保法案の国会可決時のような盛り上がりには程遠い。「『自衛隊が大きくなると安心だ』との思いが浸透している感じがする」 (加藤益丈)

◆「本質は米国の意思だ」京都精華大の白井准教授

 戦後日本の対米従属構造を分析する「永続敗戦論」などの著書がある京都精華大の白井聡准教授(45)は、安保関連3文書について「国会での議論はなく、非公開の『有識者意見聴取』を基に方針を決め、国民に示したのは要旨だけ。そもそも有識者会議など儀式に過ぎない。本質はシンプルで米国の意思だ」と語る。

京都精華大の白井聡准教授(本人提供)

京都精華大の白井聡准教授(本人提供)

 米国はトランプ政権以来、日本や北大西洋条約機構(NATO)など同盟国に、軍事費の負担増などを求めてきた。ロシアのウクライナ侵攻で「日本でも防衛費をGDP2%に、という流れに弾みが付いた。増額分の多くが米国製兵器を買うことに費やされるだろう。岸田首相は5月に大増額をバイデン大統領に約束していた」と話す。

 岸田政権は2023年度から5年間の防衛費として総額43兆円を確保するとし、そのための増税もいとわない。「子育て・教育支援には『財源がない』と言いつつ、防衛費は手段を尽くして拡大させる。今年の出生数は80万人を切って過去最少を更新する見通しなのに」と指摘する。

 その上で「米中対立は覇権闘争だから落としどころが見えない。米国はその中で日本に何をやらせようとしているのか、中国の状況もしたたかに探り、付き合い方を考えなければ。日本と米国、中国の共存共栄の方法を、日本が主体的に打ち出す必要がある」と警鐘を鳴らす。 (望月衣塑子)

◆「敵基地攻撃とは先制攻撃にほかならない」首相官邸前で抗議行動

 敵基地攻撃能力の保有や防衛費増に反対する市民団体の抗議行動は16日午後も東京・永田町の首相官邸前で行われた。約60人(主催者発表)が「閣議決定するな」「防衛増税やめろ」などと声を上げた。

首相官邸前で開かれた集会で防衛費の増額に反対する人たち=東京・永田町で

首相官邸前で開かれた集会で防衛費の増額に反対する人たち=東京・永田町で

 平和団体などでつくる「大軍拡と基地強化にNO! アクション2022」などが呼び掛けた。そのメンバーで練馬区を拠点にする池田五律いつのりさんは「政府は中国の脅威を強調するが、『中国は台湾が独立宣言しない限り武力行使しない』と言う専門家もいる。戦争をあおっているのは日本」と指摘。「(政府は)敵基地攻撃と称しているが、先制攻撃にほかならない」と批判した。

 参加した70代女性は「日本には多くの原発があり、攻撃されると重大な影響が出る。そんな状況で戦争ができるはずはない。政府はなぜ分からないのか」と話した。 (加藤益丈)

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